蘇州での世界選手権決勝では最終ゲーム0ー1で丁寧は右足首を傷めた。
劉詩雯の左右への揺さぶりで中陣に下がる。バックハンドの後、ミドルに来たボールを体をよじりながらフォアハンドで返球しようとしゃがみ込んだ時、右足首が不自然に折れ曲がった。テレビ解説の張怡寧(元五輪金メダリスト)もリプレイを見て、思わず「ワーッ」と声を上げるほどだった。そのまま立ち上がれずに痛みで顔をゆがめる丁寧。
集中力を切らさないようにじっと床を見つめながら時間が経つのを待つ劉詩雯。アイシング、コールドスプレー、そしてテーピングで処置をして丁寧がコートに戻ったのは10分後。0ー2から再開したものの、右足での踏ん張りはきかず台から離れたラリー戦を封印した。
やりにくかったのは明らかに劉詩雯だ。中陣でプレーしていた丁寧は前陣プレーに切り替え、カウンターとブロックを駆使するしかなかった。劉詩雯は待たされたあげくに、足を引きずる相手とプレーを続けることになる。
4ー5でチェンジエンド。ここから4本連取して8ー5。ビッグタイトルを前にして集中しきれない劉詩雯と、プレーすることだけに集中する丁寧。10ー8でマッチポイントを取る丁寧。最後はそれまで感情を押し殺していた表情を優勝決定の歓喜のガッツポーズに変えた。
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●−−世界選手権蘇州大会を振り返ってみましょう。競り合いの試合が多かったですね。 準々決勝で武楊、準決勝で木子、そして決勝の劉詩雯と、すべて4ー3の試合を勝ち切っていきました。優勝への道のりで重要なポイントはどこでしたか?
丁寧 どことは言えません。すべてが辛い試合でしたね(笑)。そういうのを乗り越えないとやはり優勝できないものですね。
●−−そして決勝です。最終ゲームの0ー1で右足を傷めました。
丁寧 バックに来たボールを回り込もうとして足を傷めた。「このボールは打てる」と思いました。処理が難しいボールではあると思ったけど、それでケガをするということはとっさに考えなかった。
●−−あとでビデオを観ると、ものすごい角度で右足首が折れ曲がっています。よく骨折しなかったなと。
丁寧 右足首部分の外側を傷めました。あの時はまさか自分がケガをすると思っていないし、体が勝手に反応しボールを返球することしか頭にはなかった。一瞬の出来事でした。
●−−10分間の治療時間が与えられましたが、その時は何を考えていましたか。棄権することも頭をよぎったのでは?
丁寧 緊急の処置をすればプレーはできると思っていました。足もすぐには腫れなかった。とにかくやってみようと。治療が終わってから動きの制限があったので、一瞬、棄権することも頭をよぎりました。ただ、結果はどうであれ、試合を終わらせなければいけないという思いもありました。
●−−一方、相手の劉詩雯からすると、なるべく気にしないで集中しようという様子でした。その時点で、二人は全く別々の気持ちを抱きながら、心理面で戦っていますね。
丁寧 その時には相手の劉詩雯を見る余裕は全くなかったんです(笑)。どこにいるかも知らなかった(笑)。本当に自分の足のことだけで頭がいっぱいで余裕がなかった。
●−−そういう中で決めた優勝というのは。
丁寧 治療が終わってから、とにかく試合を最後までやりきろう、最後までプレーしようと、それしか考えていなかったし、結果も考えていなかった。終わった瞬間は信じられなかったですね。だって、優勝する、しないということを考える状態じゃなかったから。
表彰台に上がった時も、実感がないというか、足のケガとか苦しいことがありながら、よくここまで来たなとしか感じなかった。
●−−今(6月)は大丈夫ですか?
丁寧 7、8割程度まで良くなっています。大会が終わって2週間休みがあって、その後、超級リーグが始まりました。
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