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[女王の独白] 世界チャンピオン 丁寧

長距離を走っているんじゃないかと

思うくらい、短距離は遅い。

みんなが何で卓球では動けるのに、と呆れてます

 

インタビューでの丁寧は終始笑顔で饒舌だった。この天真爛漫な明るさが彼女の魅力であり、試合の時の鬼のような形相と明確なコントラストを作っている。この少女のような笑顔と、アスリート的でカッコいいプレー、ボーイッシュな容姿が中国の女性の心をとらえ、「丁寧親衛隊」とも言うべき「叮当」というファンクラブの人たちが全国から蘇州に駆けつけていた。

●−−世界選手権というのは、外国選手もそうだけど、結局は国家チームのチームメイトとの争いになりますね。

丁寧 そうですね。子どもの時からそういう環境でやっているから慣れている面はあります。当然、卓球をやっていく限りは目標はひとつしかない。世界選手権とはいえ、優勝者は一人しかいないわけで、チームメイトはライバルであることも事実です。いくら普段仲が良くても、試合では勝つか負けるかしかない。若い時は強い人を倒しつつ優勝を狙っていましたが、今は自分が狙われる立場になっています。その立場に慣れるまでは時間がかかりました。その心理面での調整をうまくやらなければいけません。

 

●−−あなたは黒龍江省で生まれ、お母さんはバスケットボールの選手で、お父さんがスピードスケートの選手だった。なぜあなたは卓球だったんですか?

丁寧 本当はスケートも好きだし、お母さんがバスケットボールのコーチをしていて、バスケットが一番好きだったんです(笑)。でも、バスケットは9歳とか10歳くらいで始めることが多くて、小さい頃の私はできない。そこで、お母さんがコーチしている体育館に行った時に、2階が卓球場だったので、「上に行って遊んでいなさい」と言われて卓球場に行くようになった。それが卓球を始めるようになったきっかけで、そのまま卓球が好きになって、続けるようになりました。

 

●−−北京チームにスカウトされて、移ったのは?

丁寧 10歳で北京チームに行きました。7歳か8歳の頃、大慶にある黒龍江のチームの寮に住んでいたので、週に1回か2回しか家には戻れなかった。家から離れるのは慣れていました。逆に北京に行った時には喜んでいたんです。親の監視の目から離れられるから(笑)。でも1カ月経ったらホームシックで帰りたくなりました(笑)。

 

●−−国家チームに入ったのは何歳ですか?

丁寧 13歳です。そして二軍に2年間いて、15歳で一軍に上がりました。リンツ(オーストリア)の世界ジュニアで優勝したのは、ちょうど国家チームに上がった頃です。

 

●−−二軍での練習はどうでしたか?

丁寧 非常に伸びたのはその二軍にいた時期です。周りの二軍選手は15歳くらいだったので、年上の選手と練習することによって自分が強くなっていったんです。

 

●−−あなたの卓球はアスリート系ですね。最近の中国女子の卓球が男性化していると言われているけど、その中でもあなたはフットワークを使った卓球で、中陣でのラリー戦に強く、過去のチャンピオンや他の女子選手と比べても異色の卓球ですね。

丁寧 私の卓球は遊びの中で強くなったものです(笑)。卓球をやりたくて基礎を教えられたものではなく、遊びながら始めた卓球なので、すぐ台から下がる癖がついたんです。小さい頃からロビングを上げてましたから(笑)。それで北京チームに行った時も、コーチが台から下がる癖を直そうと後ろにフェンスを置いたり、すぐ後ろにイスを持ってきてそこに座って、私が下がらないようにしたのです。06年に一軍に上がった時も施之皓(前監督)にも「後ろに下がるな」と同じことをされました(笑)。

 

●−−卓球から想像すると、相当足が速いでしょ?

丁寧 スピードスケーターのお父さんの血を引いているのか、横の動きは速いけど、普通に走るとメチャクチャ遅いんです(笑)。みんなが長距離を走っているんじゃないかと思うくらい、短距離は遅い。みんなが「何で卓球では動けるのに……」と呆れてます。

 

●−−それは意外ですね。自分の卓球の中で一番大切にしているのは何ですか?

丁寧 やはりラリーですね。ラリーに持っていけたら自分の展開です。自信を持っています。

 

●−−逆に、改善すべき点は?

丁寧 攻撃力ですね。特にサービスからの攻撃力を強化しなければいけない。

 

●−−日本も若い選手が出てきていますが、日本選手をどう見ていますか。

丁寧 日本の雰囲気はとても良いと思う。特に協会は若い選手にたくさんのチャンスを与えている印象があるし、そういう若い選手に良い環境を与えて、その中で練習ができているように見えます。たくさん遠征のチャンスが与えられて、その中で伸びているし、進歩しているのは確かですね。でも、どの選手が将来チャンピオンになるかは言えない。私が子どもの時でも誰も私が世界チャンピオンになるなんて思ってなかったんですから。

ただ、成功するためには、大事なポイントがあります。指導者も大切だけども、最終的には選手本人が今の自分に何が足りなくて、何をすべきかというのをわかっていないと世界のトップには行けない。

 

●−−中国の国家チームではみんなが世界チャンピオンになりたいと思っている。でもチャンピオンは一人しかいない。あなたは自分が頂点に立ってみて、チャンピオンになるには何が必要だと感じていますか。チャンピオンになれる人と、なれない人の差はなんですか?

丁寧 中国の国家チームの選手というのは、実力はみんな一緒です。重要な点は、その選手が自分の卓球をどのくらい理解しているのか。その選手がどれだけ他人より多く犠牲を払っているのか。

国家チームの中では練習時間はほぼ一緒です。大切なのは練習内容の濃さと理解度。自分がどこを追求しているのか。チャンスを自分のものにしているか。あとは運です。実力が同じだとしたら、そこに付け加えるプラスアルファが必要です。運というのは、形に見えないものです。結局、自分が目標として掲げたことにどれだけベストを尽くしたのか。ベストを尽くした時には運も向いてくる。

 

●−−来年のリオ五輪は、あなたにとって最後のオリンピックになるかもしれないし、ロンドンで悔しい思いをした、その無念を晴らす大会になるかもしれませんね。

丁寧 確かにロンドンが終わった時も周りの人は、「あなたはまだ若いからリオがベストだよ、4年後のオリンピックがあるから」と言ってくれたけど、先のことなんて誰も想像がつかないし、未知の部分です。これが最後だと思うとプレッシャーがかかってしまうけど、積極的な気持ちが必要ですね。卓球選手にとってオリンピックは夢の舞台であるけれども、夢を実現するために何をすべきかということに集中するしかないんですよ。

 

●−−でも、ロンドンが終わった時には「これから4年間は長いな」と思ったでしょ。

丁寧 そうそう、そうなんですよ(笑)。でもここまで来たらあと1年ですから。

 

●−−蘇州大会で驚いたのは、あなたの親衛隊(ファンクラブ)が大勢応援していたことです。

丁寧 「叮当」ですね。他の選手にもああいうファンの人たちはいるんですよ。ただ、私のファンクラブが一番大きい(笑)。蘇州の時にも全国から集まって来ましたね。試合の時にはみんなが来るんですよ。誕生日のお祝いとしてパーティーを開いたりしてくれるので、そういう時に私も出席します。超級リーグの北京の試合の時に誕生日(6月20日)だったので全国から60、70人くらい集まってくれました。あだ名も作ってくれるんですよ。「鉄人」とか言われてます(笑)。

 

●−−リフレッシュする時に何をしているんですか?

丁寧 友だちとご飯を食べに行ったり、映画を観に行ったりします。

 

●−−踊ったりしていない? 以前、You Tubeに踊っている動画がありましたね(笑)。

丁寧 子どもの時は踊っていたけど(笑)。最近はないです(笑)。

 

●−−卓球選手を終えたら何をしたいのですか?

丁寧 遊学したい。バックパックを背負って世界中を旅行したい。見聞を広めたいし、旅行に興味があります。日本にも旅行で行きますよ(笑)。

 

●−−ぜひ来てください。今日はありがとうございました。

「世界中を旅するのが夢」と女王は言った。

その前に、「五輪金メダル」というすべてのスポーツアスリートにとっての夢をつかもうとしている。しかも、それは彼女にとってすでに夢ではなく、悲願であり、目標なのだ。

男子の馬龍と同様、丁寧も失意の底から這い上がり、世界タイトルをつかんだ。苦しさやアクシデントを乗り越え、より強いメンタルを備えて世界の頂点に立った。

丁寧にとってブラジルのリオデジャネイロが、ロンドンの悔しさを晴らすための約束の地になるのだろうか。

(文中敬称略)

 

丁寧●ディン・ニン

1990年6月20日生まれ。中国・黒龍江省大慶市の出身で、北京市女子チームの周樹森監督にその才能を見出され、北京市チームの一員となる。05年世界ジュニア選手権で優勝、09年アジア選手権で優勝。10年世界団体選手権決勝のシンガポール戦では、トップで馮天薇に敗れてチームも9連覇を逃し、大きな挫折を味わったが、翌11年に行われた世界選手権で初優勝。12年ロンドン五輪では決勝に進出するも、先輩の李暁霞に敗れて銀メダル。2015年世界選手権蘇州大会シングルス優勝。現在世界ランキング1位(15年8月)

「最終的には選手本人が今の自分に何が足りなくて、

何をすべきかというのかをわかっていないと

世界のトップには行けない」

 

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