ーー大学卒業後はもともと教員になろうと考えていたのですか?
瓜生:卓球に関わる仕事をしたいと思っていたのですが、選手でやれるほどの実力はないし、OBの先輩方にそういう相談をしても「もう遅いよ」と言われてしまいました。それはそうですよね、4年生の4月に入ってからでしたから。
「もういいわ」と思って、その年の就職は諦めて、教員免許を持っていたから次の年の夏にダメもとで教員採用試験を受けてみようという考えもありました。そうやって腹を括っていたら、全日本選手権で福井商業高の引率で来ていた安田先生に「来年の教員採用試験を受けてみないか」と誘われたんです。それがきっかけで採用試験を受け、24歳の時に福井商業高に赴任しました。
ーー高校生の女子を教える難しさなどはなかったですか?
瓜生:商業高校なので、女子の方が生徒数が多いんです。最初の担任は女の子ばかりのクラスでした。だから、女子を指導する難しさはあまり感じなかったですね。
ーー瓜生先生が指導で大切にしていることを教えてください。
瓜生:指導で大切にしていることはいくつもあります。1つは「時間を共有する」ということです。仕事がある時は難しいけど、最大限練習に参加して、時間を共有することが大切だと思っています。
また、「できるようになるまで諦めない姿勢で取り組む」ということは生徒に常に伝えています。そういう風な気持ちでいないと、できることもできないし、絶対にうまくならない。不器用や能力がないと言って、最後までやり切らないのは勿体無いですからね。
ーー福井商業は県立高校で、福井県出身の選手が集まっていますよね。
瓜生:過去に1人だけ県外出身者はいましたが、あとはすべて福井県出身です。「福井商業は選手を集めないんですか?」ってよく聞かれますね。
もちろん、全国から選手を集めている強豪校に1回戦で当たって大敗することもあって、そんな時に「地元の子だけでは負けてもしょうがない」なんて言われることもあります。でも、そんな考えを持っているなら同じ土俵には上がってはいけない。コートに立ったらみんな平等で、勝つか負けるかだけです。
とにかく、生徒たちが「強くなりたい」という思いを持って、一生懸命やることが大切だと思っています。一生懸命やった後に、その子自身に残るものが必ずある。例えば、インターハイでベスト16に入ったことを80歳になっても自慢できるかといったらそうではないけど、ベスト16に入るまでに得た経験や忍耐力は大人になってもずっと役立ちます。正直、卓球はやらなくても生きていけることだけれど、好きならば全力で取り組んだ方がいい。その中で経験したことが、1%でも今後の生徒たちの人生に活きるならうれしいですね。おそらく、指導者はみんな同じ気持ちだと思います。
ーーインターハイにも何度も出場していますよね。
瓜生:私は教師生活37年で33回インターハイに出場しています。団体戦で1点も取れず、個人戦では全員1回戦負けで終わることも何回もありました。
ーー思い出に残っている試合はありますか?
瓜生:1番と言われると難しいですね。福井商業高の最高成績は、2011年度の高校選抜と2015年のインターハイベスト8、個人戦でいうと山本笙子が2、3年のインターハイでベスト8に入った時ですかね。ベンチに座らせてもらったので、そういう試合は思い出に残っています。
全国選抜では、前日まで武蔵野高と一緒に練習させてもらっていて、組み合わせのクジを引いてみたら武蔵野高と同じグループで、太田康仁先生に「どこ引いてんだ」って言われましたね。練習ではずっと負けていたけど、試合ではこちらがイケイケで相手はプレッシャーがかかっていたのもあり、勝つことができました。それが全国で初めての入賞で、その時も福井県出身の選手だけでした。そこからいろんなチームに顔を出しても恥ずかしくないようになりましたね。
ーー2018年の福井国体では少年女子の監督として3位入賞を果たしました。
国体はもちろん開催県が優勝を狙うのですが、上に行くためには前年度大会で5位以内に入ってシードを取らないといけないので、前年の愛媛国体の時からプレッシャーはありました。その上、ブロック予選も通過しないといけない。ブロック予選が1年で1番嫌な試合でしたね。
国体のためにクラブチームが立ち上がって、そこで育った選手が福井商業高にきてくれて、そこから徐々に成長しながら最終的に福井国体まで辿り着くことができました。私は監督として居合わせただけなので、決して私だけの力ではないです。県の指導者や協会の方々が強化に力を入れてくれて、さまざまなサポートがあったからこそできた入賞だと思っています。
ーー全日学では卒業生の川畑明日香選手が活躍しました。
瓜生:10月に行われた金沢の全日学のダブルスで卒業生の川畑が勝ち残っていたので見に行ってみたら、目の前で優勝しました。会場までの途中のパーキングでうどんを食べるのを楽しみにしていたんですけど、それでは間に合わないのでうどんを我慢して急いで会場に向かったんですよ(笑)。
川畑も最初は就職しようか迷っていたけど、本人に可能性があると思って中央大にお願いしました。「中央大のためにも頑張れ」と言って送り出したら、関東新人のダブルスで優勝したので「結果を出すのが早いな」と思いましたね(笑)。教え子が日本一になる瞬間を見たのは初めてだったので、神様がご褒美をくれたのかなと思います。
教え子の結婚式に呼ばれたり、赤ちゃんを連れてきたりして幸せに生活している瞬間を見るのもうれしいですね。教え子に「体に気をつけてください」と言われると、自分もそんな歳になったのかと感じます。
この歳になると、教え子の子どもが福井商業に入学してきたりもします。川畑や愛工大に進学した森廣伽依の母親、直江蓮の父親も福井商業高の卒業生です。若い時の教え子が「福井商業で卓球をさせたい」と思って子どもを預けてくれているのはうれしいです。
ーー最後に、これからの目標を教えてください。
教員は定年延長の関係で、定年が61歳なんです。そして、ぼくは今年で61歳になる。そのあとのことはどうなるかわからないけど、とりあえず監督としてベンチに入るのは今年で最後のつもりです。
昨年の4月からは男子卓球部は服部泰朗先生と河原辰徳先生、女子卓球部は私と斎藤稜馬先生の4人体制で指導を行なっています。私以外の3人の先生もいろんな選手を集めてくるのではなく、福井商業に入学してきてくれた生徒とともにより良い卓球部をつくろうとしてくれていて、私が今退いても良いくらいしっかりしているので安心しています。
最後の目標はやっぱり男女ともにインターハイに出場して活躍すること。特に、女子は次で40回目の出場となるので、確実にいける保証はないけれど精一杯チャレンジしてみようと思っています。
ーー本日はありがとうございました。
●PROFILE うりゅう・かつみ
1963年9月15日生まれ、福井県出身。中学1年生で本格的に始め、中央大4次に全日学ダブルス優勝。福井商業高赴任後は、女子卓球部監督としてインターハイ学校対抗に33回出場、2011年度高校選抜と2015年度インターハイ学校対抗で5位入賞。2018年福井国体では少年女子の監督としてチームを3位に導いた
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