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Tリーグ

Tリーグと日本リーグは、「対抗勢力」ではない

日本の卓球界における日本リーグという企業スポーツの役割

 日本の卓球界において、どちらかが勝ち組でも負け組でもない。対抗勢力でもない。

 元もと日本の卓球の中で伝統を持っていた日本実業団リーグ(通称日本リーグ)と新リーグのTリーグは共存共栄の名のもとに日本卓球協会の傘の下で活動するはずだったが、折り合いがつかず、結局別々の組織として活動することになった。とは言え、日本リーグに出ている選手もスポット参戦という形でTリーグでプレーしている選手がいる。

 先日、イベントのために来日した卓球界の生きるレジェンド、ベラルーシのサムソノフ選手は新リーグの日本のTリーグ、そして日本の卓球界のことに言及した。

「新しいTリーグには成功してほしいね」と言いながら、「ヨーロッパのプロ選手の悩みは現役を終えた後のセカンドキャリアなんだ。プロ選手の多くは中学を卒業してからプロの道に入っているケースが多くて、学校での教育を受けていない。30歳過ぎて、もしくは40歳近くなってから選手をやめても、普通の仕事に就くのが難しい。その点、日本には企業スポーツがあって、選手が終わってから会社で仕事ができると聞いている。それは素晴らしいシステムじゃないかな」とサムソノフ(*)は語った。

 日本の学校スポーツと企業スポーツのシステムはヨーロッパにはない。ヨーロッパは年齢や仕事、学校のカテゴリーに関係ない、クラブチームがスポーツの中心になっているからだ。

 年齢による上下関係や景気によるチームの存続を気にせず、そのスポーツをやりたい人だけが集い、楽しむのがクラブスポーツの良い点だ。

 一方、学校スポーツの利点とは何だろう。自分の意思、もしくはなかば半強制的ではあっても、卓球愛好者を確実に増やすことはできる。日本においてはこのいわゆる「中学の部活」が卓球市場に大きく貢献している。過去にはそういう中から数多くの日本チャンピオンや世界チャンピオンも生まれている。

 企業スポーツの利点は高校生や大学生の「受け皿」としての意義である。プロ選手にとっては企業スポーツでは環境的に物足りないが、プロを目指さない卓球選手にとっては将来をある程度保証された企業スポーツは安住の地とも言える。選手によって、一般従業員と同じように勤務して、勤務後に練習するケース、午後から練習を行うケース、フルタイムで練習するケース、もしくはその組み合わせで競技生活を過ごすのがいわゆる卓球における企業スポーツの実態だ。

Tリーグで活躍する木下マイスター東京の水谷隼(左)と田添健汰(右)

プロ選手にとってのTリーグと、

プロを目指さない人たちの受け皿になる日本リーグ

 一見、中途半端にも思える環境ではあるが、プロを目指すには力不足の選手にとっては非常に恵まれた環境とも言える。ヨーロッパの選手がうらやむのは実はこの企業スポーツの環境なのだ。前述したようにヨーロッパの一部のトッププロは高校を卒業していないために一般企業に就職できない。

 日本リーグに入る選手たちは高校卒業か大学を卒業しているために、競技生活を終えても会社に残れるケースが多い。そこで競技者生活を終えてからの人生を全うする。会社は彼らの生活を保証してくれる。

 日本の中での別の問題は、最近の選手が高校の時からスポーツコースでの特別待遇による長時間の練習を行い、海外遠征などで公休の名のもとに勉強ができていない選手が増えている実態がある。

 卓球だけを考えれば恵まれた環境とも言えるが、もしこの選手たちが将来プロになれないと判断し、スポーツ推薦で大学に進んだり、一般企業に入ると、勉強や会社の仕事レベルについて行けない、という問題が発生する。

 卓球のTリーグでプレーするようなほとんどの選手たちは、ラケット一本でお金を稼ぐプロである。プロ選手にとっては、Tリーグで選手生活を終えても、そのリーグのチームフロントやコーチなどがセカンドキャリアの受け皿になる可能性がある。

 しかし、そのレベルに達しない選手たちには企業スポーツという受け皿がある。そこに実は日本リーグとしての重要な役割がある。

 Tリーグと日本リーグは役割が違うので、対抗勢力にはならない。Tリーグに行けない人の受け皿が日本リーグになり、もし日本リーグでプレーして、プロになりたい人がいれば、Tリーグに行けばよいのだ。

 つまりは、Tリーグと日本リーグがトップリーグとして合体しなくても、すでに日本卓球界の中で両者の棲み分けができているのだ。

 

*サムソノフのインタビューの詳細は卓球王国の最新号(11月21日発売)で掲載している。

日本リーグ後期で優勝したシチズン

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