●ー平野さんはミキハウスで石川さんとかぶってますよね? 6年間同じ練習場でやっていました。
平野 私がミキハウスに行って、2年経ってから、佳純が中学になる時、四天王寺(ミキハウスJSC)に入ってきました。そこから6年間は一緒でした。 もともと才能があるのは感じていました、ボールタッチもいいし、バランスもいいし、四天王寺に入る前にミキハウスの練習に来た時、「小学生なのにこんなにきれいに投げ上げサービスを出すのか」と感心した記憶があります。この子は絶対将来強くなると思ってました。
中学生で全日本でベスト4に入った時、2009年の世界選手権の横浜大会で帖雅娜(香港)に逆転で勝った時も、「強くなっている」と感じてました。その時に「佳純は試合で強くなるタイプの子だ」とも思いました。張本(智和)君や水谷(隼)君もそうだけど、練習より試合のほうが強いイメージですね。周りの想像を超える試合の強さというんですかね。
佳純とは練習終わりとかに10対10からのゲーム練習をよくやっていました。彼女も私も試合好きで、「負けた方がジュースおごるぞ!」とか言って熱くやったのは懐かしい思い出です。通常、女子選手はあまりゲーム練習をやりたがらないけど、私たち二人は試合好きでした。
●ー平野早矢香全盛時代と、石川佳純が伸びていく時期は完全に重複していますね。同じミキハウスでもやはりライバル心はありましたか?
平野 特にロンドン五輪前はそうでした。(福原)愛ちゃんと3人でシングルス2名枠を争っていました。ライバルというよりも単純に競争相手です。試合で直接対戦することは意外に少ないですから。
●ー平野さんの現役時代に争っていたとしても、「あ、もう佳純は自分の上を行っている」と感じた瞬間というのはいつ頃だったのでしょう。
平野 ロンドン五輪前はすでに私よりも世界ランキングも上だったし、選考レースの時から急激に強くなっていたし、意識も変わっていた。2009年の横浜大会の頃は勢いがすごかった印象ですが、2010年の世界選手権モスクワ大会の頃は団体のレギュラーメンバーとして戦い、団体戦ならではのプレッシャーも経験し、その後急激に佳純自身の意識が変わった気がします。
●ー中高時代の石川さんを知る人は、練習があまり好きじゃなかったと。でも途中から猛練習する選手に変わっていった。
平野 そうですね。2010年モスクワ大会の後、オリンピックを本気で目指そうと思った時期だと思います。
●ー今でこそオリンピックのメダルが当たり前のように思われていますが、ロンドン五輪は史上初のメダルでした。
平野 あの時は佳純はプレッシャーと言うよりも、伸び伸びと試合を楽しんでいるように見えました。その後のリオと東京と、ロンドン五輪は違ったと本人も言ってました。(ロンドン五輪・女子団体)準決勝のシンガポール戦は、私と佳純でダブルスを組みましたが、もともと愛ちゃんと佳純がダブルスを組んで、私がシングルスの2点起用の予定だったのが、前日にオーダーが変わったので、ダブルスのシンガポール対策は全然やっていなかった。ただ、私は佳純と何度もダブルスを組んでいたのでその経験が生きたんです。それがなかったらあのシンガポール戦での戦いはできなかったですね。
●ー「石川佳純」とはどういう卓球選手だったのですか?
平野 アスリート向きの人。卓球をするべくして生まれてきたような選手、そういう才能を感じていました。天才と言われる選手は山ほどいる中で、素晴らしい才能を持ちながらも、続けること、努力することの大切さを自分の中に落とし込んでいける人です。
気持ちの強さだったり、佳純らしさが見えた現役生活だった。自分の弱さを見せないし、インタビューでも人を傷つけることは一切言わない。自分を冷静に分析して淡々とコメントしている印象があった。本当は葛藤していることはたくさんあったはずなのに。
彼女は年々成熟していったアスリートでした。昔は怖いもの知らずで戦っていた選手が、今度はチームのエースとしてリオの団体戦みたいにしっかりと役割を果たしながら戦う。その後、時には若い選手のほうが成績が良いという時期がありながらも、チームのキャプテンとしてでしゃばることもなく粛々と自分の役割をこなし、陰でチームメイトを支えていましたね。
年齢を重ねながら広い視野を持ち、リオ(五輪・2016年)から東京までの時間の中で佳純が人間的にすごく成長しているのを身近で感じていました。人間として深みが出てきたと思います。「引退しました、ご苦労さまでした」ではなく、トップアスリートが引退後も印象に残るかどうかは大切です。結果だけでなく、立ち居振る舞いとか生き方は人の心の中に残っていく部分だと思う。大勢の指導者が「石川佳純のような選手を目指すんだよ」と子どもたちに言うような選手だし、彼女は自然体でそれができています。
自分のプレーや勝つことで頭がいっぱいの選手が多い。そういう人は自分を冷静に見えているかと言ったら見えていない。ところが佳純のように結果も残しながら現役中から広い視野を持ち、人間としての深みを持っていた人はなかなかいない。 逆に結果は残せないけど、人間的な深みを持つ人もいるし、結果だけを残してその後の人生で苦労する人もいます。「石川佳純」の場合は全部持っているんです。 今振り返ると佳純は小さい時から直感力があり、空気を読む賢さなんかもありましたね。
●ー性格も試合のやり方も石川さんは男っぽいですね? それに前に邱建新元コーチが言っていたけど、石川さんは競り合えば競り合うほど強気で攻める選手だと。
平野 最後に困ったら強気で攻めにいくタイプ、「こんなところであんなに思い切って打てるんだ」というシーンが多い。そんな選手はなかなかいないんですよね。
●ー改めて、先輩でもあり、チームメイトでもあり、盟友としての石川さんに贈る言葉をお願いします。
平野 淋しいですよ、もちろん。私の選手としての濃い時代を一緒に過ごした仲間なので。それに私ができなかったことを彼女に託していた部分もありますから、寂しい気持ちはありますけど、石川佳純は本当に頑張った、最後までやりきった、絶対人に言えない大変なことはヤマほどあったと思うけど、最後までやりきったところが佳純らしい。
彼女はどんな道に進んでも輝く人ですし、いろんなところで必要とされる人だと思うので、これから自分がやりたいことをやってほしいし、楽しんでほしい。楽しくやれる仲間と幸せに時間を過ごしてほしい。佳純、頑張ったね! 佳純、本当にお疲れさまでした。
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平野早矢香 ひらの・さやか
全日本選手権5回優勝。2012年ロンドン五輪で石川佳純選手、福原愛選手とともに卓球史上初の女子団体銀メダルを獲得。現在スポーツコメンテーターとして活躍
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