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「中国に勝てるのは日本だけだ、ということを世界中に示した」田㔟監督、10月8日の成都を振り返る

中国との準決勝。日本は王者を追い詰めた

 

2番で張本に敗れたが、ラストで勝ちきった王楚欽

 

「胸を張ればいい。

素晴らしい試合だった。

世界中にインパクトを

与える試合ができた」

 

●−そして戸上対王楚欽、第1ゲームでリードします。

田勢 9−4ですね。「これ中国に勝つぞ」という雰囲気になっていたと思う。しかし、そこで戸上のサービスミスでした。表彰式のときにもドイツのロスコフ監督が寄ってきて、「ナイスゲームだった。良い試合を見せてくれた、ありがとう。でも9−4のサービスミスと、その後のレシーブミスのところが試合の重要なポイントだったね」と言ってきた。負けはしたが最後まで諦めずに勇敢に戦った試合だった。本当によくがんばってくれた。

 

●−世界中の卓球ファンがその奇跡の瞬間を見ようとしていた。

田勢 ぼくだけじゃなくて、世界中で見ている人が、日本が中国に勝つのかと思ったでしょうね。1ゲーム目の9−4のところは確かに重要なポイントだった。それで追い上げられて、9−8でタイムアウトを取りました。

 

●−あのタイムアウトは良かった。田㔟監督は早めのタイムアウトが多いですね。どういうアドバイスを言ったのでしょう?

田勢 ぼくは絶対1ゲーム目を取りたかった。タイムアウトでは、戸上がサービスだったので、王楚欽は大事なところでチキータをしてくる選手なので、戸上に「チキータをさせたくないのか、チキータを待つほうが良いのか」と聞いたら、「チキータを待ちたい」と言ってきた。それだったら強い下回転を出すと、ビタッと止められるか、すごく回転の掛かったチキータが来るので、それならチキータをさせるためにナックルか横回転系を出してチキータをさせて狙うという作戦でした。

そうしたら王楚欽は一瞬、長いサービスが来ると思ったのか、回り込んで、フォア前への入り方が遅くなり、レシーブミスをしてくれました。

9−8でサービスで点を取り、10−8。しかし、その次をレシーブミスしてしまった。本人も勝負に出ているところだけど、勝負に出たときでも絶対にミスをしないことが今後の課題ですね。でもそのゲームを取って1−0にしたあとのゲームを見たかったですね。

 

●−さすがにラストで1ゲーム目を落としていたら王楚欽もぶるうでしょうね。

田勢 ラストが馬龍だったら落ち着いてプレーできるだろうけど、まだ経験の少ない王楚欽だから、あのラストの場面なら実力も同じになると感じていたし、チャンスはあると。

 

●−結果、戸上はストレートで敗れたけど、胸を張って良い中国戦だった。戦い終わった後にまず何を考えたのでしょう?

田勢 選手に言ったのは、「負けたけれどもネガティブにならずに胸を張っていい。素晴らしい試合だった。世界中にインパクトを与える試合ができた」と言いました。「中国に勝てるのは日本だけだ」ということを世界中に示した試合でした。負けたのは確かに悔しいし、満足はしてないけど、あの戦い方に関しては100点をあげたい。

 

●−戸上にしても、表彰式ではメダルの笑顔はなくて、中国戦での悔しさをまだ持っているんだなと感じました。逆にそれは日本のこれからの可能性を感じさせるものでした。

田勢 戸上については、中国戦までの戦い方、各チームのエースを次々倒した結果と、そのプレーはポジティブに考えてほしい。ただ、決勝のあの場面で負けたのは悔しいと思うけど、自分に足りなかった部分は今後取り組んでいく課題だと思います。「智和が2点取ったら、次は俺だ」「中国に勝つためには自分に何が必要なのか」を考えて今後も行動してほしいです。

 

●−張本の2勝の中国に与えた打撃は大きいでしょうね。

田勢 今後、中国はさらに気持ちを引き締めて研究してくると思いますが、我々も一つひとつの課題に向き合い強化していくだけです。

 

●−2大会ぶりのメダル、初出場も3人、中国に2点取った成都大会。今回の大会の総括をお願いします。

田勢 コロナ禍での試合でいろいろと制限もあり、大変だったし、直前に(丹羽)孝希の欠場もあったりとか、いろんなことがありました。予選もどうなるかわからなかったのに、グループを1位で通過して、メダルも獲得してくれて、正直ホッとしています。選手たちは素晴らしい試合を見せてくれた。中国に対してあれだけの試合ができたことは自信を持っていいと思うし、今後の若い選手たちにも中国に勝つのは俺たちだという気持ちで、その可能性にチャレンジしてほしい。これでより卓球が盛り上がるだろうと思っています。

一方、中国というあの大きな組織、チームに勝つにはどうしたら良いのかと考えています。智和のようなレベルの選手をあと二人育てなければいけない。また男子は他のチームも強豪揃いなので常に危機感を持っています。

 

●−パリを前にして、ドイツ、韓国、フランス、スウェーデンと若い選手が台頭しています。世界の男子が世代交代しているように見えました。

田勢 そうですね、どの国も若い選手が出てきているし、日本も智和クラスの選手を育てなくてはいけないし、若手の育成に拍車をかけこのチャンスを逃したくない。

 

●−今の日本はパリ五輪までは育成ではなく、国内競争が最優先で、育成ができない状況大会の期間中には選考ポイント対象のTリーグも開催され、あれだけ日本代表メンバーは頑張ってくれたのに、その期間中にTリーグに参戦した選手にポイントが与えられています。

田勢 難しい質問ですね、最後はその数ポイントが影響してくると私も選手も感じてはいます。

 

●−たとえば中国から2点取った張本だったら、早めに五輪代表として推薦しても良いくらいですね。

田勢 五輪で中国に勝つことを考えたらそう考えます。もし彼が選考会とか、他の大会で故障とかで出られないとなったら日本チームとしては非常に痛手です。しかし国内の選考会も進んでいます。その中で日本男子選手たちには「国内志向」ではなく、世界で勝てるプレースタイルを目指してほしい。最近男子はTリーグに所属しながら積極的な自費参加やドイツ、海外リーグに行く選手も増えているのは良い傾向だし、その中で選考会もあって大変だろうけど、世界にチャレンジしたいという意識を持つ選手が増えているのは良いことだと思います。

 

●−田㔟監督としても初の世界選手権大会でした。ベンチに入ってみて、世界の男子卓球は変わってきているのでしょうか?

田勢 それほど大きくは変わってないと思う。いろいろある中で大きくはフットワーク力、両ハンドのバランス、両ハンドのパワーと決定打があることが目立ったところだと思います。今後も若い選手は国際大会、海外での経験を増やさなければいけない。今は国内の選考会で勝たなければいけないけれども、その中でも同時に世界で勝つことを目標に様々な経験を積んでいってほしいと思います。

1週間経って、日に日に「中国に勝ちたかった」という気持ちが強まっています。じゃ、その中で中国にどうしたら勝てるのか。世界の頂点に立つための強化や今後について自問する日々です。男子の競争は非常に厳しいです。常に危機感を持ちながら今後もチャレンジしていきたい。

●−ありがとうございました。

 

準決勝の中国戦で挑戦していく戸上

 

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