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水谷隼「自分でさえ踏み込まない空間に 相手を引き寄せようかなと思いました」

ボル戦は燃え尽きた感が

ありましたね。本当にきつかった。

ボルも強かった

 

●ー負けるにしても勝つにしても、二人の差というのは、ちょっとした部分なんだろうね。

水谷 道を探すというか、どうやったらこの相手から得点できるのか、失点を誘うことができるのか、試合の中で模索をしながらやっている。いろんなことをして相手の弱点を探すんだけどなかなか見つからない。相手も自分のやりにくいところをやってくると思っているだろうし、お互いが知り尽くしている戦いですね。

 

●ー世界の卓球関係者は、この水谷対オフチャロフが大会のベストゲームだったと言っている。自分としてもその内容に関しては満足しているでしょ?

水谷 もちろん満足しているし、世界選手権で勝てたというのがうれしいですね。お互いがベストのコンディションの状態で、本当に今の実力を見せる中で勝てた。ドイツオープンで勝つよりも世界で勝つことのほうがうれしい。プレーも悪くなかったし、自分の持っている実力を発揮できたと思う。それに、サービスを途中で思い切って出せたのが勝因です。

 

●ーそうやって試合の中でサービスを変える、流れを変えるというのはよくあることなのかな。

水谷 いや、ないです。困り果てた末の決断です。(変えることを)試合前に考えているわけではない。1ー2の4ゲーム目、2ー4くらいで負けていて、このままじゃ絶対勝てないと感じて、自分のスタイルを崩すというか、自分の知らない場所に踏み込もうかな、自分でさえ踏み込まない空間に相手を引き寄せようかなと思いました。

ミドルからサービスを出したり、フォアからYGサービスを出したりした。今まで滅多に出したことないです。

 

●ー相手も「えっ」という感じだったでしょ。

水谷 そうですね。そのゲームでサービスの時にだいぶ点を取れた。相手もそれまで出されたことのないサービスを出された。しかも大事なところで出してきたから、ぼくが自信を持って出しているとオフチャロフは思ったかもしれないけど、実際は違う。手詰まりだった。何も勝算はないです。

 

●ー勝負師だね。

水谷 たまにそういうことがあるんですよね。今のままじゃ絶対勝てないから、流れを変えるために、思い切って勝負できる時が。集中してくると、このままじゃダメだからと、それまでやったことがないことをやれる。今のままやったら勝てないと見切ってしまうような時がある。そういう時には手詰まりなんですよ、自分の中では。流れを変える一手なんです。

 

●ーでも勝った瞬間は「やった!」という感じだった。

水谷 もう満足しちゃった。これ以上のプレーは無理だと思いました。

 

●ーそれが4番のボル戦に出てしまった。

水谷 それはあります。オフチャロフに勝った瞬間、もうこれ以上できないからと、5番の丹羽に託した感じだった(笑)。

 

●ーオフチャロフに勝った瞬間に燃焼した状態になって、4番のボル戦では気持ちが戻らなかったのかな。

水谷 ボル戦は燃え尽きた感がありましたね。本当にきつかった。ボルも強かった。

 

●ーそのボル戦で、日本男子のすべての試合が終わった。

水谷 準決勝で1点取れたということで、一歩前進した。オフチャロフにも勝つことができたし、自分の実力が上がっているのは間違いないと感じることができた。

毎年世界選手権があるから、終わったら次の試合を考えている。自分のできるプレーは全部できたと思っています。

 

●ー日本チームのエースとして、後悔の念を持つのかな。

水谷 あまり周りのことは考えない。他の選手が勝ったか負けたかよりも、自分の出た試合で勝てたかどうかが重要ですから。

 

●ー自分の課題も感じた?

水谷 左利きの選手との試合、それとバックハンドくらいですかね。最初は調子は悪かったんですよ。ポルトガル戦も、オフチャロフ戦も調子は普通です。自分の調子が普通だとあのくらいのプレーなのかなと思います。

 

●ー決勝の中国対ドイツ戦を見ていて何を感じたんだろう。君が勝ったオフチャロフが張継科に勝ったりもしたけど。

水谷 特別に何も感じない。それは卓球界ではよくあることでしょ。自分が勝った選手が他の強い人に勝ったりするのは。相性とか戦術、その時の調子もあるから。それが重なれば、オフチャロフが張継科に勝つんだなと思いました。

 

●ーこの地元での世界選手権がひとつの区切りになるんだろうか。

水谷 そうですね。終わって1週間くらいは、燃え尽きた感がありました。この大会に懸けてきたものもありますし、東京大会が決まって、ずっと意識してやってきたので、地元で良い成績を残すためにいろいろ我慢してきたものもあります。大会直後はちょっと卓球に対する気持ちが冷めたけど、今はまた戻ってきましたね。

 

●ー最初に出た団体戦が2006年ブレーメン大会。過去4回の団体戦とは、卓球もメンタルも体も違っている。そういう中で迎えた東京大会は違う。

水谷 あまり自分では考えないけど、今は負けることは怖くない。前は怖かった。今はやることをやっているから、負けることは怖くない。昔は試合の時だけものすごい集中するし、試合を意識しすぎた。今は世界卓球の1週間前でも普段どおりやれるし、休める。昔は大きな大会の前になると切羽詰まって焦っていたけど、今は焦らない。1月の全日本選手権の時もそうだった。試合の前には勝負はついている。

 

●ーこれからのターゲットは?

水谷 今は何もないです(笑)。コツコツ積み重ねていきたい。もちろんリオ五輪はあるけどあと2年ですから。焦ったら失敗すると思うので、その時に冷静になれるように今からしっかり練習を積んでいきたい。ケガもせず、用具も自分が納得するものを使っていればいいし、 リオが始まる前には仕上がっている状態にしたいですね。

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昨年の秋以降、ロシアリーグで積み重ねてきた実力が東京の地で発揮された。オフチャロフ戦を見ると、水谷隼は世界卓球でひとつの壁を越え、別次元に入ったようにも見えてくる。

調子が上がらなくても試合の中で修正していく対応能力、競り合いの中での揺るがない自信、歩むべき道が定まっている覚悟と、譲れない信念が今の水谷隼にはある。東京での戦いで彼が感じたのは、メダルの重さよりも、世界のトップクラスとしての手応えではなかったか。   

  (文中敬称略)

 

「準決勝で1点取れたということで、一歩前進した。

オフチャロフにも勝つことができたし、

自分の実力が上がっているのは

間違いないと感じることができた」

 

 

 

 

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