卓球王国 2024年3月21日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
インタビュー

【後編】「感情に従って生きるのが一番」 吉田光希が欧州で戦い続ける理由

●「プレーしながら卓球を勉強したい」

 現在、吉田はプレーヤー以外にも活動の幅を広げている。ドイツ女子のホープであり、ベーブリンゲンの同僚でもあるアネット・カウフマンの練習パートナーを務め、2003年ヨーロッパ選手権男子シングルス準優勝のトーベン・ボージック(ドイツ)が経営する卓球場でコーチとしても活動する。午前中を自分の練習に充て、午後からはコーチやトレーナーという生活だが、指導する立場でもあるからこそ、選手としてプレーすることに意味があると考えている。

 「ホンギに習ったことを誰かに教えるにしても、私は不器用なので、自分で感覚や理論を理解していないと人に教えられない。これは持論ですけど、感覚的な部分を自分のものにできれば、すぐに上達すると思っています。先に感覚で覚えたほうが、そこから理論や考え方も理解しやすくなる。

 卓球の技術って感覚的な要素も多いじゃないですか。そういう感覚的な部分を伝えるのも大事だし、それは自分でつかんでおかないと教えられない。自分でできるようにすれば、どう練習したらその感覚をつかめるかも考えられる。そのために選手としてプレーしながら卓球を勉強していきたいんです」

 1年ほど前から吉田が練習パートナーを務めるカウフマンは、昨年のヨーロッパユーストップ10女子カデットでチャンピオンに輝いた14歳のサウスポー。ブンデスリーガでもリオ五輪団体戦銀メダリストのゾルヤを下すなど、大器の片鱗を見せている。カウフマンのことを語る吉田の口ぶりは、どこか妹のことを話すようでもある。

 「アネットはこの1年くらいで急激に強くなりましたね。運動神経も良くて、身長もある。今は175㎝くらいはあると思います。教えたこともポーンと自分のものにできて、4カ国語を話せるくらい頭も良いんですよ。アジアだけじゃなく、他の地域からも強い選手が出てこないと卓球界が盛り上がらないし、その方がおもしろいじゃないですか。だから、アネットには期待しています。

 文化的にヨーロッパはコーチに強制されるのを嫌うし、選手に興味を持ってもらうようにやらないと話を聞いてくれない。なので、指導者と選手っていう感覚じゃなく、友だち感覚でやってます。一緒に遊んだり、アドバイスも『こうじゃない?』みたいな感じで。フレンドリーにやったほうが壁もなくなって良いですね」

ドイツ女子期待の若手であるアネット・カウフマン(写真提供:ETTU)

 

●日本選手の試合は「特にチェックしない」

 昨今、様々な国際大会で日本勢が活躍を見せているが、特に日本選手の結果をチェックすることはないという。しかし、たまたま目にした10代の日本選手2人のプレーには目を惹かれた。

 「アネットが『日本の○○勝ったよ』って教えてくれたり、一緒に試合の動画を見たりはするけど、自分で結果をチェックすることはないですね。左の若い子いるじゃないですか。長﨑さん(美柚)ですかね。あとショートカットの子。そう、木原さん(美悠)。たまたま試合を見たことがあるんですけど、あの2人はスゴいですね。基本がバッチリできてて、重心がブレないし、卓球もキレイで将来が楽しみですよね

 

 また、カウフマンが国際大会に出場した際、ある日本選手の練習風景を見て驚いていたエピソードも教えてくれた。

 「日本の選手が練習している時に、その選手のお母さんがボール拾いをしていたんです。アネットがそれを見て『え、お母さんがボール拾いしてるの!? ウチのお母さんだったら、私、殺されてる!』って言ってましたね(笑)。日本人的な感覚だと『我が子を支えてる』っていう感じだし、そのほうが練習の効率も良いんでしょうけど、文化とか環境の違いがあるからアネットにとっては驚きだったみたいです」

関連する記事