卓球王国 2024年12月20日 発売
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ペンホルダーは死なず。Vol.1「ペン速攻、伝説の男、河野満が吠える」

3. 裏面に裏ソフト、裏面にツブ高、

そして表面だけの韓国スタイルがある

最近のペンホルダーは中国選手の裏面打法が注目されている。裏面打法は万能な打法で、ペンホルダーを救う打法なのか。それは使い方にもよる。大事なところで相手の虚を突くように使えば効果的だ。
私が今、子どもたちを教えるとしたら、また現役でやるとしたら、同じ裏面打法でも、裏面にツブ高を貼って裏面打法を使う。通常、ペンホルダーはバックへ来る深く切れたツッツキに対して弱い。回り込めればいいが、回り込めない時はツッツキで返すことしかできないために相手に先に狙われる。中国選手はこれを裏面のドライブで返すことで弱点を克服しようとした。
それも悪いやり方ではないが、私が今現役なら裏面にツブ高を貼り、グリップを変えずに、バックへ来たツッツキを裏面のツブ高で返す。ツッツキをツブ高でプッシュで返すと変化のあるボールになって飛んでいく。相手が打ちあぐんだら表面で攻めればいい。また相手の強いドライブでも持ち替えずに、裏面のツブ高でブロックして、相手が持ち上げてきたら裏面ではなく表面でのバックハンドを振ればいい。
このように裏面にツブ高を貼り、表面とミックスさせるペンホルダー攻撃型。次に中国選手(馬琳・王皓)のように裏面に裏ソフトを貼り、裏面ドライブなどを使うペンホルダー攻撃型、3番目は柳承敏や金擇洙のような裏面にはラバーを貼らずに、すべて表面だけでプレーして、バックに来たボールは極力フットワークを使い、回り込んでいくペンホルダー攻撃型などのスタイルがある。これらの戦型から自分に合ったスタイルを選択すればいい。シェークハンドと同じで、「絶対この戦型なら勝てる」というものはない。ただ、シェークハンド以上に、ペンホルダーではプレースタイルを多彩に作っていける可能性はある。
これからペンホルダー攻撃型のキー・テクニックになるのは、レシーブだろう。日本選手は最近レシーブが単調になっていて、特長が発揮できていない。台上のサービスに対して、同じストップをするのでも、打つと見せかけてストップして、かつコースを逆モーションにする。また、フリックでも、ストップすると見せかけてフリックしたり、ストレートに打つと見せかけてクロスに打つなどの逆モーションを入れることが、試合で勝つことの必須条件となる。

 

柳承敏とは違うタイプであるがドライブの連打が得意の馬琳。巧妙なサービスと台上技を駆使し、バックは表面と裏面を使い分ける。2008年五輪金メダリスト

 

4. 台上技、逆モーション、サービスがやりやすい。
指導者も固定観念を捨てよう

台上が打ちやすく、逆モーションなどのような細かなラケット角度を作りやすいのがペンホルダーの利点なのだから、その特長をもっと生かすべきだ。台上のボールでは手首の可動範囲が広く、使いやすいのがペンホルダーであり、また変化サービスがやりやすく、スマッシュも打ちやすいグリップなのだ。その代わり、シェークハンドよりも動く範囲が広く、体力を必要とする戦型でもある。世界選手権が10日間あったら、10日間を動き切るだけの体力が必要になる。
またバックへ回り込んで、フォアに回されたボールを飛び込んでスマッシュするか、ドライブで一発で打ち抜くフットワークが、ペンホルダーとしては身につけなければならない技術だ。
今の40歳代、50歳代の指導者は自分たちはペンホルダーを使ってやってきたのに、実際の指導では子どもたちをシェークハンドで教えることのほうが多いようだ。これは小さい子どもの時にはペンホルダーのほうが台全面をカバーしにくく、シェークハンドはカバーしやすい、つまりそのほうが試合で勝ちやすいという考えで、シェークハンドにしているケースもあるのではないか。
指導者が、最初からペンホルダーをあきらめるのではなく、ペンの良い部分はここだ、弱い部分はこれだ、シェークの良い部分と悪い部分は……というように子どもたちに教えることが大切だろう。いきなりシェークだと決めつけるのは良くない。最初にビデオなどの映像でいろいろな戦型を、もちろんその中にペンホルダーも入れて、紹介することが大切ではないか。

 

バックに来るボールに対してほとんど裏面打法(裏ソフト)で返す王皓(2009年世界チャンピオン)。バック裏面打法&フォアハンドドライブの両ハンド打法だ。裏面の使い方が馬琳とは決定的に違う

 

5. 少ないからこそ、ペンホルダーは勝てる。
多彩で、不滅のスタイルだ

ペンホルダーでもまだ開発されていないテクニックはある。今シェークハンドで台上の「チキータ」と呼ばれるテクニックが流行しているが、それをペンホルダーの表面でやったり、ほかの台上テクニックにいろいろと応用できる。
昨年の全日本選手権のカデットからバンビまでの出場選手を調べると、ペンホルダー選手は一割にも満たない。
ペンホルダーはもう勝てないのか。愚問である。最近であれば、アテネ五輪ではペンホルダーの柳承敏が優勝した。表面だけを使うドライブ型だった。さらに決勝を争ったのは裏面打法を駆使するペンホルダードライブ型の王皓だった。ペンホルダーは勝てる。今の時代に勝てないわけがない。
若い世代でシェークハンドが圧倒的に増え、ペンホルダーが少なくなればなるほど、希少価値が出て、ペンホルダーは勝ちやすくなる。新しい技を開発していけば、ペンホルダーは勝てる。日本でも勝てる、世界でも勝てる。
プレースタイルを見ても、シェークハンドよりもペンホルダーのほうが幅があり、選択肢があり、多彩である。ペンホルダーの育成は時間がかかる。しかし、時間をかけて大きく育てることが大切だ。ヨーロッパからコーチが来たり、有望な選手がヨーロッパでプレーすることで卓球愛好者の目はシェークハンドに向いている。見方が偏っていないだろうか。
シェーク全盛……だからこそ、ペンホルダーは勝てる。少ないからこそチャンスである。いろいろな戦型があってこそ、卓球のおもしろさがある。その中でペンホルダーは輝きを失わないはずだ。ペンホルダーは不滅のスタイルなのだ。

 

裏面打法の元祖、劉国梁。表ソフト速攻型で変化サービスからの速攻に裏面打法をミックスして、世界選手権と五輪を制した

 

 

 

河野満●こうのみつる
青森県出身。青森商高時代、全日本選手権ジュニア優勝、その後、専修大に進学。77年世界チャンピオン・全日本選手権三回優勝・ペン表ソフト両ハンド速攻型。67年世界選手権で初出場で決勝に進出、故・長谷川信彦選手に敗れ、準優勝。その後、日本のエースとして活躍、75年には世界選手権3位、77年世界選手権バーミンガム大会では全盛のヨーロッパ選手と中国選手を相手に、団体戦と個人戦で圧倒的な勝ち星をあげ、団体準優勝の立て役者となり、シングルスでは優勝を飾った。その後、指導者としても母校青森商高をインターハイ優勝に導く。

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