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2013年、日本の意地を見せた瞬間。世界メダリスト水谷と岸川のプライド

準々決勝でチャイニーズタイペイに勝ち、メダルを決めた水谷/岸川

 

水谷「彼らはぼくらに勝っていれば間違いなくメダルを獲得したと思う」

岸川「どんな大会でも金メダルを目指してやっていくしかありません」

 

男子と女子を比較するのは意味のないことかもしれないが、今まで日本女子への注目度が非常に高いのに対し、男子はマスコミの扱いが小さかったのは事実だろう。しかし、世界の関係者の中では日本女子よりもむしろ日本男子の将来性を高く評価する声が多かった。

今大会、日本女子の成績が振るわなかった分、日本男子の躍進と選手たちのポテンシャルに注目が集まった。特に水谷・岸川ペアがメダルを獲った男子ダブルスでは、本人たちのコメントにあるように、松平健太・丹羽孝希組、張一博・松平賢二組もメダルを獲るだけの実力を持っていた。その中でも、水谷・岸川対松平健・丹羽の試合は同士討ちとは言え、スリリングでハイレベルな試合となり、ゲームオールジュースの末に、まさに1本の差で水谷・岸川が勝利を手にして、メダルに近づいた。

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●─松平健太・丹羽孝希との対戦は、メダルへの大きなヤマだった。

岸川 この何年間のダブルスでは一番良い試合だった。彼らよりも上に行きたいとか、彼らに勝ちたいという気持ちは全くなかった。ただメダルを獲りたかったんです。メダルを獲るためには勝たなきゃいけない相手だった。メダルを獲るために頑張っただけです。彼らも他のパート(ブロック)に入っていたらメダルを獲ったペアだと思うし、ぼくらにもし勝っていればメダルを獲っただろうし、あるいはぼくらよりももっと上に行った可能性もある。そのくらい強いペアなので、あの試合で勝てたことでメダルに近づいたと言えます。

健太と丹羽とはできるなら世界卓球でやりたくはなかった。ずっと練習を一緒にやってきた仲だし、今回の日本の3ペアはどのペアもメダルを狙えるペアだったので、同士討ちでそのチャンスを潰すことはとても嫌だった。

 

●─全日本選手権でも負けているペアだったから、余計に難しい試合ではあったかもしれない。

水谷 全日本選手権の決勝でも負けていたし、ジャパンオープンでも負けているし、そういう意味ではリベンジしたい気持ちはすごくありました。こうやって勝つことができて本当にうれしいし、彼らはぼくらに勝っていれば間違いなくメダルを獲得したと思う。彼らは今まで全勝していた相手に、こういう世界の舞台で負けたことですごく悔しかっただろうし、そういう経験を与えたことは、日本にとってはプラスだと思う。こういう苦しい経験、忘れられない悔しさに耐えていくことによって、もっともっと二人は成長してくれると思う。今回、ゲームオールジュースで、相手にもチャンスがあったけど、大きな試練を与えたことは二人にとっても良かったと思います。

 

●─本当に試合では1本の差で決まった。その差とは何だったのだろう。執念とか、そういう気持ちの差だろうか?

水谷 何ですかね。思い切りですかね。迷わず、ロングサービスを多用したりというのが戦術面での勝因だった。

岸川 ぼくはその差はわからないですね。何で勝てたのかと聞かれてももわからない。向こうも勝つために最大の努力をしたと思うし、ぼくらも絶対勝ちたかった。いつも以上に気合いというか、声を出したし、執念というか、絶対にあきらめないでやったので、最後に勝ちが転がり込んできた。今回、あきらめなければ勝てるんだと思いました。ただ、その差というのはわからない。

 

●─あの試合でプレーした4人は今の日本男子を象徴していたと思う。4人のプレースタイルが非常に個性的で、一人ひとりが違うし、ダブルスとしても松平・丹羽ペアは速攻が持ち味だし、水谷・岸川ペアはラリーでの強さが持ち味です。自分たちが考える水谷・岸川ペアの強さとは何だろう。

水谷 バリエーションが多いですね。相手に的を絞らせない。ストップもあれば、長いレシーブもあるし、普通のサービスもあるし、YGやいろんなサービスも出せる。それに、ダブルスではひとりが強くてもパートナーが強くないと難しいし、試合の中で戦術を変えていく器用さがないと試合で勝てない。ぼくらはお互いがいろんなバリエーションを持っているし、目立った弱点もないので、相手が的を絞れないし、試合の中でぼくらがいろいろ変えていけるのが強みかな。

岸川 戦術の幅の広さが強みだと思います。ほかは自分たちの強いところで勝負するペアが多い。ぼくらは、いろんな特長があって、その時その時にあったもので勝負できる。サービスもいろんな種類を持っている。今回は、ダブルスのためにサービスの種類を増やしたし、レシーブもいろんなことができるし、ラリーになっても自信がある。後ろに下げられてから得点できる能力が他のペアよりはある。すべてが平均以上にできる点が強みじゃないかと思っています。

 

●─単純に4年前よりも強いペアになっているのかな。二人の世界ランキングも上がっているし……。

水谷 運の要素もありますね。今回タイペイのペアが優勝したりとか、ダブルスはその時の運とか調子とかに左右されやすいのは間違いない。たとえば、パートナーの調子が悪かったら、自分が何とかしなきゃいけないという心理になって、普段しないようなミスをしてしまうし、逆に自分ばかりミスしてしまうと「入れにいかないといけない」という心理になる。いろんな心理状況に対処しなければいけない。その時の運や調子で左右されることが多いんです。

 

●─これからのダブルスとしての目標は?

水谷 もちろん金メダル。どんな大会でもダブルスであればもう金メダルしか目指さない。銅メダルで満足することなく、常に「金メダルを獲れない時は悔しい」という思いでやっていきたい。

岸川 メダルを獲れたことは良かったと思うし、メダルを獲ること自体が相当難しいことで、それを2回もやり遂げたことは誇りに思います。でも、目指さなければいけないところはひとつです。どんな大会でも金メダルを目指してやっていくしかありません。

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喜び、誇り、悔しさ……様々な思いが頭をよぎり、胸に刻まれる中、水谷隼と岸川聖也は世界卓球での銅メダルを手にした。日本代表の同一ペアによる世界選手権の2個のメダルは、69年と71年に男子ダブルスでメダルを獲得した長谷川信彦・田阪登紀夫組以来、42年ぶりの快挙である。

2009年のメダル獲得からさらに進化し、さらに一人ひとりが世界のトップランカーとしての強さを身に纏ったこのペアは、銅メダル獲得のうれしさをかみしめながらも、その思いを金色のメダルに馳せた。

パリ大会でダブルスとしての自信を取り戻した。まだ二人のダブルスとしてのサクセスストーリーは完結していない。違う色のメダルを手にするまでは。

(文中敬称略)

 

水谷隼「やっぱりダブルスでは金メダルが欲しかった。

自分としては銅ではうれしくない」

岸川聖也「メダルを獲ること自体が相当難しいことで、

それを2回もやり遂げたことは誇りに思います」

 

 

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