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今野の眼

【欧州・日本プロ卓球事情2】ドイツとは違う日本型のTリーグは今後、いかに地域密着、地域貢献で価値観を高めていくのか

Tリーグが「プロリーグ」と言えない理由。
観客数の問題がチーム存続に影響を与えないのか

ブンデスリーガのチームでは、選手へのギャラ(報酬)の多くは年俸制、プラス勝利給で、4、5人の選手の合計で年間の契約選手予算が決まるが、日本のTリーグでは年俸制は少ない。フランスリーグもドイツリーグに近い収入を得られるが、フランスの選手たちは主に練習をINSEP(ナショナルトレーニングセンター)で行い、海外の選手は他国の練習拠点から試合に駆けつけるやり方だ。
多くのTリーガーは出場給プラス勝利給、もしくは試合に出なくてもベンチに入ったらお金が支払われるケースが多い。もちろん選手のレベルによって出場給は異なる。1試合数万円の選手もいれば100万円を超す選手もいる。それでも試合はおおよそ20試合なので、2千万円を超す選手は少ない。また、女子チームの中には母体企業の社員扱いの選手もいると聞く。

かりに出場給50万円の選手が4人で1試合をやれば、そのチームは選手へのギャラで1試合200万円を使い、年間20試合であれば選手予算は合計4000万円プラス勝利給、別途交通費や宿泊費をチームは負担することになる。
2018年にTリーグが創設された時には、当時の松下浩二チェアマンはチーム運営費は1億5千万円から2億円が必要と公言して、ヨーロッパのクラブ関係者を驚かせた。それは世界中から強い選手をTリーグに集めるための数字とも言えた。
しかし、現実的には1シーズン目、男女4チームずつしか参入しなかった。時間的な問題もあったが、平たく言えば「卓球に2億円を使う」という価値観がTリーグに見いだせなかったのか。
Tリーグの半数ほどのチームはヨーロッパ型の地域密着のクラブチームではなく、企業をバックにして、チーム名に企業名を入れることになった。チームとして収支がマイナスになっても、会社の経費として計上されるし、独立したプロチームとしての法人登記をできないチームもあるために、Tリーグは「プロリーグ」とはうたえない。
しかし、それもヨーロッパのクラブとは違う「日本の卓球Tリーグの形」として許容すればよいのだろう。大企業がバックにつけば、そのチームは一定期間は安定して存続できる。
今シーズンはコロナ禍での行動制限がなくなったとはいえ、Tリーグの観客数が伸びてこない。1、2シーズン目は無料チケットが配られたり、母体企業の応援団が多く来ていたが、今シーズンは実質的にはチケットを購入した人が観客として見に来る。
千人を超える試合は少なくなり、観客数500人前後の試合が多くなっている。ブンデスリーガの通常の試合でのチケットは10ユーロ(約1500円)なので、2000円〜8000円のTリーグよりは安い。ドイツではプレーオフや人気の「ボルシア・デュッセルドルフ」の試合では3000〜5000人規模の観客が入るが、それ以外は小さな会場でやるために、同じ500人だとしても盛り上がりを感じる。

ドイツもクラブチームの収入はチケット収入だけではなく、地域のスポンサー(企業など)であり、フランスやスウェーデンは自治体からのクラブへの援助も重要な収入源と言われている。
Tリーグにはリーグそのものに数多くのスポンサーがついているし、多くのスポンサー、サポーターがついているチームもある。しかし、常に200人、300人の観客と、メディアへの露出が小さくなれば、そういったスポンサーがいつまで応援してくれるだろうか。
費用対効果を考えるスポンサーであれば、チームから離れていくことも考えられるが、スポンサーをつなぎとめるためには、そのスポンサーが価値を見い出すようなチームの地元貢献や地域との交流が鍵になるのではないだろうか。 (続く)

 

今シーズンは経験と強化のためにドイツ・ブンデスリーガ1部の「オクセンハウゼン」でプレーしている戸上隼輔。来季は五輪選考ポイントがTリーグにつくためにTリーグに復帰することが予想される(写真 高樹ミナ)

 

コート近くで「おらがチーム」を応援するブンデスリーガの観客(写真 高樹ミナ)

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