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「オリンピックに出ることが目標ではなくて、オリンピックで金メダルを獲ることが目標」。早田ひな、決意のモデルチェンジ

彼女のテーマは「破壊」と「創造」なのか。
今年の世界選手権ダーバン大会で銅メダルを獲得した後も、WTTコンテンダーでは3大会で優勝を飾り、アジア競技大会も準優勝。10月には世界ランキングを自己最高位の4位とした。

11月のWTTチャンピオンズ(フランクフルト)の準決勝で中国の王曼昱に敗れた時にショックを受けたという。「このままでは世界一にはなれない」。

早田ひな(日本生命)はパリ五輪を8カ月後に控え、100だった卓球を0にしたと言う。「パリ五輪での金メダル」を完全に射程にとらえた早田。このタイミングでのモデルチェンジの狙いは明快だ。
すでに五輪代表内定を確実にしている彼女は最終選考会となった全農カップでどのように戦ったのか。ミックスゾーン(取材ゾーン)での彼女のコメントを書き記しておこう。

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「世界一になるために殻を破ってプレーする。ミスも多くなるし、今後も負ける回数が多くなるかもしれないけど、それも自分の成長と捉えてやっていけたらいい」

<全農カップ(パリ五輪選考会)1日目のコメント>

●ー今大会はどういったテーマで臨んでいますか?

早田 今回は(10月の)オマーン(マスカット)とトルコ(アンタルヤ)で優勝したことで(10月の)世界ランキングも4位になりました。王芸迪(中国)にぎりぎり2連勝することができて、だいたい自分の地位(ポジション)がわかってきました。ところが、フランクフルト(11月・WTTチャンピオンズ)で王曼昱選手と試合をした時に、孫穎莎選手や陳夢選手(ともに中国)とやるよりも、現実を突きつけられました。

「あ、やばい、このままじゃ、世界一にはなれないな」と思った。もう一皮、二皮むけないとオリンピックの金(メダル)には間に合わないし、自分の卓球人生で金メダルを獲ったり、世界ランキング1位になるのが厳しいと思ったので、世界ランキング4位を捨てて、今回は世界のトップ3に勝つためにやろうと。それはトップ3に勝つかもしれないけど、他には負けるかもしれない。ある意味、今回の選考会で、16人いる中で16番目と思って、チャレンジャーの意識で戦おうと決めました。

この2年間で、ほとんどの選手と当たっていて、この選手にはここに打てば点数が取れるとか、ここに送ればここに返ってくるという読みとか駆け引きはあるけど、それを捨てて、世界一になるために殻を破ってプレーする。ミスも多くなるし、今後も負ける回数が多くなるかもしれないけど、それも自分の成長と捉えてやっていけたらいい。

相手は(私が)世界ランキング4位だとか、選考ポイントが1位と思っているかもしれない。相手も行くしかないという感じで、攻めて来る。自分も怖いけど、楽しく試合はできていた。良いか悪いかはまだわからない。何かしらの経験は得られると思っています。

(モデルチェンジ後)初めての試合がTリーグで、2点落としたらどうしようと思ったけど、なんとか乗り越えられて、今回も自分が積み重ねた700ポイントという選考ポイントをゼロにした状態で、どの選手にも負けるかもわからない。でも世界1位になるためにはやるしかない。

●ーそういうモデルチェンジは選考ポイントで1位になったからできたことですか?

早田 それはそうです。確定しているからこそ早い段階でやっていかないといけない。オリンピックに出ることが目標ではなくて、オリンピックで金メダルを獲ることが目標なので、選考会で決まるまでは積み上げてきて、だいたいここまで来たからできるようになった。早い段階でできるようになったのは良かったですね。

私から見て世界トップ3の選手がどういう感覚でどういうボールを出しているのか、それをいろんな方から聞いて、自分が何を取り入れられるのか。人それぞれ手の長さ、足の長さ、スピードも違うわけで、自分に合うかどうかを今やっている感じです。<11月25日>

 

得意なスピン操作に加え、スピードアップを計る早田ひな

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「負けるのは時間の問題だと思っていましたから、負けたことにびっくりはしていません。ここからさらに自分自身が張本選手にチャレンジしていく気持ちで頑張らなければなりません」

<全農カップ(パリ五輪選考会)2日目のコメント>

●ー選考会を振り返ってどうですか?

早田 今大会は出なくてもいいかと思った選考会ではありましたが、自分がより成長するためにいろいろな人と試合ができて、最後は負けてしまったけど、選考会に出て本当に良かった。

●ー決勝の張本戦はどうだったでしょう?

早田 相手が戦術を多少変えてきた部分があるけど、それよりも自分自身の問題が多かった。基本はサービスから3、5球目、レシーブから4、6球目を自分の中でまだモノになっていない。その中で(張本選手と今年)7回目の対戦で相手も思い切ってやってきたし、勢いもありましたね。自分の中で迷いが出た試合でした。

●ー現在、自分の状態はどうですか?

早田 10月フランクフルト(WTTチャンピオンズ)まで自分の地位もだんだんわかってきて、自分のできること、できないこと、感覚がわかってきていた。それをあえて崩さないと世界一はないなと感じました。だから今はあえて崩してやっているところです。負けることもありますが、負けたことで反省点やこれはやらなきゃいけないというように自分の思考をどんどん広げていくことができます。過去に満足していない。このままじゃだめだと感じています。

●ーパリ五輪に向けてどうでしょう?

早田 今は自分の新しい卓球をやり始めて2週間ですが、全日本ではもう少し成長した状態で試合ができたら良いなと思います。でも私が目指す場所は半年後のオリンピック、世界一を獲るために、今回のように試合を積み重ねて、勝っても負けても収穫にして今後積み上げていきたい。

●ー張本選手のすごさは?

早田 思い切ったプレーで、力もあって、質が高くてコースも厳しい。その同じ土俵に上がることができない。私自身のパワーにも限界があります。そこをどう攻略するのかは楽しみです。(張本選手は)今までの戦術によりパワーがプラスされています。

私は(張本選手に)負けるのは時間の問題だと思っていましたから、負けたことにびっくりはしていません。ここからさらに自分自身が張本選手にチャレンジしていく気持ちで頑張らなければなりません。中国選手にも同じように戦っていかなければならないので良い刺激をいただきました。

●ーどの部分を変えていっているのでしょうか?

私は今まで回転を操ることが得意だったけど、よりスピードを強化して、ボールのスピードを出せるように今はやっている。それが少し合わないとミスにつながったり、相手に狙われます。自分自身、ラケット、ラバーに当たった時にどういったボールが返っていくのかというのはまだわかっていない。狙ったところに打てるようにならないと、このレベルでは勝てません。

●ー張本選手の成長スピードについては?

早田 試合を見ていても、毎回見るたびに強くなっていると思っていましたし、いつ負けるかわかない状態でいつも試合をしていたので、今日は負けている状態の時に「あ、これは受け入れるしかない」と。自分がやっていることをどんどんチャレンジして、ミスしてもしょうがないと。一度負けることで、自分が一度チャレンジャーの気持ちを持てる。今日の試合で技術的にやらなければいけないことがわかって、それを受け入れて、また頑張れたらいい。

●ー自分のスタイルを崩した中での2位という成績は?

早田 思ったより自信になりました。昨日(選考会1日目)負けていてもおかしくなかった。今日、準決勝、決勝をしてみて、昨日よりは良くなっている。卓球を変えて、Tリーグが1回目で、この選考会が2回目での試合なら、ある程度上出来です。ただしコースどりのうまい、質の高い、パワーのある選手に対しては自分はまだまだだった。

 

「簡単に言えば、打てない選手が打てるようになる、という感じです。今までだったら打たなくても点数が取れていたけど、打たなきゃいけない。ローリスクからハイリスクになっています」

●ー名古屋(12月WTTファイナルズ)での試合がありますね。

早田 これから練習を積み重ねて、その前に混合団体ワールドカップ(中国・成都)もありますが、今卓球を崩して広げっていく中で、もっと崩れていくかもしれないけど、試合をすることに意味がある。経験を積み重ねていきたいですね。早田ひなの卓球が今は柔らかいけど、もっと硬くしていきたい。

●ー王曼昱との試合がきっかけで卓球を変えたいと思ったのですか?

早田 王曼昱選手と私の体格は結構似ている部分があって、同じような体格ですが、その中での体幹の崩れにくさ、体幹が崩れていてもボールの質が変わらないとか、より強さを感じた試合でした。そこが自分自身と違う部分かな。

単純に試合をやっていって技術として得るものがある。どのくらいの感覚でボールを飛ばすか、ここはつなごうとか、試合で得るものがある。自分の感覚がありますが、試合前は30%くらいはできていたのが今は半分はできたかな。でも試合前は100だったものが50では、決勝では勝てない。50になっただけでも選考会に出た意味はありました。

●ー6回の選考会を戦い抜きました。
早田 思ったよりは長かったですね。この2週間前に2カ月間の遠征を終えて、この1年は海外の試合が結構入ってきていたので、ずっと試合をしている感じでした。試合しかしてないないという感覚でした。
第1回の選考会から、このレベルにしてこの成長は早かったし、一気に究極な部分を求めてやれていた。世界選手権でもアジア競技でもメダルを獲ることができたので、それにつながった選考レースだったと思います。

●ータフなスケジュールをこなしてきた。その中でメンタルとかフィジカルも積み重ねてきた感覚はありますか?

早田 今は崩しているところですけど、新たな自分をゼロからスタートして、今大会は20からスタートした感じでした。11月のフランクフルトまでは「この感覚なら100なのかな」という部分までできていたので、またゼロに戻して、今回の選考会で50くらいの感覚まで持ってこれたので、すべて意味があるかなと。

やり始めてすぐなので、合っているか合っていないかもわからないし、やってみなければ何も始まらない。この選考会で優勝することは目標ではないです。優勝が目標なら卓球を崩さなかった。パリ五輪を見てやっていて、その私が目指すべき目標のために、重要なタイミングと、重要な技術があって、今は我慢する時です。

選考会で優勝することは自信になりますが、そこで卓球人生を終わりたくない。自分はもっとできると思っています。

●ー今回のモデルチェンジは早田さんにとってどのくらいの変化なのでしょう?

早田 簡単に言えば、「打てない選手が打てるようになる」という感じです。今までだったら打たなくても点数が取れていたけど、打たなきゃいけない。ローリスクからハイリスクになっています。回転は自分も得意なんですが、私の場合は回転に頼りすぎてしまうので、いろいろなスピード、体のスピードもそうだし、腕のスピードもそうだし、打点のスピードもそう。それが今日の試合で出すこともできたけど、それが勝ちにはつながらなかった。その使い方がもうちょっとうまくなったら上に行けるかなと思います。

●ー今日の試合での難しさ、迷いとは何でしょうか?

早田 ゼロの状態にした後、ほぼ20の状態でやっていたので、相手が思い切ってやってくると自分のやりたいことがやれない、今までの感覚と違うからこそ100の信頼でできない。やったとしても自分が狙ったものと違うものになって、相手に打たれてしまうことが多くなりました。狙ったことが狙った通りにいろいろできることが、最後、技術を選択する自信につながります。そこに迷いがありました。

でも、昨日の試合よりも今日は少し良くなっています。自分がいけると思った時には昨日よりもスピードが出ていた。昨日よりは確実に成長しているので、100にするには時間が必要ですが、自分と毎日向き合って頑張っていきたい。

上半身の強化(ウエイトトレーニング)もしていますが、今回ユニフォームを着たらピチピチになっていて、本当は筋肉はつきにくいタイプなんですが、時間がかかるけど、卓球の感覚と筋肉のバランスも最後は調整していきたい。

●ーオリンピックで1位を目指そうと思ったタイミングは?

早田 フランクフルトで王曼昱選手に負けた時。「これじゃパリでメダルを獲れない」と思ったので、やるしかないなと思いました。

今回はいつ負けるか分からなかった。この2位は自信になったけど、負けたことは悔しいので、張本選手に向かっていけるように、自分をアップデートした状態で挑めるように頑張りたい。<11月26日>

 

来年夏のパリ五輪での金メダルを視野に入れ、「ニューひな」がスタートしている

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