卓球王国 2022年1月21日 発売 vol.298
バックナンバー 定期購読のお申し込み
トピックス

もし選手が、子どもが可愛いかったら、コロナ後に旅をさせろ

 

 

ロシアリーグでプレーする水谷

 

指導者には2つのタイプがあるようだ。

ひとつは、自分が教えている選手(時には自分の子ども)を外に出さずに、自分のチーム内で強くさせようとする人。自分の教え方に絶対的な自信を持ち、練習場がまるでお城のように、その城内で選手を育てようとする人だ。他の練習場に行って、他のチームとの接触を嫌い、他の指導者に選手がアドバイスをもらい、選手が迷ってしまうことを嫌う人もいる。

もうひとつは、積極的に外に行き、他チームとの練習試合や合同練習を重ねていくことを奨励するタイプの指導者だ。

指導スタイルはいろいろあるが、卓球王国最新号で紹介したのは、指導者のスタイルではなく、選手個人が異郷の地で挑戦し、武者修行で強くなっていった男たちの話だ。

1月の全日本選手権大会の男子シングルスで優勝した及川瑞基(木下グループ)を筆頭に、男子上位者にはブンデスリーガや他の海外リーグの経験者が多かった。彼らが見せたのは高い技術力だけではなく、タフなメンタルだった。

いつも同じ相手とだけ練習する選手がいる。当然、やり慣れているのでボールの軌道、打球タイミングがわかっていてラリーは続くし、自分の調子も上がっていく。「おれ、調子いいな、強くなったな」と思うだろう。ところが、いざ他チームとの練習試合や大会に出たら思うように調子が上がらない、いつも入るボールが入らない。いつもの練習場と違う場所で試合をやった時に、台の弾みや会場の広さの違いで、自分の調子が違うと感じる人も多いだろう。

これは練習環境や練習相手がマンネリになっていることによる「勘違い」かもしれない。

卓球王国最新号では、海外リーグを経験した6人の旅人を紹介した。

ひとり目の松下浩二は日本卓球界のプロ第1号で、初めてブンデスリーガでプレーした日本人だ。

「海外での経験で一番良いのは自立心が高まることだ」「卓球の『勝った負けた』だけでなく、様々な環境に対応したり、問題が起きて窮地に陥った時に解決策を考えることでメンタルが強くなる」(松下)。

2人目は、全日本選手権で10回優勝し、リオ五輪で2個のメダルを獲得した水谷隼(木下グループ)。ドイツリーグの3部からスタートし、1部の名門『ボルシア・デュッセルドルフ』まで上り詰め、ドイツで5シーズンプレーした後、中国の超級リーグで3シーズンプレーした。2012年ロンドン五輪で敗戦を喫し、自らを奮い立たせるためにロシアリーグに挑戦し、海外で合計13シーズン戦った。

その成果が、五輪のメダルとなった。

「いつも同じ選手としか練習をやらない人は大会で想定外の選手とやると弱いと思う。最初やりづらいと思う相手でも、そのタイプの人と何回も練習や試合をしていくと、途中からやりやすくなるものだ」(水谷)。

3人目はロンドン五輪でベスト8に入り、世界選手権でも多くのメダルを獲得している岸川聖也(ファースト)だ。2002年に当時、中学3年生だった岸川は坂本竜介とドイツに渡った。

「ぼくはドイツに行って強くなったし、ドイツに行っていなかったら間違いなく五輪には出られなかった」「日本の若い選手はTリーグに登録しても試合に出られないのなら、海外でプレーするのもひとつの選択肢だと思う」(岸川)。

岸川がドイツに渡った当時は、日本人のシェーク攻撃型がヨーロッパに行って練習しても世界で勝てないと思われていた。しかし、岸川が高校生になりインターハイで3連勝をすると、日本の選手も指導者も考え方が大きく変わり、フォアハンド偏重のプレースタイルが一気に両ハンド攻撃スタイルに変わっていったのだ。

2000年以降の日本の卓球スタイルを大きく変えたのは水谷と岸川と言って過言ではない。

 

ドイツで7シーズンを経験し、ドイツ語と英語も堪能な全日本チャンピオン、及川

 

4人目は全日本チャンピオンになった及川瑞基(木下グループ)。160cmという小柄ながら、ドイツでは7シーズン戦い、ブンデスリーガ1部でも勝ち越すほどに実力をつけた選手だ。180cmを超す大きなヨーロッパ選手に対して、どのように戦えば勝てるのかを実戦を通して身につけていった。そして全日本では抜群の対応力を見せた。

「2部以下のリーグではフロアマットもなく床が滑ったりとか、フェンスもブヨブヨだったり、審判も自分たちでやったり、車で4時間、5時間移動してすぐに試合とか、そういう環境の中で、試合をする。その経験というのは、日本にいたらできなかったし、今回の全日本のような特別な環境下でも、ぼくは動じずに自分のプレーに集中できたと思う」(及川)。

5人目はドイツ8シーズン、チェコ1シーズンを経験した森薗政崇(BOBSON)だ。全日本では惜しくも決勝で及川に敗れたが、安定した試合ぶりを見せた。

「日本の若手は環境面では恵まれているかもしれないけど、『環境が恵まれている=強くなる』とは言えない気がする。それがドイツを経験して感じたことだ」(森薗)。

6人目は、同じくドイツで5シーズンプレーし、全日本では3位に入った吉田雅己(栃木県スポーツ協会)だ。「日本の恵まれた環境で練習や試合をして対応力を身につけるのは難しいかもしれない。若いうちはお金(収入)のことを考えずに海外に行って、たくさんの経験を積むことがその後の卓球人生にとっても重要なことではないか」と吉田は言う。

 

みんな口々に言うのは、日本にTリーグができてよかった。しかし、Tリーグに出場できる日本選手は少ないし、試合ができなければ試合経験も少ない。ドイツのように毎週末に試合ができる環境のほうが若手には良いということだ。

海外に行けるのはごく少数の選手だ。もう少し自由に移動ができるようになれば、ほかのチームとの合同練習や練習試合、もしくはオープン戦へ参加することによって、国内での武者修行を経験することが可能になるだろう。厳しい環境や様々な相手との練習や試合を経験することが、その選手の成長につながることが、今回の卓球王国の特集でわかる。

指導者は選手が可愛ければ、親御さんは自分の子どもが可愛ければ、旅をさせるべきなのだ。卓球も強くなり、メンタルも強くなるはずだ。

 

卓球王国最新号での特集「可愛い子には旅をさせろ」