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ペンホルダーは死なず。Vol.2「回り込みを忘れるな。 世界を疾駆したペン魂 偉関晴光の直言」

裏面打法の三代目は王皓。劉国梁、馬琳と違うのはバック系技術で表面をほとんど使わないこと。台上技やドライブ処理も全部裏面。ペンホルダーの両ハンドドライブ型である。特にバックハンドドライブではバックスイングで写真のように手首、ラケットが内側に大きく曲がったところから打球されるので、ボールが大きく曲がって入っていく

 

3. ノングルー時代に向けて回り込みを磨け。日本の伝統はどこへ行ったのか

王皓がアテネ五輪で柳承敏に負けた。なぜ負けたのかを中国は分析した。ひとつは裏面ドライブがクロスに集まり、ストレートボールが少なかった点が挙げられる。いろいろな敗因はあるけど、これがひとつの理由。柳承敏は王皓対策を研究し、このクロスのボールを読んでいた。王皓は裏面ドライブの60~70%がクロスだった。ブレーメンの団体戦では呉尚垠と対戦した王皓はストレートボールを多用し、裏面打法を改良していることを証明した。

もちろん柳承敏のような、裏面を使わずに表面だけで攻撃する選手もチャンスはある。ペンの一番の特長のフットワークを生かしている。あれだけの速い脚があって回り込みができるのなら十分に戦える。ただグルーがなくなり、ラリーが続くようになると一発の強打で決まらずに、つなぎが必要になってくる。そういう場合は裏面の必要性が高まると思う。とは言え、裏面が使えてもフォアで回り込みを多くすることがペンにとって何より大事なのだ。

ペンホルダーは、「回り込み」が命だ。バックの攻撃力はシェークに劣る分、回り込みができなくては得点力が落ちる。グルーがなくなったら回り込んで攻撃することが増える。ところが今の日本で回り込みのうまい人、速い人がいない。岩崎清信選手(96年全日本チャンピオン)の回り込みはすごかった。彼のあと、回り込みの速い人がいない。日本の伝統はどこに行ったのか。

昔の日本選手の回り込みはすばらしかった。回り込みの足の使い方というのは、日本は伝統的に持っているのに、それが今の現役選手、若い選手に受け継がれていない。

 

4. 運動能力があり、足が速ければペンをすすめる

中国では、最近、試合で勝つためにはフォアハンドを70%、バックハンドを30%使う戦い方をするようになっている。王励勤や陳杞の卓球を見ていてもそれはわかる。以前は王励勤はフォアハンドが60%ほどだったのが、方針転換でフォアハンドの割合が10%ほど多くなり、その分回り込みも増えている。回り込んでフォアで攻めたほうが得点率が高いというデータが出ていて、それに沿って卓球スタイルを変えている。

日本はシェークハンドが増えた分、フォアハンドの回り込みが減っている。日本は長い間、「バックが弱い、バックを強化するべき」と言われてきた。シェークが主流になり、バックハンドは確かに良くなった。岸川聖也でも坂本竜介でも水谷隼でもバックはヨーロッパと比べても遜色ない。ところがフォアハンドに日本の伝統が生きていない。バックハンドは一流でもフォアハンドは二流、三流という選手が出てきている。このアンバランスを変えなくてはいけない。

バックハンドが打てるようになったらフォアハンドは強くしなくてもいい、回り込みをする必要はない、と思うのは間違い。最後はフォアハンドで決めるという姿勢と戦術と技術が必要になる。ラリー中ではもちろんバックハンドを使うけど、決めるのはフォアハンドがいい。

ペンホルダーは長所もあれば短所もある。シェークハンドでも完璧ではない。短所もある。小さい子どもで運動能力があって、足も速かったら、ぼくはペンホルダーをすすめる。

 

裏面打法を使わず、ペンの表面だけでプレーする韓国卓球。柳承敏に代表されるように、速い足とパワーで中国のテクニックに対抗する。日本選手が失っている「回り込みの速さ」も韓国卓球の特長だ

 

5. ペンには意外性がある。シェークが増えれば増えるほどペンは勝ちやすくなる

中国のペンホルダーは基本的に前陣でプレーする。前陣で早い打球点とテクニックや回転で勝負する。ところが韓国のペンホルダーは中国とは違う。彼らの基本にあるのは「パワー」。自分の国の独特のペンホルダースタイルを作っていった。テクニックよりは筋力とパワーで勝負する。金擇洙や柳承敏の卓球は速くてダイナミックですごい。日本は中国に近い、テクニックの卓球スタイル。

中国は今では、ペンホルダーをやる場合は裏面にラバーを貼って裏面打法をするのが当たり前になっている。あとは女子の陳晴のようにツブ高の選手。中国ではペンホルダーに意外性を求めている。ヨーロッパにはいないような選手を作ろうという考えが指導者にはある。

今、日本ではペンが勝てないとか難しいという空気があるが、それは逆。シェークが主流になればなるほどペンは勝ちやすい。ペンはいつもシェークとばかりやっているから慣れている。ところがシェークの選手はいつもシェーク同士でやるからペンには慣れていない。ペン独特の曲がるボールや台上技術に慣れていない。

中国・韓国・日本の中で日本が一番ペンが少なくなっている。中国には馬琳・王皓がトップにいるし、韓国には柳承敏・李廷佑がいる。中国香港にも李静、高礼澤、梁柱恩と3人のペンがいる。ところが、日本のペンは中国から帰化した吉田海偉と韓陽であり、日本生まれのペンホルダーがいない。

なぜなのか。

指導者は子どもたちが卓球を始める時にシェークのほうがやりやすい、勝ちやすいという先入観を持っている。台からやっと顔が出るくらいではペンはバックが難しいと思う。しかし、裏面を使うならシェークと同じように振れる。シェークがすぐに勝ちやすいとか思っているかもしれないが、そんなことは絶対にない。ペンにはチャンスがある、絶対に勝てる。

 

偉関晴光●いせきせいこう

中国・広西省出身。中国名は韋晴光。87年世界選手権、88年ソウル五輪男子ダブルス優勝。91年に来日し、97年に日本に帰化し、平成9年度(97年)、10年度(98年)、12年度(2000年)、15年度(2003年)の全日本選手権で優勝。左腕からの巧妙なサービス、ブロック、そして左右に曲がるドライブで世界と日本の頂点に立った。日本の卓球と中国の卓球を熟知している。講習会などの指導者活動も行っている。所属はTEAM JUIC。

現JOCエリートアカデミー男子監督

 

 

 

 

 

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