中東・カタールのドーハにて、日本時間の未明、戸上隼輔(井村屋グループ)とスウェーデンのモーレゴードによるメダルを懸けた準々決勝が行われた。
戸上は出足から両ハンドで鋭く切り込み、とどめはフォアの“カミソリドライブ”。特に、要所で出すバック側へのロングサービスからの展開が、モーレゴードのリズムを狂わせていった。
第1ゲーム、第2ゲームを連取し、第3ゲームでも中盤でリードを奪う展開に。
おそらく、試合を見ていた人の多くが「日本男子シングルスとしては46年ぶりのメダル獲得か」と胸を高鳴らせたに違いない。
しかしそこから、モーレゴードが本領を発揮。随所で見せる卓越したテクニック、競り合いに強いメンタルは、さすが五輪メダリストのそれだった。
最終的には4−2でモーレゴードが勝利し、戸上のシングルスはここで終わった。とはいえ、内容的には紙一重の勝負だった。
今大会、世界ランキング4位の張本智和に対しては、精神面での落ち着き、そして緩急を使ったボールコントロールで完勝。続くヨルジッチ(スロベニア)戦ではマッチポイントを奪われながらも、攻めの姿勢を貫いて勝ち切った。
その戦いぶりは、過去の戸上とは一味違っていた。それは、昨年から挑んでいるドイツでのプロ生活の成果が表れているのではないか。
昨年12月のインタビューでは、彼はこう語っていた。
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●ーそういう選手たちとやれることを求めてドイツに行った部分もありますよね。
戸上 もちろんそうです。最近、ヨーロッパの選手がランキングでも上位に入っているし、なぜ彼らが強くなっているかを知りたい部分もありました。
●ーキーワードは「対応力」ですね。ルブラン兄弟にインタビューした時も、「女子選手とやるのも、表ソフトでも粒高でも平気」と言ってました。
戸上 試合をするのも対応能力を上げる手段だし、ドイツに来て、いろいろな選手と練習するのもやはり対応力を上げる手段です。いろいろな回転のサービス、レシーブが来てもいろいろな返球方法を選択できる。
ルブランとめったに練習できないのに、ドイツに来たことで合宿ができたりとか、彼らの練習方法を盗むことができて、発見がたくさんあって面白いですね。
●ー当初、練習量に対する不安はあったにせよ、いろいろな気づきがあった半年間だったんですね。
戸上 本当に充実してますね。せっかくブンデスリーガに来たので、新しい環境でやりたかったし、日本のみんなに今の自分を見てほしいですね。大きくは変わっていないけど、ちょっと変わった戸上隼輔を見てもらいたいですね。(卓球王国PLUSより抜粋)
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戸上は一つのハードルを越え、メダルという大きな壁の前に手をかけながらも、あと一歩で乗り越えることはできなかった。
プロとしての道を歩み始めたとはいえ、「お金ではなく、強くなることが先。お金は強くなった後についてくるもの」という考え方を貫いている。
卓球に対してピュアに向き合う戸上は、ドイツでの練習を積み重ね、そして新たに上田仁というコーチを迎えた。ここからが本当のスタートだ。
メダルの壁を越える日は、きっと近い。
今回のドーハ大会は、戸上隼輔がそれだけのポテンシャルを持つ選手であることを、はっきりと証明する舞台となった。
波に乗った時の球威やプレーの勢いは世界トップで十分通用することを証明した今大会の戸上
上田仁コーチ(左)とのタッグはまだ結成されたばかり。彼らのストーリーの本章はこれからだ
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