中国でも、80年代後半、政策的にペンホルダーは裏面に裏ソフトを貼り、裏面打法を使うとか、かつてチーム内に必ずひとりのペンホルダー選手を入れるという協会の政策があった。日本でも、全国中学校大会で、87年から92年まで、育成策としてペンホルダー表ソフト(ツブ高、一枚ラバーを含む)選手1名を、団体に入れることを実施した。しかし、ペンがいないとチームが組めないから、シェークの選手を無理矢理ペンにするとか、その試合の時だけペンにして、試合が終わったらシェークに戻すといった選手もいたと聞く。選手がかわいそうだという意見もあった。結局は、アンケートをとるなど、様々な意見を徴収し、そのペンホルダー育成の政策は終わったが、そうでもしないとペンホルダーは増えないという状況にあったことも事実だ。
ただ、協会としてもペンホルダーやカット型のスタイルを育成するような政策が必要である。対外的に強いペンホルダー型の選手やカット型の選手がいたら、その選手たちはノミネートされやすいであろう。
もし自分が今現役で、ペンホルダーだとしたら、裏面でブロックしたり、裏面のブロックでも左右に曲げたりするテクニックを使う。自分が現役時にペンホルダーをやっていて困ったのはバックハンドだから、今なら裏面打法を使うと思う。またフォアに振られたあとのバックも裏面打法だと盛り返すことができる。ただ基本戦術としてはペンホルダー攻撃型はオールフォアで攻めることが肝要だ。ただし、フォアに振られたあとのバックは裏面がいい。裏面だとスマッシュも打ちやすい。
ペンでもシェークでも、ひじで上手にラケット角度を調節することができる人は、スマッシュが打てる。ドライブのような放物線を描くスピンボールだけでなく、球質の違う鋭角に入っていくスマッシュを使い分けることができれば、効果的だろう。
ヨーロッパにはスマッシュの概念があまりないが、日本にはある。ところが日本でもそのスマッシュの概念が消えかかっている。もちろん、みんながみんなスマッシュを打てるわけではない。その選手のグリップやひじをうまく使った角度の出し方などによって、スマッシュが打ちやすい人と打てない人がいる。でも、この選手は打てると思ったらスマッシュに挑戦させるのも指導者の眼力ではないだろうか。
シェークハンド選手の例で言えば、ワルドナーとパーソンの違いは、ワルドナーはフォアハンドドライブでもブロックでもひじがある程度、固定した打ち方を採用するが、パーソンはひじが上がったり、曲がったりと動くことが多い。バリエーションのあるドライブを打てる特性がある。逆に、ワルドナーは急に生まれたチャンスボールに対しても、ひじの角度を調節しスマッシュを打つことができる。ペンホルダーでもそういう特徴を持つ人はいるので、その選手の特徴によって、スマッシュを打っていくことに挑戦するのが良いと考える。
世界チャンピオンであった河野満選手や小野誠治選手も、やはりひじの角度を調節する高い能力があり、スマッシュの打てる選手であった。
両選手ともサービス位置を変えて3球目を両ハンドで待ち伏せ攻撃をするとか、ゲームの流れ、場面によっては、オールフォアで攻めていくとか、緻密で繊細な戦術の組み立てが得意であった。そういった点は、ペンホルダーでもシェークの選手でも継承していかなければならない。
最後に、小生の例で申し訳ないが、1981 年の夏、平壌国際招待大会事前合宿において、荻村伊智朗氏から「前原君はプレースタイルが1977年の世界選手権大会から変わっていないので、この国際大会が最後のチャンスと思って遠征に行ってください」と言われた。自分でも77年の世界選手権大会初出場の時に、このままでは、国際大会に出ても勝利をあげることはできないと感じ、帰国後、ラケットの裏面にラバーを貼り新しいプレースタイルを求め、試行錯誤を繰り返したが、結局、変えることができなかった。それから4年後の平壌国際招待大会の帰国後、遅まきながら決断し、裏面にアンチトップスピンラバーを貼り、反転技術を積極的に取り入れ、そこからの2年間、国際競技力は向上した。
自分の能力・技量にあわせたプレースタイルを模索し、競技力を上げなければならない。その最終的な選択は、自分自身であるが、荻村氏のように指導者の言葉で選手は変わる可能性がある。
日本の指導者は、ペンホルダーの選手育成にチャレンジしてみようではないか。
前原正浩●まえはらまさひろ
東京都出身。81年全日本チャンピオン・元全日本監督。ペンホルダー攻撃型として全日本選手権決勝に3度進出。81年に表面に裏ソフトを貼っていた攻撃スタイルから、裏面にアンチトップスピンラバーを貼ったペン異質反転攻撃スタイルに変身し、その年の全日本選手権で優勝した。現役引退後には全日本の男女の監督を務め、2000年世界選手権では男子団体で3位入賞し、メダルを獲得した。現在、日本卓球協会の強化本部長を務めている(その後、日本卓球協会専務理事、現国際卓球連盟副会長)
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