卓球王国 2022年6月21日 発売 vol.303
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今野の眼

【卓球】中国の支配と、中国に依存する世界の卓球界。9月の世界選手権開催はどうなるのか!?

中国開催は絶望か!?
代替え地はどこになるのか

 

今年9月30日から、中国の成都で世界卓球団体選手権が開催される予定になっているが、、9月10〜25日に杭州で開催が予定されていたアジア競技大会をはじめ、様々なイベントを延期、中止している現在の状況では中国開催は相当にハードルが高い。アジア競技大会ほどの規模ではなくても、卓球の世界選手権では相当数の選手、関係者が移動するので、現実的に開催は難しいだろうが、国際卓球連盟(ITTF)からの公式の発表はまだない。
卓球界は最大のビッグイベント、世界選手権の中国開催の4カ月前にして、まるで梅雨空のようにすっきりしない時期を迎えている。「もしこれがヨーロッパだったら開催できたのに」と思ってみても後の祭り。ITTFは「中国開催中止」を視野に入れて、代替え地を探しているのだろう。

1950年代に卓球界で急激に頭角を現した中国。国技として国家的なサポートを受けながら、中国卓球は発展を続けた。卓球の用具にしても技術にしても、世界の卓球の発展と進化は中国が常にリードしてきた。
一時、強すぎる中国から代表になれない選手たちが世界中に拡散し、帰化選手として世界中の多くの協会の代表選手として国際大会や世界選手権、五輪に出場した。世界卓球の「中国化」を防ぐために国際卓球連盟(ITTF)は帰化選手の制限を厳しくした経緯がある。
1990年代初頭までは中国選手が海外に行って、プレーしたり、そのまま定住してその国の代表として出場するケースが多かった。当時の中国はまだ経済的に発展途上で、中国選手たちは「海外への出稼ぎ」のために数年、海外のプロリーグや日本の実業団チームに行けば、中国で稼ぐ何倍もの収入を得ることができた。ところが、経済発展を続け、1999年に超級リーグというプロリーグができてからは、海外に行かなくても彼らは十分なお金を稼げるようになった。むしろ、2000年以降の中国選手はヨーロッパや日本選手よりも収入が格段に増えていくことになる。

その頃から世界選手権や国際大会のスポンサーとして中国企業が数多く参加するようになり、世界選手権の開催は、今年9月の成都での開催が2000年以降、中国としては4回目(05年上海・08年広州・15年蘇州)になる。今や中国はその強さで世界をリードするだけでなく、大会を開催する組織力、スポンサーなどの資金力で世界卓球界をリードしている。しかも、その強さがあまりに突出しているために「卓球=中国」という強いイメージを一般の人に与えているのが現実だ。

 

WTTと日本卓球協会の乖離(かいり)。
日本での国際イベントは
いつできるのだろう

 

ITTFグループの組織として、国際大会の運営の組織として立ち上げられたWTT(ワールドテーブルテニス)のチェアマンには、中国卓球協会会長の劉国梁氏が就任。WTTは本部をシンガポールに置き、ITTFのイベントの大部分を仕切ろうとしている。

その構想では、WTTシリーズとして34大会(4グランドスマッシュ・2カップファイナル・8チャンピオンズ・6スターコンテンダー・14コンテンダー)、その下のWTTフィーダーが60大会、さらに下のWTTユースシリーズを100大会開催しようとしている。

一時はWTTへの権力集中に対して、ヨーロッパの卓球の中心であるドイツ卓球協会が抗議文を出し、噛み付いたが、状況が変わることはなかった。変わったのはITTF会長で、トーマス・バイカート氏(元ドイツ卓球協会会長)は会長を降板した。
WTTはシンガポールを拠点にしながらも、当初からチャイナマネーに依存している実態があり、中国からのスポンサーマネーがWTTを支えている。

卓球のファン層の77%がアジアに集中(WTT発表データ)している現状では、スポンサーがアジア、とりわけ中国に集中しているのも当然と言えば当然だ。

日本ではワールドツアーのような国際イベント(ジャパンオープン)は2019年以来、開催されていない。WTTと日本卓球協会の折り合いがつかず、中国のメディアでは「宮崎義仁・強化本部長は日本の卓球界での彼自身の影響力を利用して、WTTイベントに対する彼の個人的な不満を日本の卓球選手の将来に強制的に結び付けている」(「今日頭条」より)と批判されているが、宮崎本部長の言い分とは相違がある。(詳しくは6月21日発売の卓球王国で掲載)
WTTによるイベントの国際基準が大きく変わり、その指示書ではWTTスマッシュのような大会では、世界選手権イベント並みの予算を求められるが、これらの大会を複数年できるのは中国か、カタールしかない。スポンサーを集められる日本での卓球の人気や力と、WTTの求める水準が違いすぎるようだ。

 

 

昨年の世界選手権ヒューストン大会での中国大選手団。中央のスーツ姿が劉国梁会長

 

強すぎる中国と、
中国に依存している
国際イベント

 

ビッグイベントでの中国の優勝は、まるで答えのわかっている試験問題を眺めているようなものだ。時に違う答えが出て興奮もするが、ほとんどは答えどおりになる。

中国の強さについては批判するつもりはない。彼らが国の威信を懸けて努力をした結果であり、敬意を表するしかない。ただ、卓球の世界的な人気を考えれば、「強すぎる中国」にファンが興味を失うことも受け入れるしかない。

世界選手権の個人と団体のタイトルで、中国が制覇したタイトルを10年ごとに見ていくと1960年代は31%、70年代は47%、80年代は80%、90年代は76%、2000年から09年までは91%、10年から2021年までは93%の割合で中国がタイトルを獲得している。五輪にいたっては37個の金メダルのうち中国が32個(86%)獲得している。ひとつの国がこれほど独占的に強い競技は卓球だけだ。中国は世界のビッグタイトルを支配している。

だからこそ、昨年の東京五輪での水谷隼・伊藤美誠の混合ダブルスの優勝は価値のあるものだった。世界中の卓球選手、コーチ、協会関係者から日本へお祝いのメッセージが届いたのは、中国独占時代にくさびを打ち込んだ日本の勝利への喝采だった。誰もが溜飲をおろした瞬間だった。

一方、中国では卓球が国技と言われているが、強すぎるゆえに人気も低迷している。プロ選手としての大きな収入源でもある超級リーグも開催や競技日程が安定しないし、「中国卓球界の柱にしよう」という姿勢は見えない。
世界の卓球界に中国卓球は寄与し、卓球界を発展させ、そして経済的にもリードしている。中国の支配度と中国への依存度の高まりによって、中国の存在が卓球界の内憂外患(ないゆうがいかん)となるのか、それとも卓球選手たちの憧れの存在、もしくは打ち負かす大きな目標として存在していくのか。

中国以外のシングルスの五輪チャンピオンは2004年の柳承敏(韓国)以来、18年間。世界選手権のシングルスチャンピオンは女子では1993年の玄静和(韓国)以来、29年間。男子では2003年シュラガー(オーストリア)以来、19年間生まれていない。

 

 

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