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Tリーグ

世界最高峰のTリーグへの期待とその意味

 卓球の新しいリーグ、Tリーグのチームユニフォームの発表会が昨日8月2日に行われた。
 100人を超えるメディアが発表会の場所である六本木ミッドタウンに集まった。徐々に10月24日・25日のTリーグの開幕戦も近づいていることを実感させた。
 世界的に見ても、選手レベルでは中国の超級リーグがトップと言えるが、長く世界最強を誇ってきたドイツのブンデスリーガを、選手レベルでも予算規模でもTリーグは上回っている。
 ようやく開幕のステージが見えてきたTリーグだが、ここまでの道のりは平坦なものではなかった。「日本リーグとの共存共栄」という名のもとにアマチュアリーグの日本リーグとの「合同リーグ」にしようとしたが、これは無理矢理感があり、結実しなかった。
 「2018年秋に開幕する」というお尻(締切)だけが決まり、時間的に余裕のない中で、今年1月にようやくトップリーグのTプレミアに参戦する男女4チームずつが決まった。
 しかし、いまだにメインスポンサーやテレビ放映やネットのストリーミング関係の発表はない。Tリーグの一般の人への露出度が決まらないとスポンサー獲得もなかなか進められないというボタンの掛け違いも否めない。日々、東奔西走するTリーグの松下浩二チェアマンだが、卓球に精通した右腕になるような存在がいないのも残念だ。
 松下チェアマンはTリーグ創設の中心的人物。日本のプロ第一号で常に卓球界ではパイオニアとして歩んできた男だが、Tプレミアというプロリーグの創設とスタートがこれほど苦難に満ちたものだったとは想像していなかっただろう。
 松下チェアマンにとっては、卓球界の順風が実は逆風だった。
 サッカーのJリーグ、バスケットボールのBリーグの共通項は、「どん底からの出発」だ。ワールドカップにも出られず、日本リーグでは閑古鳥が鳴く日本のサッカー界にとって、選手のレベルアップとプロ化は死活問題だった。
 バスケットボール協会にとっても、二つのプロリーグが存在し、国際バスケットボール連盟から「1国1リーグが望ましい」と通達を受け、その後、資格停止処分を受け、国際大会に出場できないという事態を招いていた。
 ネガティブな環境というのは、時に大きなエネルギーを生み出す。情熱を持った人たちがひとつにまとまりやすいし、いろいろなことを変革しやすい。
 ところが、現状の卓球界を見てみると、リオ五輪以降、空前の卓球ブームとも言える好況を迎えている。卓球人気は高まり、競技人口も増え、卓球市場も右肩上がり。水谷隼、福原愛、石川佳純の後に、伊藤美誠、平野美宇、張本智和と次々と才能ある若手選手が続き、確実に世界の頂点に向かっているのが日本の卓球。まさに順風だ。「変革」という言葉は誰も口にしない。
 卓球界には「今何かを変えなくてもこのままやっていれば卓球人気も維持できるし、世界で勝てるかもしれない」という空気が流れており、危機感は薄い。
 そういう状況の中でスタートするTリーグ。スポンサー獲得を考えれば2020年東京五輪の前に開幕したい、と思うのは無理もないが、「凪の状態」で帆船を繰り出したために必死に風をつかみ、人力のオールで漕いでいるようにも見える。
 Tリーグは東京五輪以降の卓球界を左右する大きな鍵を握っている。2020年までスポーツ界、卓球界が盛り上がるのは自明だ。問題は、五輪以降の卓球人気と競技基盤だろう。そのためにTリーグが存在すると言っても良い。
 世界の卓球界で覇権を狙う国でありながらプロリーグを持たなかった日本。松下チェアマンの尽力と日本卓球協会の後押しで実現するTリーグ。このプロリーグが成功し、その組織の裾野が広がっていけば、全国各地に強豪チームが生まれ、プロ的環境が整っていき、より世界の頂点に近づくことになる。
 ただ、Tリーグへの期待が大きいだけに、各方面から「リーグの対応が遅い,決めごとがなかなか決まらない、JやBのようなパッションを感じない」という不満の声も挙がっている。半年前までは本当に選手が集まり、リーグは開幕できるのかと誰しも心配していた。しかし、 世界のトップ級の選手が各チームに集まり、世界最高峰のプロリーグとして、日本のTプレミアは10月24日に開幕する。「世界制覇」という日本の卓球人の夢を乗せ、一般の方々の卓球への注目を集めながら、今後はTリーグの組織そのものも強化されていくだろう。
 昨日の会見、東京の六本木ミッドタウンの屋外のイベント会場は暑いだけでなくマスコミの注目も熱かった。多くのメディアの人とカメラの砲列。その熱気は卓球界の熱気でもある。
 Tリーグはは間違いなく、卓球のプロ選手の数を増加させ、卓球を生業とする人たちの数を増やしていく。そして、それは目の前の勝利ではなく、卓球界の5年後、10年後、20年後の勝利を下支えする、大きな事業の第一歩になるだろう。
(卓球王国編集長・今野)

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