この男のところにプロ選手もアマ選手も集まってくる。具体的な収入の金額は差し控えるが、日本のトッププロ卓球選手がTリーグで稼ぐ年収よりも多いかもしれない。そんなプロコーチはヨーロッパにもいない。中国にも果たしているのだろうか・・・。
中国で生まれ、全中国でチャンピオンになった。その後、ドイツに渡り、ブンデスリーガで活躍した後に指導者の道を歩んだ邱建新(きゅう・けんしん)。かつてはドイツの「フリッケンハウゼン」を監督として優勝に導き、「コーチ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた経歴もある。
埼工大深谷高、青森山田学園でも毎年のように臨時コーチを務め、「吉田安夫先生(故人)からは選手の管理方法を学んだ」と語る。
ドイツ時代から水谷隼(東京五輪金メダリスト)のコーチを始め、のちにTリーグの初年度から木下グループのチーム監督を務め、本格的に日本を地盤としてコーチ業をスタートした。リオ五輪前から水谷、東京五輪前から石川佳純というような代表選手も指導した。
現在は大阪の藤井寺で「邱卓球塾」を開設し、日々Tリーガーや高校生、そしてA.ディアス(プエルトリコ・世界12位)などを指導している。
水谷は自身のインタビューで「ロシアのチームでヨーロッパチャンピオンズリーグの試合に出ていた時、邱さんから必ず連絡がくる。試合前にこういうふうにやれよ、と言ってくれる時もあれば、ライブ映像を見て今の試合はこうだったと感想も言ってくる。その内容がどうこうよりも、自分のことをちゃんと見てくれるということが心強いし、信頼できる人だと考えるんですよ。それが本当のプロのコーチです」(卓球王国23年2月号より)。
邱建新は中国語以外もに、英語、日本語、ドイツ語を操りながら選手へアドバイスを送る。「いつも私と一緒にいる日本人は私が話す日本語は全部わかる。水谷は英語も話せるから、もしタイムアウトを取ったら日本語でしゃべって、もう一度同じことを英語でもアドバイスする。ニュアンスを間違えないようにしている。石川には中国語でアドバイスをしていた」(邱建新・卓球王国3月号より)。選手への練習中のアドバイスも長々と話をしない。「長く話をしても選手は全部を聞いていないし、頭に入らない。私の場合、1、2分にまとめて要点だけを伝える」と実に合理的だ。
卓球に限らず指導者は男子選手を教える人は男子だけ、女子選手を教える人は女子だけ、という人が多い。それは男子と女子での接し方やコーチングの方法が違うからだろうと思っていたが、邱は水谷と石川を続けざまに教えたように、男女関係なくコーチをしている。「たしかに男女には一定の違いがあるけれど、男子選手でも、女子選手でも自分がその選手をしっかり研究していれば、男女両方教えることはそんなに難しくない。男女というより、選手は一人ひとり違うから、練習メニューもみな同じではダメ」(邱建新)。
そして邱がこだわるのは「数字」だ。「多球練習を4個1セットで、13セット。大体52球を打つ。大体50~60球の間が心肺機能にとってもちょうどよいという研究がドイツで言われていた。これ以上の多球練習は難しい。3球1セットでやる場合は15~18セットが適切」と語り、「水谷はフィッシュに自信を持っていた。彼のコーチを始める時にオフチャロフと水谷の試合でフィッシュを何回使って得点したか、ストップ、チキータで何点取ったかを全部計算した。水谷は3試合で27回のフィッシュをして2得点。30回ストップして5得点。チキータとフリックでも何得点したのかを全部計算して伝えた」と具体的に数字を示すのは「邱建新流」だ。
最後に、「なぜあなたのもとに選手は集まってくるのですか?」と聞くと、「卓球を教えることは会社が商品を売るようなものではない。プロコーチの私にとって卓球は結果が重要。選手が強くなることが一番の広告になる」と明快な答えだった。
邱建新はプライベートで選手と親密になるタイプではない。だが、東京を離れ、大阪で卓球場を開設した後も、水谷隼や丹羽孝希が挨拶に立ち寄り、東京からも教え子がわざわざ大阪に向かい。指導料を払ってコーチを受ける。
日本の指導者がこの「プロフェッショナル」から教わることは少なくない。
https://world-tt.com/blog/news/product/az311
↑最新号はこちら
ツイート