卓球王国 2024年12月20日 発売
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今野の眼

拝啓WTT様、横位置のカメラはやめてくれませんか。ボールがよく見えません

「スローで使うのは大賛成ですが、
メインにするのは疑問に感じます」(伊藤条太)

卓球コラムニストの伊藤条太氏はかつてITTFのシャララ元会長にカメラ位置に関してメールで直訴したことがある。
「一般的に卓球の試合の放送では、メインのカメラを観客席のかなり上の方に設置します。そうすると、プレー領域からかなり遠く、見下ろす形になります。これだと、画面に遠近感がないためにボールが遅く見えますし、それでいて画面上のボールの動く距離は大きい(見下ろしているため)ので、目で追いづらくなります。卓球の重要な要素であるボールの高さもわかりづらくなります。
そこで、カメラをコートに近く低いところに置くことを提案しました。現在、リプレイに使うカメラの位置ですね。こうすると、画面に遠近感があるのでボールが手前から奥にものすごい速さですっ飛ぶように見えます。それでいて実は画面上のボールの動きは遅い(手前から奥への動きなので)ので目で追いやすい。ボールの高さもわかります。手前の選手によって向こうの選手が隠れるとか、手前の選手が大きく動くと画面から外れるなどのデメリットもありますが、左右にカメラを設置することと、カメラワークを上手くすることで対応できます。
私はかつて卓球王国の一員として全日本選手権の動画撮影を担当していましたが、理想的な撮影をできたと思っています。
残念ながらこうした提案は、ITTFには相手にされませんでした。
今回WTTが採用している横からの撮影は、最初は斬新だと思いました。ボールの高さや弧線、長さ、選手のスイングなどがよくわかって非常に面白いと思いました。ただ、画面上のボールの動く距離が、おおよそ画面の横幅の3分の1程度と長いので、長く見続けるのは非常に疲れます。
ときおり使うとか、リプレイに(横位置を)スローで使うのは大賛成ですが、メインにするのは疑問に感じます。
横長の画面にフィットするように、競技領域も横長に映すというのは、自然な発想ですが、問題は相手が他ならぬ卓球だということです。実戦の攻撃球のスピードは時速60kmほどであり、卓球台の端から端まで横切るのに0.16秒しかかからないのですから」

2018年のワールドツアーのカメラ位置<A>。かなり上のカメラ位置だ

 

世界選手権でテレビ東京が使っていたアングル。高さとしてはAに近い

 

Cのカメラ位置。卓球の迫力が最もわかりやすい位置だ

 

同じCの位置のカメラの右利きのバック側から撮ったケース

 

Bのカメラ位置。選手も重ならず、選手の体でボールが隠れることもない。「ベストのカメラ位置ですね」(伊藤氏)

 

 

テレビの撮影や放送では、選手がフレームから消え、ボールが一瞬とは言え、見えなくなるのを嫌がる。だから上からのカメラ位置や横位置からの撮影にこだわる。
残念ながら、スポーツビジネスのプロがWTTにいるとしても、卓球のプロや「卓球のテレビ観戦好き」はいないようだ。

卓球の試合興行があったとき、卓球ファンはどこの席のチケットを買うのだろう。チケットを買う人は卓球台の真後ろのアリーナ席で見ようとする。横でもなく、会場3階席の高いところでもない。
卓球ファンは一番卓球が見やすく、楽しめる席を買う。つまり、コートの後ろが一番卓球が楽しく見える「場所」なのだ。
WTTの関係者よ。新しく創造したい気持ちはわかる。ただし、創造が新たな改革ではなく、既存のものを改悪させることもある。
拝啓WTT様、一般のファンの声に耳を傾け、横位置のカメラはやめてくれませんか。 敬具 今野

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