10月8日から10日にかけて福島・宝来屋郡山総合体育館で開催された全日本選手権マスターズの部。酸いも甘いも噛み分けた、熟練のプレーヤーたちが集うこの大会は、選手もプレーもとにかく濃い。その「濃度」は日本一と言っても過言ではないだろう。しかし、昨年度の大会は新型コロナウイルスの影響で中止となり、2年ぶりの開催となったマスターズだが開催までの道のりは容易ではなかった。
全国各地で新型コロナウイルスの感染拡大が相次いだ影響により、9月に開催予定だった全日本実業団、全国レディース、全日本クラブ選手権といった日本卓球協会主催の全国大会、さらに9月から10月に予定されていた三重とこわか国体が中止に。10月以降に予定されている全国大会についても開催が危ぶまれる中でも、今回の全日本マスターズを主管する福島県卓球協会は大会を開催する意向で準備を進めていた。日本卓球協会と新型コロナウイルスの感染予防対策をはじめとして、大会開催、大会運営について何度も協議。社会状況を見ながら、最善の策を講じて開催への道を模索していった。
しかし、大会1カ月前に大ピンチが訪れる。当初は審判員・補助員として約130名の高校生スタッフに協力してもらう予定だったが、9月に入り緊急事態宣言やまん延防止が発令され、9月末までの延長が決定した時点で各学校長から高校生をスタッフとして派遣できないとの通達を受けた。これによって一気に130名ものスタッフを欠くこととなった福島県卓球協会だが、齋藤一美会長と五十嵐修二理事長、武田和久副理事長は県内の6支部やレディース卓球連盟をはじめとした組織を活用し、一般愛好家に運営の協力を依頼。当初予定していた高校生スタッフ130名には届かないものの、たくさんの関係者がその要請に応じてくれた。
また、高校生を派遣することができない中で、高体連の先生方も大会準備、運営に奔走。日本卓球協会から指摘されていた、いくつかの懸案事項もなんとか承認を得て開催にこぎつけた。バタバタの準備で迎えたマスターズだが、大きなトラブルもなく全日程が終了。大会スタッフとのやり取りの中で「福島の人はみんな優しい」「開催してくれてありがとう」と口にする選手もおり、審判員・スタッフらも「何よりのご褒美のお言葉です」と語っていた。
大会を開催するにあたり、福島とは別の都道府県の市町村卓球協会から齋藤会長のもとに「クラスターが発生した場合、どう責任を取るのか」といった意見も届いた。それでも福島県卓球協会が開催の意向を崩さす、大会を遂行したのはなぜなのか。五十嵐理事長は、この決断についてこう語る。
「私たちが『やりません』と言ってしまえば、10月末に予定されているカデットや社会人などの全国大会も、その流れで中止になる可能性だってある。その中で『できるんだ』という姿勢を見せないといけないという使命感ですね。それに去年はほとんどの全国大会が中止になり、2年連続で大会が行えないというのは選手の皆さんに申し訳がつかないですから」
「喜多方卓球ランド」の代表でもある五十嵐理事長。10月末に開催される全日本選手権カデットの部には、喜多方卓球ランドからも選手が出場する。
「頑張って代表になった子どもたちを、大会中止でガッカリさせたくない。それは他の大会、他のチームの選手でも同じです。そのためにもマスターズを無事に開催する必要がありました。県の協会としてもコロナ禍で日程変更を余儀なくされた中で、苦労しながら予選を行って代表を決めた、その努力をムダにしたくはありませんでした」(五十嵐理事長)
大会開催を決定した後、齋藤会長のもとには各地の都道府県協会・連盟から感謝の連絡が寄せられたという。中にはこれから全国大会を主管する都道府県連盟から「開催に向けて勇気をもらった。必ず大会を行う」といった感謝の電話もあった。
今回、大会を開催・運営することができたのは、愛好家、高体連の協力はもちろんのこと、福島県卓球協会が毎年のように全国規模の大会を開催してきたことも大きいだろう。福島県卓球協会では2014年に日本リーグ、2016年に高校選抜、2017年にインターハイ、2018年に全国ラージボール大会、2019年にクラブ選手権、今年8月にも全国教職員大会を開催。2019年のクラブ選手権は台風19号が直撃する中、今回のマスターズと同様に高校生スタッフを欠きながらも、大幅なタイムテーブルの変更や特別ルールの適用に対応して全日程を消化。こうして積み重ねた大会運営能力があってこそだ。窮地に立たされながらも最後まで開催を模索し、全18種目で「令和3年度マスターズ王者」を誕生させた福島県卓球協会。その運営は見事であった。
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