前回はWTTなどに参戦する選手たちの経済的負担について説明したが、議論すべき問題点がある。
協会が費用負担する選手は少数だが、WTTに参戦する選手は例外なく日本代表としてオフィシャルサプライヤー(男子:VICTAS、女子:ミズノ)のウエアを着用する。胸や袖には協会のナショナルスポンサーと言われるANA、全農、スターツなどのスポンサーロゴが入っている。
しかし、実際に協会が費用を負担しない選手たちやその母体は、日本代表ウエアではなく、スポンサー名のついた個人のウエアをを着たいと考えている。自己負担となった場合、ある選手は大学、ある選手はメーカーや所属母体が費用を出しているとしたら、彼らが自分のスポンサーロゴの入ったウエアを着たいと考えるのは自然なことだろう。
プロ選手ならば、選手自身やマネージメント会社がスポンサーを獲得しようとする。胸や袖にスポンサーロゴのワッペンなどを貼ることでスポンサーを露出させる。ところが、トップ選手でもそのウエアを着て試合をするのは全日本選手権などごく一部の大会に限定されているために、スポンサーにアピールできない。
一方、協会も「日本の卓球選手が活躍して、露出されますから」という前提でスポンサーから協賛金を得ている。2023年度は約3.3億円を見込んでいる。当然、すべての日本代表が代表ウエアを着てほしいと思うだろう。
ここで、「自己負担なら代表ウエアではなく、個人のウエアを」と考える選手側と、「協会がエントリーして日本代表としてWTTに行くのなら、代表ウエアで」という協会側で考えは相違する。
おそらくドイツ同様、日本卓球協会もジュニアを手厚くサポートして、シニアになったら「基本は選手自身で」というスタンスだろうし、強化予算は無尽蔵にないので、ジュニアへの割り振りが多くなるのも理解できる。
ドイツの例はわかりやすい。ドイツ卓球協会が負担する大会(オリンピックや世界選手権など)や、WTTでも協会負担の選手に関しては代表ウエアを着る。しかし、自己負担の選手に関しては個人ウエアもOKにしていて、これは理にかなっている。その代わり、選手がの自己負担の場合は個人ウエアを着てもよいが、自分たちでエアチケットやホテルを手配する。
ドイツ在住の梅村さんは「日本選手は甘やかされていると感じるところはあります」と指摘するが、「恵まれている」ように見える環境が、見方を変えると「甘やかされている」ようにも見えるということだ。言葉の問題もあり、国内でプレーするだけの日本選手が自立できていない面があるのも否定できない。経済的な負担を口にする選手や関係者の気持ちはわかるが、日本選手は他国と比べれば相当に恵まれているように感じる。
近年、特にTリーグができてからプロ選手は増えてきた。同時に、選手たちは自分の強さの指標として「世界ランキングを上げたい」と思ってWTTに参戦している。プロ選手というのは独立した「自営業者」だ。それならば、協会に頼ることなく、自分自身で大会に参加すれば良い(もちろんWTTには世界ランキングなどの出場するうえでの縛りがあるが……)。その代わりに個人のウエアを着る。
ただし、WTTで勝ったとしてもそれで生活できるほどの賞金は出ない。以前、2週連続WTTコンテンダーで優勝したカルデラノのコーチは「賞金が少なく、費用を計算したら赤字になった」とこぼしていたが、これはブラジル卓球協会にも予算がなく、大会の賞金額が小さい結果だ。
現状、卓球の世界市場が小さいのだから、この状況はやむを得ない。ちなみに、カルデラノは先週WTTコンテンダー・マスカット大会で優勝したが、優勝賞金は5000ドル(約75万円)で、コーチが帯同しているために、経費は軽く100万円を越えるので、優勝したとしてもマイナスになる。WTTの大会で結果を残し世界ランキングを上げることと、プロとして収入を得ることがイコールでないことも、プロの卓球選手にとっては頭痛の種だろう。
日本卓球協会が海外に挑戦するすべての選手を金銭的にサポートするのは不可能なのだから、日本のプロ選手たちは、自立したプロフェッショナルとして活動するしかないだろう。
一方で協会も選手を縛るのではなく、選手の自立を促してはどうだろうか。もし選手たちが「個人のウエアを着たい」と強く思うのならば、正面から協会と話し合い、個人のウエアを着られるように交渉すべきだ。それは「選手たちの生活権」を守るための話し合いでもある。
「プロ選手としての自由」は与えられるものではなく、勝ち取るものなのだ。
Photo=WTT
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