あるメーカーの卓球担当者は、卓球業界がある種、特殊に映るらしい。「安売りには賛同できない。関係各所に相談し、お店に対応しています。『この価格で売ってください』と言うのはNGですが、お願いしていくしかない」と言う。
「根気強く説得していくしかない。薄利多売でやっていても、お店もメーカーも首を絞めていくだけです。メーカーもお店も適正な利益を取っていかなければ生き残っていけないし、無理をして売っていては淘汰されていく。地方の店舗売りしているショップがつぶれては、業界にとっても卓球の普及にはならない」。
ほかのスポーツ用品市場でも薄利多売でビジネスをやり、生き残れるお店は少ないとこの担当者は言う。
一度安売りをしたお店も、安売りに協力したメーカーもどんどん疲弊していくしかない。一度安く売ったら、次も安く売らざるを得ない。一度安く売られたものが、次に高くなった時に買わないのは消費者の心理だ。つまり「安売り」は「劇薬」なのだ。
かつてスキー業界では、「半額が当たり前」という時代があり、スキーメーカーも疲弊し、撤退して、スキー人口も減っていった例もある。(スキー人口が減ったからメーカーが撤退したのかもしれないが)
日本の卓球界でネット販売の先駆けとなったある専門ショップはネット販売を始めて数年後に本格参入をやめた。ショップの社長が説明してくれた。
「今後、価格競争になると思い、ネットビジネスはやめようと思いました。そこに費やす人件費などを考えたら収益の出る計算にはならない。お店と卓球場に注力しようと思いました。今はほかのネットショップは全く見ていない。見たら気になりますから、今は気にしない。ネットでの競争から離れて、10年以上になりますね」。
メーカーがショップに大きな割引をやめるようにお願いしても「公取に言うぞ」と言われたら、そこで会話は終わる。ユーザーは「割引で安く買えるのだから良いことだろう」と考えるかもしれないが、次にメーカーがどうするのか想像してほしい。
商品の仕入れ原価をもとに計算し、定価を決めるのだが、メーカーはお店が割引をしても利益を取れるような定価を設定して、問屋に卸(おろ)す。
本来、仕入れ原価を考えれば、10000円の定価が妥当な商品にあえて13000円をつけることになる。結局ユーザーは定価の高い商品を割引したものを買っているだけではないだろうか。
結局、ネットショップの当事者は過剰な割引競争で疲弊して、同時に地方の専門ショップなどに影響を与える。全国に200を超える数の専門ショップは、その地域の卓球活動の中心になったり、情報発信などの要になっているお店も少なくはない。そういうお店が過剰な競争の被害者になっているケースがある。
この過剰な安売り競争には勝者はいない。みんながただ疲れていくだけなのだ。
<続く> (卓球王国発行人 今野昇)
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