デイントン氏に、今まで卓球界で重要視されていた世界選手権とオリンピックの価値と伝統を軽視しているという批判があるが、と話を向けると、「今まで卓球にとってのビッグイベントは1年に1回の世界選手権や4年に1回のオリンピックだった。世界選手権の団体と個人を毎年交互にやり、オリンピックの年には世界選手権の団体戦も開催する。国際的にもメディアが大きく取り上げるのは4年に5回だけだ。
これからは1年に4大会のグランドスマッシュと世界選手権の5大会が大きくメディアにも取り上げられ、オリンピックの年だけは6大会になる。さらに卓球はメディアを通して露出していくことになるし、大きなスポーツになっていく。グランドスマッシュという呼び方の問題はどうあれ、毎年5大会か6大会、メディアが注目するようになる。これがグランドスマッシュをスタートしようとした理由だ」とデイントン氏は答える。
日本でのWTTイベントで常に収支が億単位でマイナスになることを宮崎氏は指摘している。
「WTTという組織は新たな痛みも伴うが、新しいビジネスモデルに変えていきたい」「古いビジネスモデルならば宮崎さんの言っていることは正しい。しかし、WTTは新しいビジネスモデルを作ろうとしていて、新しいやり方をすれば(日本でのWTT)開催は可能だと思っている。しかし、このビジネスモデルには投資が必要なんだ」(デイントン)。
──宮崎さんはスティーブ、あなた自身を批判しているし、あなたがWTTを辞めるべきだと言っている。WTTにも否定的だ。
「ぼくも彼がそう言っているのは聞いているし、なぜ彼がそこまでぼく自身とWTTに対して否定的なのかを理解しようと努めてきた。ただ良い答えが見つからない。
ぼくは宮崎さんと一緒に膝を突き合わせて、ちゃんとWTTのことを話したことがないんだ。彼とこの件で真剣なディスカッションをすべきだと思っているよ」
デイントン氏は淡々と説明してくれたが、その情熱と本気度はリモートインタビューでは測れなかった。しかし、彼が言うように、今まで以上に卓球のメジャーイベントが増えることは良いことだが、卓球を取り巻く経済圏(スポンサーや放映権)がまだ小さく、しかも中国選手だけがいつも勝っている卓球にスポンサー企業を含めた大勢の人が関心を払ってくれるかどうかは疑問だ。
日本だけがWTTに不満を抱いているわけではない。情報不足のまま困惑しているのは世界のすべてのトップ選手だ。新たなビジネスモデルが具体的にどういうものかをスポンサーや各協会、トップ選手に伝える義務がWTT、そしてITTFにはある。
デイントン氏が言うように、ビジネスモデルとしてWTTが成功し、選手も潤い、卓球がメディアに注目されるのは悪いことではない。そのための「お金儲け」ならば、それは新しい卓球ビジネスとして評価されるべきだ。お金儲けは「悪」ではない。そこに新しい卓球文化が創出され、ビジネスとしての価値が生まれれば、世界中にプロの卓球選手がさらに増え、プロ卓球選手を目指す子どもたちも増えていくことにつながるだろう。
もちろん、それらの利権や利益が特定の個人に行くのならば糾弾されるべきではあるが、歴史や伝統だけでのきれいごとで卓球がメジャーになっていくのは不可能だろう。世界選手権やオリンピック自体には賞金がなくても、選手たちは名誉のために戦う。しかし、メダルを獲れば、協会は選手規定に基づいて報奨金を選手に与え、選手が注目され新たなスポンサーがつくことでプロ選手の生活が安定していく。
今回の卓球王国誌上での、宮崎氏とデイントン氏の両者のインタビュー。「お上(かみ)」であるITTFを公に批判してこなかった日本卓球協会。その強化本部長がITTFに突きつけた問題。本来は、この二人がしっかりを話し合いを持つべきではないか。世界の卓球界の発展のために、近いうちに両者が意見をぶつけ合うことを期待したい。
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