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今野の眼

日本のレベルの高さを見せつけたTリーグ個人戦。選手は「五輪選考」を意識したのか!?

芝田に対して完勝した平野美宇。強さが増しているが、早田には力及ばず

 

「国際競争力」から「国内競争力」に、
選手たちはどう対応するのだろうか

日本はある時期から、国際大会での成績、世界ランキングを重視し、1年に一度の全日本選手権はチャンピオンになれば世界選手権などの推薦となるが、あくまでも国内のひとつの大会として位置づけられた。(その前はまるで世界選手権の予選のような位置づけにされた時期が長く続いていた)
これは「国内での強さ」と「体外的な強さ」が違ったためで、20年以上前から「国際競争力の高い選手」を世界代表、五輪代表に選ぶ際に、国際大会での成績、世界ランキングや対中国戦の強さが大きな指標になっていた。
ところが、東京五輪直後の9月に日本卓球協会が発表した「パリ五輪に向けての選考基準」は、ワールドツアーの代替えとして誕生したWTT(ワールド・テーブルテニス)が機能せず、有望な若手を国際大会に送り込めずにチャンスが平等に与えられない、世界ランキングは正確でないなどの理由で強化本部は、異例とも言える「国内選考会とTリーグ、他の主要なアジア、世界イベント」での成績によって獲得ポイントを設定して、その獲得ポイントで五輪代表を決めるという方針を打ち出した。

国際大会も含まれているとはいえ、20数年間の方針を軌道修正するようなやり方であり、宮﨑義仁専務理事(選考基準作成時は強化本部長)はすでに選手に対する説明会を行い、WTTのイベントが増え、若手も国際大会への参戦を始めている今も、変更する意思はないようだ(明日の卓球王国WEBで「宮﨑専務理事独占インタビュー」を掲載)。
この状況を「国内競争力重視で、五輪のメダル獲得戦略ではなく、国内で強い選手が代表を獲得するための戦い」と揶揄(やゆ)する人もいるが、今の日本選手のレベルは「世界レベル」なので日本で勝つ選手が世界でも勝てると確信しているのだろう。

「ノジマカップ2022」では国内戦とWTTなどの国際大会との微妙な違いも選手のコメントからは感じられた。
「国際大会で久しぶりに出て感じたのは、日本で勝つのと海外で勝つのでは違う。速さだけを求めると海外の選手のパワーに押されて、ラリーで思うようにプレーできない。また新たにフォアハンドで強いボールを打って、というやり方でいくのか……なんか難しいですね。
選考会に集中すると、日本っぽくやればいいし、そのまま海外に行くと、彼らは守備力も高いので、同じようにやるのでは難しい。海外に向けたプレースタイルも見直したい」(男子準優勝の吉村真晴)
「最近海外の選手と対戦してるけど、国内の選手と対戦するほうが難しい。負ける回数も増えているし、勝ち続けることがすごく難しい。中国選手や海外の選手とやるのと違うので、国内の選手とやるとこうなるんだなと確認できた」(伊藤美誠)
「日本のレベルが高くなってくる中で、自分の特徴を作っていくことが大事、自分にはこれがあるというものを持っていることで、たくさん対戦する国内選考でも勝ち上がっていける。日本代表選考なのでポイントが頭に入ってしまったり、考えすぎるとナーバスになってしまうので、あまり選考のことを考えずに挑戦者の気持ちでやったのが良い結果につながった」(女子準優勝の平野美宇)。

 

多くの選手にチャンスを与えることによって
メダルを失う可能性も起こり得る

 

今の状態では五輪を狙う選手たちは国内選考会重視の方向に向かう。ましてやいくつかの選考会が世界選手権やアジア選手権の選考会を兼ねるのであればなおさらだ。
しかし、一方でトップ選手たちはWTTにエントリーし、タフなスケジュールをこなしながら参戦を続けようとしている。まるで二律背反のような目標設定の中で選手は日々を過ごしている。
従来のような「世界ランキングでの五輪代表争い」はトップの男女数人だけが対象となる。もちろん、そのために地道に大会に出続け、ランキングを2、3年間かけて上げていき、最後の1年間でラストスパートに入る。東京五輪の代表レースを死闘の末に勝ち抜き、代表権を得た石川佳純はこう評した。「こういうレースは長くて、まだまだ始まったばかり。リードしていてもされていても結局同じくらいになる」(Tリーグ ノジマカップ2022にて)

国内選考会とTリーグなどの対象大会のポイントが重要視されれば、現時点ではITTFが発表した「世界ランキング上位2名」に入るのが厳しい世界ランキングが100位以下の選手にとっては大きなチャンスとなる。そういう意味では多くの選手にチャンスを与えているのは事実だろう。
ただし、もし世界ランキングで50位以下、100位以下の選手が日本代表となれば、日本男子の世界チームランキングは現在の3位から、五輪の時のシードを決める(五輪出場選手による)チームランキングが5位以下に落ちていくだろう。選手へより多くのチャンスを与えるということは、一方で、メダル獲得の確率を低くするというリスクを高めることになる。2012年ロンドン五輪以降、協会の強化本部は戦略的に「五輪メダル獲得作戦」を展開し、「世界ランキングが人質になっている」と言われながらも、トップ選手にチャンスを与えつつ、最後は選手同士の競争に結果をゆだねてきた。その結果、五輪でメダルを獲り、卓球人気を押し上げた。
今回は強化本部の戦略よりも「より多くの選手にチャンスを与える国内競争」に切り替えた。その結果が「卓球の人気」に影響を与えるというリスクを冒してでも、そこにこだわる理由は明日の卓球王国WEBでの宮﨑専務理事のインタビューで明らかになるのか。

パリ五輪まで2年を切った。五輪代表を目的とする選手と、パリ五輪でメダルを獲ることを目指す選手がいる。
選手にとって五輪がすべてではない。しかし、選手の人生や卓球界の命運を変えてしまうのも五輪である。

 

決勝後にファンのために場内を一周した張本と吉村。緊張感のある試合のあとでもファンへの気遣いを忘れない

 

優勝後にファンの声援に応える早田は「9月から始まるTリーグの応援もお願いします!」とアピール

 

 

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