ITTF(国際卓球連盟)による新たな国際大会のフォーム、『WTT(World Table Tennis)』の本格的な幕開けとなったカタール・ドーハでのコンテンダー/スターコンテンダー2大会。張本智和(木下グループ)はコンテンダーでは準決勝でオフチャロフ(ドイツ)に敗れて3位となったが、続くスターコンテンダーの準決勝でそのオフチャロフに見事なリベンジ。決勝では破竹(はちく)の勢いで勝ち上がってきたカットのフィルス(ドイツ)を4−2で下し、鮮やかな優勝を決めた。
張本選手のベンチに入った男子NTの倉嶋洋介監督に、2大会を戦い終えた張本選手についての感想を聞いた。
−−−まず、張本選手の2大会での戦いぶりについて、率直に振り返ってもらえますか?
倉嶋洋介監督(以下・倉嶋):コロナ禍でずっと満足が行く練習ができず、全日本選手権もTリーグでもプレーがあまり良くない状況だったんですけど、全日本が終わってからTリーグの合間でもなるべくNTC(ナショナルトレーニングセンター)で合宿を行いました。
ただ、張本自身も自信はなかったと思います。調子は戻ってきていたけど、それを披露する場がなかった。WTTでカタールに入る前は、不安のほうが大きかったんじゃないかと思います。しかし、蓋(ふた)を開けてみると、これまで以上に良いプレーが出てきていたし、課題点もクリアできた部分が多かった。五輪に向けて、大きな自信になったと思います。
−−−NTCでの合宿で取り組んできた、修正すべき点とはどのようなものでしょうか?
倉嶋:ひとつはフォームの修正ですね。そこが一番大きなところです。彼はもともと前陣での高速卓球で、これからパワーをつけていかないといけませんが、その高速卓球の中でフォアとバックの切り替えがあまり良くなかった。よりスムーズに切り替えができるよう、いろいろ提案していった。重心も少し後ろにかかる形になっていて、そのままだと戻りが悪くなり、体重移動もうまく使えないので、良い前傾姿勢を保てるように修正していった。彼自身もそれを理解してくれて、かなり良い形で1ヶ月半くらい練習に取り組めていた。
コロナ禍であまり動く練習がなかったので、武器はバックハンドなんですけど、それ以上に動いてフォアハンドで打つ練習も全日本後から続けてきた。それがバックハンドの良さにも繋がっていた。
−−−最初に行われたコンテンダーでの、大会への入りはどうだったでしょう?
倉嶋:コンテンダーでは初戦で荘智淵(チャイニーズタイペイ)とやって、去年のカタールオープンで負けた相手だった。同じカタールで、また荘智淵とやるのもちょっと運命的でしたけど、しっかり対策を立てて完勝できた。それで少し自信がついて、李尚洙(韓国)に勝ち、準決勝でオフチャロフとやるところまで勝ち上がった。
オフチャロフも調子が良くて、出足ではサービス・レシーブがうまくいって2ゲームを先取しましたけど、だんだんラリーが続くようになってきて、オフチャロフのバックにボールが集まりすぎて、相手の調子が上がっていってしまった。コース取りとしては、フォアやミドルを突くという作戦の話もしていたんですけど、どうしても相手の球威に押されてしまって、コースを限定された。オフチャロフのパワーに圧倒され、プレッシャーをかけられてしまったのが敗因だった。
スターコンテンダーの準決勝で再戦した時は、張本がコースをうまく散らして、オフチャロフにあまり強打を許さない印象があった。やはり修正能力は高いですね。1週間前に負けた相手だから、不安はあったと思いますけど、反省を生かして結果を残したのはさすがだなと思います。そして彼の中では、「3.11」への思いも強かった。何が何でも優勝したいという気持ちが伝わってきて、最後まで崩れず、迷わず戦い抜いた。「WASURENAI 3.11」という気持ちは、張本本人にとって強い支えだったと思います。
−−−スターコンテンダーの初戦は、アジア選手権の団体戦で敗れたことのあるグナナセカラン(インド)。2回戦の相手はアルナ(ナイジェリア)で、難敵が多い中をしっかり勝ち上がっていった印象でした。
倉嶋:コンテンダーの最初はちょっと崩れそうな場面もあったけど、スターコンテンダーでは崩れずに戦っていった。コンテンダーもスターコンテンダーも組み合わせは厳しかったし、1回や2回は負けている相手に対策を立てながら、しっかり勝てたのは大きいですね。
−−−決勝のフィルスも難敵でしたね。試合前の予想では「五分五分」という感じがしました。
倉嶋:フィルスに対しては1勝1敗で、直近の対戦では勝っているけど、本当にギリギリでした。非常にタフな試合になると、試合前から想像はしていました。今大会でのフィルスを見ていると、サービスから3球目で積極的に攻めてくる。カットの前に最大限の攻撃を仕掛けてくるスタイルなので、レシーブでの対策が重要だった。3球目で打たれて、そこで4点、5点取られなければ勝てるだろうなと思っていました。
実はフィルスとの決勝だけ、準決勝までとは違うラケットを使ったんですよ。ラバーの調整がうまくいかなくて、試合前に急遽ラケットを変えたんですけど、やはり最初はうまくフィットしなくて、下回転のボールをほとんど落とさない張本がネットミスをしていた。それでも相手の攻撃のプレッシャーをうまくかわして勝つことができましたね。フィルスも「あまりラリーにはしたくない」という感じのプレーで、その中でうまくミスを誘っていた。
−−−今回はカタールに到着後、2日間の隔離期間があったと思いますが、現地での新型コロナウイルス対策はどうでしたか?
倉嶋:カタールは選手の事情を考慮して、完全隔離が2日間だけだったり、検査も選手に負担のかからない形でやってくれた。「この日のこの間の時間に来て、いつでも良いから検査を受けてください」という感じで、我々としてもあまりストレスは感じなかった。ただ、これから帰国後の2週間の隔離期間があります。この隔離期間を考えると、国際大会への出場は非常に難しい判断になる。まだまだこのコロナ禍でのスポーツは厳しい面がたくさんあります。
−−−今後の国際大会の見通しも不透明な中で、張本選手は開催された2大会のうち1大会で優勝できた。この意義は大きいですね。
倉嶋:優勝は何より自信になりますし、今回も中国以外の国の選手は出ていた。張本はコンテンダーが3位で、スターコンテンダーが優勝。大きい成果だったと思います。今後の国際大会はどうなるかわからないし、その状況次第で判断しながら、何より東京五輪に向けてしっかり調整していきたい。フォームの改善については、80%以上は良いものになってきています。後はそれを徹底しながら、以前からの課題もフォローしながら、もちろん中国対策もしっかりやっていきたいですね。
Photo Remy Gross
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