本誌でもたびたび登場する作馬六郎氏が今年も全日本のベンチに登場。武田明子(01年世界選手権ダブルス3位)、福岡春菜(08年北京五輪代表)を育てた名指導者だ。近年ではニッタクから発売されている「剛力」シリーズ、「ドナックル」シリーズの監修者としてのほうが認知されているかもしれない。
実は大阪の阿倍野にある王子卓球センターは2020年の3月に取り壊されている。指導場所がなくなったことで作馬氏自身も「これで引退かな」と言っていたが、全国から「指導に来てほしい」「講習会をしてほしい」というオファーが相次いで、休まることはなかった。体調を壊してはいけないと、大好きな釣りの回数をやや控え、今は、広島の進徳女子高に月に数回ほど赴いてい指導している。また、「教えてほしい」と通ってくる選手もいるので、自宅に卓球台を2台置き、結局は普段と変わらぬ指導生活へ。やると決めたら中途半端にならないのが作馬流だ。
その決断力は選手をもガラリと変える。
現在、週3回ほど京都から習いに来ているという福井蓮彩(王子卓球)。
作馬のところに来るまでは両面裏ソフトの攻撃型だったが、レシーブができないという悩みを聞いて、なんとカットマンに転向させた。
「京都は全国にいける枠が少ないし、絶対勝てない子がいるから、なんとかしてほしいと私のところに来ました。裏裏でも全国大会には行ってたんですが、全国で1回戦負けがほとんど。まず、レシーブが下手な選手はその分をサービスで取らないといけない。サービス力を上げることが第一です。
そしてレシーブ力を上げるためにカットマンにしました。全国ではレシーブができないと勝てない。まずは入れないといけない。そのためにカットマンにして変化ラバーでカットして入れる。
あとはパワーがあるからチャンスボールが来たら決めていけますよ。攻撃7:カット3くらいの選手になってほしい」
福井は1回戦をゲームオールジュースで勝利。2回戦で香取位圭(正智深谷高)の丁寧なカット打ちに敗退したが、王子卓球らしい一撃必殺のサービスで得点を重ねた。
「2回戦の相手はカット打ちがうまかったですね。フォアに逃げていく横回転系のカットが必殺技ですが、それを打たずにストップしてきました。ベンチの樋浦さん(元日本代表)はさすがカット打ちを知ってますね。前後のフットワーク力ができてないので、厳しかったです。
レシーブが入るようになったのは成長です。あとはまとめるだけ。もっとカットに自信を持ってくれれば、パワーがあるのでおもしろい選手になると思いますよ」(作馬)
福井のベンチコーチが終わったすぐに、作馬氏は次のベンチへ歩き出した。前述の進徳女子高のベンチに入るのだ。その選手は用具からサービスまで、すべて作馬式に変えた立川朋佳。ここ1年で身長がぐっと伸び、今力をつけている選手。2回戦は遠山(滋賀学園高)との変化ラバー対決に勝利し、3回戦へ進出した。
「立川は話を聞いてくれる。そして疑問を聞きに来る。話をしっかり吸収しますね。枝広瞳(進徳女子高→神戸松蔭女子学院大)もですが、話を聞きに来る子は教えやすいし、私もきっちりとしたアドバイスができます。
聞きに来ない子にこちらから強制的に教えても、その場ではやるかもしれませんが、次に来た時にはもうやっていない。私の前だけいい子ちゃんになってしまっては良くない。
立川には同じスタイルの福岡春菜に3回くらい見てもらいました。サービス、ブロックなど、福岡みたいにはできないけど、要所で少しは入るようにはなってます」
まだぎこちないが、立川は今大会で王子サービスも披露した。
実は作馬氏の教え子たちは、全員が王子サービスが出せるわけではない。王子の選手でも阿部愛莉(インターハイ優勝/デンソー)、三條裕紀(インターハイベスト8/青山学院大)は王子サービスを使っていない。
「王子サービスはしゃがこみむので、体力がないとできないし、選手のスタイル、特に3球目の攻め方によって、サービスは変わります。立川は背も大きくなってきたので、もうやらなくていいんだけど・・・」と話していたが、王子サービスを受け継ぐ弟子が出てきてくれたことに、どこかうれしそうだ。
作馬流の王子スタイルを継承する立川。3回戦を突破して、菅澤(四天王寺高)に挑戦したい。
●ジュニア女子1回戦
福井蓮彩(王子卓球) -7、-9、4、8、10 河邉梨花(スネイルズ)
●ジュニア女子2回戦
立川朋佳(進徳女子高) 9、11、8 遠山雅(滋賀学園高)
香取位圭(正智深谷高) 7、3、5 福井蓮彩
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