卓球王国 2024年4月22日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
インタビュー

「卓球を通じて何を学ぶか」。指揮官・高山幸信が語る明治大

●対話を重視し、選手が納得して取り組める方向を決める

 これまで、水谷や丹羽(孝希)など、高校時代に全日本で優勝して明治に入学した選手たちとも監督として接してきましたが、彼らはプロとして生きていくという意識を持って学生生活を送っていたように思います。 彼らに対して指導するうえで重要視していたのは、対話。私もそうでしたが、選手が一番嫌がるのは上から一方的にアドバイスされることです。こちらが一方的に意見を伝えるのではなく、選手の考えや意見も取り入れながら、一緒に進むべき方向を決めるようにしていました。指導者として自信を持つのは良いことですが、やるのは選手自身なので、どれだけ彼らが納得して取り組めるかが大事。選手自身が「こうしよう」と自分で決めて取り組むことが力になると思います。

 技術については私が教えられる部分もありますが、選手でないと感じ取れない部分も多く、そこは選手同士がプレーの中でお互いに高めていくものだと捉えています。ただ、戦術や卓球における思考、そのほか様々な考え方については私をはじめ指導者のほうが経験は多いので、そこは使い分けというか、バランスを取りながら指導にあたっています。

大学時代の水谷を見守り、苦楽をともにしてきた

 私が学生だった頃に比べ、現在の明治は部員数も増え、幅広いレベルの選手が集まるチームになっています。人数が多くなれば、それだけ考え方も変わります。今の時代、一概に厳しくすることだけが良いことではなく、選手によって接し方を変える必要性もあるでしょう。

 その中で一番気を配っているのは、選手たちが間違った方向に進まないようにすること。現代だとSNSもありますし、「ノリ」のような感じで何かやってしまうこともあります。やって良いこととダメなこと、それをやって許される場面と許されない場面など、物事の善し悪しについては教えないといけない。選手の中には、これから世界を狙っていく選手もいます。ある程度、私生活を見守るのも大学の監督の仕事だと思います。

 

●勝てない時期を乗り越えた先に感動がある

 監督としても関東学生リーグやインカレで優勝を経験させてもらいましたが、負けることがあるから勝った時のうれしさが大きくなるし、だから泣くんだと思います。勝ち続けるのがベストですが、そうなると徐々に何も感じなくなるというか、物足りなさを感じる気がします。勝たせてあげたくて指導して、選手も勝ちたくて努力して、それでも勝てない時期はある。そうした時期を乗り越えて優勝できた時には、やはり感動がありますね。

 今は中学、高校から大学まで、一貫で強化できている愛知工業大が強いですね。今年度もインカレで(愛工大と)やりたかった。力的には互角だったと思っています。今年は宇田(幸矢)、戸上(隼輔)、宮川(昌大)が入ってきて、彼らがいるうちに愛工大、関東の強豪校に勝って、インカレで優勝することが目標です。

 

●明治での4年間で、社会に貢献できる人間になってほしい

今年度の明治大卓球部。昨年10月の明治大ドリームゲームにて撮影

 練習内容については主将を中心に、選手たちで考えさせるようにしています。彼らが主体となって考えて決定し、それに一生懸命取り組むというスタイルです。指導者に指示されて動くのではなく、ひとりひとりが自分で考えて動く。チーム内での実力差がある中でも全員が同じ方向を向き、自分に何ができるのかを考えて動けている時は、チームとしてとても強いんです。これは社会に出ても必要なことで、会社で仕事をする時でも、卓球でチームとして勝利を目指す時でも同じだと思います。

 選手たちには「卓球を引いたら何も残らない」という人間にはなってほしくない。人の気持ちや痛みがわかり、何かに対して自分がどうやって貢献できるかを考えられる人間になってほしい。それができれば、どんな場所や環境でも、周囲から必要とされるはずです。

 男であれば、将来は家庭を持ち、家族を養っていくのも大きな仕事。そのためにも明治大卓球部での4年間を通じて、社会に貢献できる、しっかりとした人間性を身につけて卒業してほしいと願っています。

 

※ PEOPLE 高山幸信 は「卓球王国2021年3月号」でも掲載しています。

 

◆高山幸信(たかやま・ゆきのぶ)

旧姓・中田。1972年11月28日生まれ、山口県出身。埼工大深谷高から明治大に進学。サンリツ、東京アートなどで活躍し、1997年に世界選手権出場。東京アートでは監督も務めた後、2007年より明治大コーチ、翌年から同校の監督に就任

関連する記事