卓球王国 2024年4月22日 発売
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XIOMの逆襲。XIOMの野望

他メーカーを寄せ付けないXIOMの美しいパッケージ

 

「テナジーのコピーは作らない」。

卓球ラバーのパラダイムを変える

『オメガⅦ』の連結性とは何か

 

XIOMの『オメガⅦ』の着想は2015年9月で、2年間かけて商品化にもっていった。そして極めて興味深い話をフィリップ・キム社長はしてくれた。

「卓球ラバーのビジネスを考える時に、我々の頭にあるのは常に『テナジー』だ。卓球のラバー市場で戦う時にこのラバーのことを外して戦略を作ることはできない。このラバーは市場において、まるで宗教のように卓球メーカーを呪縛している。そして、『テナジー』は卓球ラバーの『標準(スタンダード)』になっていることは否めない。

他のメーカーはラバーを語る時に『これはテナジーに似ている』『テナジーよりも回転が落ちる』『テナジーと同じくらいのスピードが出る』『テナジーよりもだいぶ値段が安い』というような比較の話をする。その時点でテナジーは『スタンダード』になっているのだ。私は『テナジーがスタンダード』という卓球ラバーのパラダイム(規範となる物の考え方)を変えたかった」(フィリップ・キム)。

そして、XIOMがたどり着いたのはビッグデータを基にしたラバーサンプルを作り上げること。

つまり『テナジーのコピーは作らない』ということだ。今まではテナジーを手本にしながら、ラバーのスピンやスピードの最大値を上げようとしてきたが、まずその発想をやめることにした。

トップ選手にとって最適なラバーとは何かを突き詰めた時に、彼らが求めるのは高いレベルの「連結性=CONNECTIVITY」だと気づいたのだ。とてつもなくスピードがあるとか、とてもつもなく回転量がすごいラバーを求めるのではなく、連結性の良いラバーを求めているのではないかと考えた。

『ヴェガ』は巧妙、かつ衝撃的なマーケティングによってヒットした。しかし、7000円の『オメガⅦ』(『ツアー』は7700円)は『テナジー』に対抗するラバーとなる。それはマーケティングではなく、商品の性能で勝負することを意味する。「『オメガⅦ』がこれからのラバーのスタンダードになるだろう」とフィリップ・キム社長は豪語するが、果たしてそれが選手に受け入れられるかどうかはわからない。

ただ、『オメガⅦ』は『テナジー』とも他のドイツラバーとも違う性格のラバーであることは確かだ。

「トップ選手が求めるのは、高いレベルでのスピードとスピン、そして『連結性』だ。ややもするとドライブ対ドライブの引き合いでの優劣がトップ仕様ラバーの基準に思われがちだが、実際の卓球の試合を見ればわかるように、ドライブ対ドライブで得点が決まることは決して多くない。

通常は、サービスからの3球目、台上からの攻撃、ブロックの正確性、ブロックからの攻撃、相手のドライブに対するカウンター攻撃という様々な『技術の連結』が卓球というゲームの得点や失点を支配している。

攻撃だけをし続けて試合を終える選手はいない。常に攻撃があれば守備がある。守備技術や台上技術のようなコントロールを要求される技術が完ぺきにできてこそ攻撃が生きる。それは攻撃と守備のバランスという言葉でも使われるが、『オメガⅦ』のコンセプトとして我々はあえて『連結性』という言葉を使っている。

つまり、攻撃する時には自分が打ちたいコースと落点に正確に入っていく。そして、ブロックの時には相手のボールを完全に止められる。台上技術のような繊細な技の時にもコントロールは狂わない。

トップ選手が口に出す『フィーリング』というのは実はこの連結性のことだ。彼らはスピードだけやスピンだけにこだわるのではなく、実戦で何が必要なのかを直感的に知っている。その必要とされるものが連結性なのだ」(フィリップ・キム)。

 

ESNという学校には個性の違う生徒がいる。

我々は天才的な成功者でありたい

 

選手や卓球ショップは「ドイツラバーはみんな似ているのではないか」とよく言う。世界最大のラバーのサプライヤー(製造・供給会社)であるドイツのESNからの商品を指してそう言うのだが、ESN側は「それぞれのメーカーの商品はすべてレシピが違う。だから同じ商品ではない」と説明する。

さらにフィリップ・キム社長はこう言う。

「それぞれのブランド、会社のニーズによってカスタマイズされているからこそ、各メーカーで性質の異なる商品に仕上がる。ドイツにESNという学校があり、そこに卓球ラバーのクラスルームがある。一見すると、これはドイツラバーのクラスルームだが、そこにいる20人の生徒は一人ひとりの個性が違う。もちろん同じ能力を持った生徒はいない。

すべて違う人格と能力を持っている。共通するのはドイツ語を話すという点だ。その学校を卒業して、天才的な能力を発揮して、ビジネスで成功する人もいれば、もともと能力に欠け、成功できない生徒もいる。

同じドイツ人に見えて、一人ひとりの性質と能力は違う。同じ学校、同じクラスルームでもそれぞれの生徒(ブランド)の進路は違っている。XIOMはもちろん天才的な成功者でありたいと思っているし、我々はドイツラバー工場に対して独自の要求を突きつけ、協同ですばらしいラバーを作ろうとした。データマイニング、ディープラーニングによってESNと共同開発したのはXIOMだけと言えるだろう。だから『ドイツラバーはすべて同じ』と考えるのは間違いだ」

XIOMはあえて韓国企業であることをアピールすることはない。強いて言えば、卓球界のグローバル企業だ。50人という決して多くはない従業員。「これ以上の数は要らない。少数精鋭で効率よく収益を上げていくつもりだ」(フィリップ・キム)。

今年の秋には新工場がソウルから車で2時間の陰城市に完成する。7000坪(22000㎡)の広大な敷地に美術館のようなハイセンスな建物を建てた。どう見ても工場には見えない。現時点で工場では物流部門が稼働していて、商品のピッキング(集荷)はすべてロボットが行い、出荷、搬出までを行っている。秋にはここに卓球台の工場を移行し、XIOMの頭脳の拠点になるかもしれない。

韓国の人口は約5千万人、日本の人口の40%ほどで、企業は「サムスン」「LG」「現代」のように海外に市場を求めないと発展していかない。現在は韓国の国内の卓球市場の約6割をXIOMが占めているが、さらに海外での販売に力を入れていく。

「商品デザインや新工場はXIOMというブランドの差別化のひとつのシンボルのようなもの」とフィリップ・キム社長は語る。公式の場にはほとんど顔を見せない彼はミステリアスな社長であり、XIOMは世界の卓球市場を牽引する潜在力を秘めている。

XIOMにとって最大市場である日本に向けて、『オメガⅦ』と『ヴェガ ツアー』を投入し、5月から6月にかけて880名を対象に、『オメガⅦ プロ』と『オメガⅦ アジア』のセットで、ラバーの試打キャンペーンを行うなどの大プロモーションを展開する。(卓球王国6月号・卓球王国WEBを参照)

フィリップ・キム社長の口癖はこうだ。「バタフライは我々の敵ではない。常に意識し、尊敬している競争相手なのだ」。

卓球界のモンスターラバー『テナジー』に果敢に挑戦状を突きつけたXIOM。その壮大な戦略と緻密なマーケティングによって、2018年のラバー市場に攻勢を掛けようとしている。                                    

 

 

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XIOMというブランドは何かと卓球界をざわつかせるブランドだ。

2005年には2004年アテネ五輪の金メダリストだった柳承敏(現韓国卓球協会会長)をバタフライから引き抜く形で電撃契約(のちに柳承敏はバタフライに戻った)。

この『卓球グッズ2018』以降に、すぐに韓国の鄭栄植と契約し、翌2019年には世界のトップランカーであるブラジルのウーゴ・カルデラと契約した。

2017年には美術館のような「ファクトリーO」という工場を建設。XIOMの知性が生まれ、磨かれ、発信される母艦でもある。

そして今年の春には1万円を超す選手仕様の『オメガⅦ ツアーi』をリリースした。パッケージはいかにも選手仕様のシンプルさを出しているのも狙いだろう。

2019年10月には、07年から12年続いていたVICTAS(旧ヤマト卓球)との代理店契約を終え、日本で独立した。今まではVICTASの強力な営業力で販売されていたこのブランドが、独力でどこまでシェアを伸ばせるのか注目したい。

2018年に韓国代表の鄭栄植と契約

 

2019年にウーゴ・カルデラノと契約

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