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インタビュー

【後編】「感情に従って生きるのが一番」 吉田光希が欧州で戦い続ける理由

●「結果以上のものを得た」長崎国体

 ヨーロッパの国内リーグがシーズンオフになる夏には、日本に帰国する。楽しみなのは日本食。ドイツにも日本食レストランはあるが、本物の日本食は「やっぱり違う」そうだ。昨年の夏も日本に帰国したが、到着後はPCR検査の結果待ちで19時間ほど空港で待たされ、その後2週間の隔離期間。これは「相当しんどかった」らしい。

 また、2014年以降、吉田には帰国の度に訪れる街がひとつ増えた。それは長崎県。現時点で吉田が最後に出場した日本国内の公式戦である長崎国体が開かれた街だ。吉田は長崎県成年女子のメンバーとして地元優勝に貢献したが、この大会は彼女にとって印象深い大会となった。

 「国体に出た時は長崎の方々にすごく良くしてもらって、それから毎年ドイツビールやお土産を持って長崎に行くようになりました。あの時の長崎代表は男子も女子も、成年代表も少年代表も関係なく、裏方でサポートしてくれるスタッフも含めて、みんな仲が良くて居心地が良かった。気が合うんでしょうね。たくさんの人に応援してもらって、支えてもらって、勝ち負けや結果以上に得るものが大きかった。長崎では人に恵まれました。

 人とのつながりはコロナ禍になってから、一層大切だなって感じます。誰かに会ったり、誰かとしゃべったりして気が紛れることもあるけど、今は人との関わりが遮断されてしまって、それができない。卓球もそうですけど、人とのつながりがあってこそだと強く思います」

 長崎国体で誰と対戦し、どんな試合をしたかは覚えていないという。しかし、長崎の人々とのつながりは一生忘れられないものになっている。

スタンドからの大声援を受け、地元優勝を果たした長崎国体。吉田は決勝でも勝利をあげて優勝に貢献した

 

●プロとして「楽しむ」。航路はいつも、心の躍る方へ

 ヨーロッパでプレーするようになって11年。吉田がプロとして大切にしていることは「楽しむこと」。そこに余計なプライドはない。

 「プロとして生活し続けていくなら、楽しむことが大事だと思っています。ツラいことって、どうやってもツラいじゃないですか。それだけじゃモチベーションも上がらないし、続けられない。本当に世界のトップでやっている人たちは勝つか負けるかで人生が変わるわけだから、そうはいかないだろうけど、私はそうじゃないので。だから、楽しみながら過ごすことが大切じゃないですか。

 楽しむことが大事だなっていうのは、ホンギやトーベンに出会ってから強く思うようになりました。2人とも世界で活躍したすごい選手なのに、まだ卓球を楽しんでる。練習もハッピーにやってますよ。私も含めて、みんな良い大人なのに『あー!』とか『ぎゃー!』って声出して、ここはキンダーガーデン(ドイツの幼稚園)かってくらいうるさい(笑)。でも、それくらい心から卓球を楽しんでやってます。

 高校生くらいの時は、そこまで卓球を楽しめていなかったと思います。ヨーロッパでプレーしてきて、技術の基本がわかってきた。それで立ち返る場所みたいなものができたから、卓球を楽しめるようになったのかもしれませんね」

 

 最後に今後のキャリアについて質問すると、吉田らしいシンプルかつ率直な答えが返ってきた。

 「その時々で自分がやりたいことをやる。今を楽しむことが大事だと思います。私、あまり先のことを決めたくないんですよ。人生どうなるかわからないし、なるようになるかなって。価値観は人それぞれだし、楽しく、自分が納得できる道を選べば良い。自分の感情に従って生きるのが一番じゃないですかね」

現在所属するベーブリンゲンのチームメイトと。前列右端が吉田。後列右端がチャンホン・ゴッチェ、前列中央がアネット・カウフマン

 

◆吉田光希(よしだ・みつき)

1984年5月17日生まれ。愛媛県南宇和郡愛南町出身。小学6年時に全日本ホープスの部で準優勝。松山市立城西中2・3年時に全中ベスト8。青森山田高へ進学し、3年時のインターハイでベスト16。高校卒業後、日本国内でプロとして活動し、26歳でクロアチアリーグへ挑戦。以降、5カ国のヨーロッパ国内リーグでプレーを続け、今シーズンが11シーズン目となった。昨シーズンよりドイツ・ブンデスリーガ女子1部のベーブリンゲンに所属

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