卓球王国 2024年4月22日 発売
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業界のタブーに挑戦した「卓球グッズ2023」。明らかにされたESNという存在

 

卓球用具の歴史を作り上げてきた
「バタフライ」とモンスターに挑戦する
卓球テクノロジー企業「ESN」

 

17日に発売する別冊「卓球グッズ2023」ではドイツの世界最大のサプライヤー「ESN」へ潜入取材。「バタフライvs.ドイツ」というくくりの特集を組んだ。とは言え、別にバタフライとドイツラバーを比較しているわけではなく、それぞれの会社の歩みを通して、卓球ラバーにかける熱い思いを追いかけてみた。

2000年以前には「タンゴ」(ヨーラ)、「モリスト」(ニッタク)、「エクステンド」(ヤサカ)などがドイツ製テンションラバーの走りとしてヒットした。そして2000年以降には「ラクザ」(ヤサカ)、「ファスタークG-1」(ニッタク)、「ブルーストーム」(ドニック)、「ヘキサー」(アンドロ)、「ヴェガ」(XIOM)などのヒット作を飛ばし、最近では「V>20」(VICTAS)、「エボリューションMX-D」(ティバー)、「DNAプラチナ」(スティガ)などのハイエンドユーザー用のラバーを開発しているのが、ドイツのホーフハイムに本社と生産工場を持つ「ESN」だ。

1960年代以降の半世紀以上、世界の用具を牽引してきたのはバタフライ(タマス社)だ。ラバーとラケットの自社開発、自社生産にこだわり、メイド・イン・ジャパンとして「バタフライ=高品質」の高級ブランドの地位を築いてきた。
その業界のモンスターに立ち向かったのが1991年に創立されたドイツの「ESN」。DONIC(ドニック)ブランドの創業者だったドクター・ゲオルグ・ニクラスがDONICを売却して、それを資金としてラバー工場を起ち上げた。創業当初は苦労の連続だったが、現在は17ブランドにラバーを供給する。年間の生産枚数は数百万枚とも言われる世界最大のラバーサプライヤーとなり、従業員は260名を超える。
「ドニック時代に、卓球ブランドはマーケティングの会社であり、自ら商品を作るわけではないから、メーカー(Maker)ではないことに気づいた。ブランドは商品を創造できるけど、商品を生産はできない。私はエンジニアであり、科学の分野にいた人間だ。そしていずれ商品を作りたいと思って、中国や日本に行った時に自分もいつか工場を作ろうと考えていた。
1989年にゴムの職人だったホルガ・シュナイダーがぼくに連絡してきた。彼も卓球選手だったが、彼はゴム会社で働いていた。ESNのSはシュナイダーで、Nが私だ。ホルガは大学で化学を勉強をしていたわけでなく、彼は工場でゴムを作るベテランの職人を知っていた。夕方に集まり、その職人を呼んでいろいろ勉強をしながら、2年後、1991年3月にESNを起ち上げた。シュナイダーが電話をくれた時に、『卓球のラバー工場を作ろう、これが自分のやりたかったことだ』と気づいた。どのくらい費用がかかり、どのくらいの利益を得られるのかと、その準備に2年間かかった」と現在は社長を退きESNのオーナーになっているニクラス氏は語った。

黒子だったESNがなぜ卓球王国の取材に
応えてくれたのだろう

ESNは長く黒子として卓球メーカーの後ろにいる存在だった。ESNは独自のラバーテンション技術を「TENSOR」(テンゾー)と名付けており、パソコンの「インテル」のように、TENSORが入っているのは良いラバーの証明だ、というように語っていたのだが、すべてのメーカーが「TENSOR」のアイコンをラバーに記載せずに、独自の「○○テクノロジー」という名称で他のメーカーとの差別化を図ろうとしていた。
ESNは「インテル」にはなれなかった。卓球メーカーは自分たちのラバーが同じ工場で生産されているのが公になるのを嫌がったのだ。しかし、ユーザーは「ドイツラバー」というくくりで発売されている商品が「同じ工場で製造されている」ことに気づいていた。
またESNも裏方として「名前無し」の存在でいるのは良しとしなかったが、「お客様」である卓球メーカーが嫌がっているのだからしかたないと思っていただろう。
その根底にあるのは、長らく、「ドイツラバーはバタフライのラバーよりも劣っている」という先入観だった。
昨年来、ブラインド試打(ブランド目隠し試打)としてバタフライを含めた全ブランドのラバーの試打を行ったところ、中級者レベルでは打球感ではその差異を感じて、「このラバーがバタフライ」と当てることはできなくなっている。かつ、メーカーを気にしなければドイツラバーのほうが選択肢が多いとも言えるだろう。もちろん試打ではラバーの耐久性は試すことはできないので、その耐久性の差異は比較できない。
多くのユーザーが知っていても、メーカーが公にしない事実をタブーと呼ぶならば、今回「卓球グッズ2023」で紹介することはタブーへの挑戦と言えるのか。いや、現実はそれほどおおげさなものではない。すでに2021年にはドイツの卓球専門誌でESNは記事として紹介されている。また、ESNは「コンパス」「エース」「スピンサイト」というグループ会社を傘下に置き、ラバー製造だけでなく、才能ある選手の育成、卓球のデジタル解析という活動も行っている。
ニクラス氏の後継者になったハンス・パーソンESN社長はこう語る。
「パートナーである卓球メーカーはESNがあまり外に出てほしくないと思うかもしれない。だけどESNのラバーはみな同じだと言われているが、それは真実とは違う。それぞれのメーカーのラバーは違う特性を持っている。我々は個性的な製品をメーカーと一緒になって作り出すし、ラバーの種類とはそのメーカーのニーズによって無限にあると考えている」

バタフライというモンスターブランドと、ESNドイツラバーの日独ラバー物語。今まで語られなかった事実が別冊「卓球グッズ2023」に書かれている。

 

ドニックの創始者であり、ESNの創業者、ドクター・ニクラス氏。化学エンジニアとしてPHD(博士課程・ドクター)を取得している。ESNの経営、開発部門にはPHD取得者が多い

 

ニクラス氏の後継者ハンス・パーソン氏。スウェーデンの卓球の町、ファルケンベリの生まれ。同卓球クラブで選手だったパーソン氏は大学・大学院で核物理学を専攻し、のちに自動車メーカーの「ボルボ・トラック」で副社長を務めた。ヘッドハンティングされ、2017年にESNの社長に就任

 

https://world-tt.com/blog/news/product/bz120

↑5月17日発売の別冊「卓球グッズ2023」

 

メイン特集は「バタフライ・エフェクト」と、「世界初の潜入ルポ、ESN」

 

 

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