ヨーロッパ選手は生活のためのプロリーグと、
世界ランキングのためのWTTの板挟みになる
ヨーロッパのトップ選手でもあり、五輪メダル候補のドイツのオフチャロフ(世界ランキング9位)にも話を聞いてみた。
「WTTがもっと各協会や各選手にヒアリングをしてほしかった。クラブリーグとWTTの両立はとても難しい問題だよね。ヨーロッパでのプロリーグは60年以上も前から存在し、伝統もあるし、選手の主たる収入源なんだ。それなのに、そういうプロリーグとの話し合いもないまま進めようとしている。確かに高額賞金かもしれないけど、それが実現するかも不透明だ。コミュニケーションが不足したままでは、ヨーロッパのプロリーグを阻害することになるし、情報があまりに少なすぎて、選手は大変な状況になっている」(オフチャロフ)。
ヨーロッパのプロリーグでは、日本の松下浩二、水谷隼、及川瑞基、森薗政崇など数多くの日本選手が育てられた。その数十年の伝統を持つヨーロッパのプロ卓球リーグが岐路に立たされている。1989年のベルリンの壁崩壊と、その後のEU内での職業選択の自由という権利のもと、ドイツ人選手のいないブンデスリーガのチームも存在している。
自国選手が所属しない「ホームチーム」とも言いにくいクラブチームが、地元のスポンサー企業を獲得する難しさに直面し、チーム運営が難しくなっている。
日本、中国、韓国などのように協会や企業、所属スポンサーに守られ、生活保障を受けている東アジアの選手たちとは違い、サッカーよりもはるかに小さな卓球の経済圏の中で、ヨーロッパのプロ卓球選手は苦しんでいる。
生活のためにはプロリーグで頑張らなければならない。しかし、WTTに出ないと世界ランキングも得られず、自分の国(協会)の代表にもなれないし、国際大会でのシード権も得られないというジレンマに陥っている。
日本選手のように国際大会の代表の費用(渡航費・滞在費)が協会が負担したり、所属スポンサー(企業)がまかなってくれるという話をヨーロッパ選手やコーチにすると、「なんと恵まれているんだ」と彼らは驚く。ヨーロッパでは協会が費用負担するのはせいぜ五輪と世界選手権くらいで、国際大会への参戦はほとんどが自己負担なのだ。
ヨーロッパ選手にとっては「出たくても出られないWTT」なのかもしれない。
ITTFがいまだ実体が不明のWTTという組織をどのように扱っていくのだろう。サポートするのか、それとも独立させて卓球というスポーツをエンターテイメントとして発展させるのか。
残念だが、それらを明確に説明してくれる人が今のITTFにはいない。
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