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欧州リポート

17歳で五輪欧州予選通過、気候変動対策活動に国連も注目、米・バイデン大統領と会談…アンナ・ハーシーって何者?

 5月15~19日にボスニア・ヘルツェゴビナで開催されたパリ五輪シングルスヨーロッパ予選で出場権を獲得した17歳のアンナ・ハーシー(ウェールズ)。IOC(国際オリンピック委員会)には連合王国である「イギリス」として加入しているため、五輪ではイギリス代表としてプレーするが、五輪卓球競技に初めて出場するウェールズ出身選手となった。

パリ五輪シングルスヨーロッパ予選では格上を連破して出場権を獲得(写真:ETTU)

 

 ウェールズ人の父親と中国人の母親の間に生まれ、5歳から卓球を始めたハーシーは2017年に行われたヨーロッパ選手権団体戦のチャレンジディビジョンに11歳で出場。6試合に出場して4勝2敗という成績を残した。

 翌2018年にはオーストラリア・ゴールドコーストで開催されたコモンウェルスゲームズ(イギリス連邦に属する国や地域が参加する、4年に一度の総合競技大会)にもウェールズ代表として出場。11歳での出場はコモンウェルスゲームズ全競技を通じての史上最年少出場記録として話題を集めた。

 その後、2019年には母親の祖国・中国に移り住み、フルタイムで練習するようになる。しかし、2020年初頭から新型コロナウイルスが蔓延し始め、ウェールズ選手権に出場するため帰国した後は中国へ入国することができなくなり、中国での生活を断念。自国でトレーニングを続けている。

 その後、2021年の世界ユース選手権U15女子ダブルスではピント(ポルトガル)とのペアで3位に入賞。2度目の出場となった2022年のコモンウェルスゲームズではキャリーとのペアで銅メダルを獲得し、ウェールズ女子にとって同大会卓球競技初のメダルをもたらした。2023年の世界ユース選手権ではカウフマン(ドイツ)とペアを組んでU19女子ダブルス準優勝にも輝いている。

 パリ五輪ヨーロッパ予選時の世界ランキングは出場選手36名の中で上から16番目の98位だったが、マダラシュ(ハンガリー)、ククルコバ(スロバキア)、ポータ(ハンガリー)と上位ランカーを破って出場権を獲得。次々に試合をこなすタフな連戦を制しての予選通過に「とても疲れていたので、次の日は15時間も寝ていました。オリンピックに出場するのはとても興奮します。5歳で卓球を始めた時からずっと夢見てきたこと」と語った。

昨年の世界ユース選手権ではU19女子ダブルスで準優勝(写真:WTT)

 そんなハーシー、17歳での五輪出場権獲得も見事だが、選手としてだけでなく環境保護活動にも力を入れる。ハーシー自身が喘息を患っており、その症状を改善させるため、彼女の父親は気候変動や大気汚染、地球温暖化などの環境問題について勉強。父親から気候変動について教えられるうちにハーシー自身も関心を持ち、勉強するようになった。

 「情報を得ることで、物事を客観的に捉えられるようになります。地球が温暖化し、氷河が溶け、海面が上昇していることに気付いて初めて、私たちは運命を一つとして捉え始めます。それは私たち人類の苦しみに関することなのです。

 どんな小さな変化でも構いません。歯を磨く時に蛇口を閉め、使用していないときは照明や機器のスイッチを切り、可能な場合は歩いたり自転車に乗ったりして、プラスチックの使用を減らし、再生可能エネルギーを支持し、物を無駄にしないこと。これらは、私たちがすぐに始められることのほんの一部です。

 私たちはできる限り車を使わず、歩いて移動することでプラスチックやエネルギー、化石燃料の使用を減らす、小さな取り組みを始めました。また、できる限り二酸化炭素排出量を少なくするように努めています。試合に出場するために飛行機に乗らなければならないこともありますが、植林や森林伐採防止活動に寄附をすることで、その分を補うようにしています」(ITTFインタビューより)

 

 そうした取り組みは国連からも注目され、2020年にはUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に要請され、「スポーツを通じた気候行動枠組み」に署名。これはスポーツの力を活用し、気候変動問題に取り組むための枠組みで、2023年12月6日時点で252団体が署名しており、スポーツを通じて、競技団体やチーム、選手、ファンに対して気候変動に関する提言や活動を進めるもの。スポーツ界における気候変動問題の若きスポークスマンとして期待されており、若い世代に対するアプローチを行っている。

 さらに、2021年にはアメリカ大使館から気候変動対策について協力のオファーを受け、気候変動政策に力を入れるジョー・バイデン大統領と会談。「卓球界のグレタ・トゥーンベリ」とでも評したくなる活動ぶりを見せている。

 「卓球選手として、そして自分の競技を代表する者として、私は自分の知識を人々と共有し、気候変動を食い止める変化をもたらしたいと思っています。私は森林を保護し、より多くの木を植え、政治家やスポーツ団体にカーボンニュートラルになるよう促す手紙を書きました。気候危機と戦うために、個人、団体、政府が行動を起こす必要があります。

 スポーツをしたり観戦したりする人は大勢います。ですから、スポーツ関係者が気候変動について声を上げ、人々に認識してもらうことができれば良いなと思っています。卓球に携わる団体は、卓球選手やそのコミュニティに働きかけ、低炭素ライフスタイルの重要性を啓蒙するべき立場にあります。地球を救うために、誰もが自分の行動を変える必要があるのです」(ITTFインタビューより)

 アスリートとして競技を極めながら、気候変動を身近な「自分ごと」の問題ととらえて声をあげる17歳。「持続可能性」が叫ばれる時代において、アンナ・ハーシーは新時代のアスリートを象徴する存在になるかもしれない。

パリ五輪時には18歳になるハーシー。初の五輪でどこまで勝ち上がれるか(写真:ETTU)

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