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世界卓球の新星、スウェーデンのモーレゴード。その陰には元世界チャンピオン、69歳のベンクソンの存在

 

11月28日に終えた世界選手権ヒューストン大会(世界卓球・個人戦)。日本はダブルス種目で3個のメダルを獲得したが、シングルスのメダルはなかった。

この大会で注目を集めたのがスウェーデンのトゥルルス・モーレゴード。

スウェーデンは1980年代から2000年まで世界を席巻、中国と互角に渡り合っていた国だ。特徴はシェークハンドによる創造的なオールラウンドプレーだった。

精密機械のような中国卓球を、スウェーデンが意外性のある、創造的なプレーで切り崩していく様は爽快だった。しかし、2000年以降、ワルドナー、パーソンというスーパースターの力が落ちていくと同時に、スウェーデンも凋落をたどっていった。人口900万足らずの国から、天才的選手はそうそう出るものでもない。

ところが、世界卓球の男子シングルスで大接戦を繰り返しながら決勝まで勝ち上がったのが、モーレゴードだった。しかも、そのプレーはかつて世界中を興奮させた創造的なもので、まさに現代のファンタジスタと言ってもよい。

現代卓球では、男子卓球ではチキータからの両ハンドのドライブとカウンターというのが、ある種ステレオタイプのように定着しているが、モーレゴードはチキータはあまり使わず、フルスイングのドライブ連打はあるが、カウンターではドライブではなく、バックのカウンタースマッシュを用いる。サービスにも個性があり、独特のプレースタイルを形成している。

 

強烈なバックハンドのカウンタースマッシュを持つモーレゴード

 

卓球王国最新号(21日発売)では世界卓球直後にモーレゴードへのインタビューを掲載している。

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──全体を振り返っても、君は4-3のゲームを4試合も取っている。みんなが君は勝負強い選手で、強いメンタルを持っている選手だと思っている。

モーレゴード ぼくはまだ若いけれどもたくさんの経験をしている。自分のキャリアの中で、大事な試合を何回も経験して、そこで多くのことを学んだ。もちろん敗戦や勝利から学ぶことが多かった。19歳という年齢だから、世界選手権で戦うにはまだ若いし、重圧も小さかった。シード選手でもなかったから失うものは何もなかった。

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今回のモーレゴードのベンチには1971年世界チャンピオンのステラン・ベンクソンが入っていた。スウェーデンからアメリカに移住して、プロコーチをしているベンクソンだが、実はモーレゴードに会うのは初めてだった。

スウェーデンのパーソン監督にとって、ベンクソンは特別な存在だ。パーソンの子ども時代にベンクソンは憧れの選手であり、良き先輩だった。ふたりともスウェーデンの南西部のハルムスタッド(パーソン)とファルケンベリ(ベンクソン)と隣町の出身で、大の音楽好き。1991年の世界選手権千葉大会でパーソンがシングルスで優勝した時に、ベンチコーチをしたのはベンクソンだった。

ベンクソンがアメリカに移住したあとも親交が続き、今回アメリカで初の世界選手権開催となった時に、パーソンはモーレゴードのベンチコーチをベンクソンに依頼した。

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──今回、君のベンチに入ったのがステラン・ベンクソン(1971年世界チャンピオン)だったのでびっくりした(笑)。

モーレゴード 楽しかったよ(笑)。ステランはアメリカに長く住んでいて、今回、ヨルゲン(・パーソン/スウェーデン監督)が彼にコーチとして来てくれないかと頼んだ。彼は経験も豊富だし、卓球賢者というか、適切なアドバイスをしてくれてぼくを助けてくれた。彼がベンチに座っていることはとても素敵なことだった。

──ステランはファルケンベリ(スウェーデン)からアメリカに移住して長いよね。おそらく君はスウェーデンで彼に会ったことはないよね?

モーレゴード 会ったことはないよ。今回初めて会ったんだ(笑)。第1試合の3日前に初めて会っていろいろと話をした。長い時間ではなかったけど、最初から良い関係になるとわかったよ。彼はとても素晴らしいコーチだった。

──世代は違っても君たちは卓球という共通言語を持っている。

モーレゴード そうなんだ。すべての試合で、リードされている時でも相手を観察しながら彼は今何をすべきかをアドバイスしてくれた。彼なしではメダルは獲れなかったと思っている。

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モーレゴードは今大会で世界初の六角ラケット『サイバーシェイプ カーボン』を使用して、用具の方でも話題を振りまいた。

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──ヒューストンでは誰もが君のプレーと君のラケットに注目していたね。

モーレゴード 会場を歩いていると、「そのラケット、大好きだよ!」「なんてクールなデザインなんだ!」「どうやったら買えるんだ?」と数え切れない人に言われたよ。世界選手権の会場でそんな騒ぎになるとは思わなかった(笑)。

(コメントは卓球王国最新号『モーレゴード インタビュー』からの抜粋)

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現地アメリカで急きょベンチに入ったのは1971年世界チャンピオンのステラン・ベンクソン(左)

 

世界選手権では中国がメダルの大半を持っていくようになり、「卓球は中国のスポーツ」「アジアの寡占状態」と言われて長い。

そんな状況で、モーレゴードはヨーロッパの期待の星であり、世界の卓球界の希望なのだ。日本のように恵まれた環境を持ちながらも、日本男子はベスト16にひとりも残ることができなかった。メダルを期待されまがらも早々と姿を消した張本智和ももがき苦しんでいる。

モーレゴードのタフなメンタルと創造的な卓球は、どこかひ弱い、定形のプレースタイルの日本のそれとは対照的に映る。競技人口、強化予算、選手団のサポーターの数、すべてにスウェーデンを大きく上回る日本。しかし、卓球の強化でお金以上に大切なものがあることをモーレゴードは教えてくれた。

 

卓球王国最新号2月号(12月21日発売)

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