卓球王国 2021年1月21日発売 vol.286
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馬龍、語る。「どん底に落ちたけど、這い上がってきた」

●――日本選手についてはどう感じていますか。記者会見のように、「彼らは強いですね」なんてコメントではなく、本心はどうでしょう。「こいつら、練習全然足りないよ」とか思っていない?(笑)

馬龍 日本は若い才能のある選手がとても多くて、そのレベルでは世界の一流であるのは間違いない。でもシニアで優勝することを考えると、コントロールが良くて打球感覚が良い選手が多いけど、その感覚が強すぎることが攻撃面でマイナスになる。世界で勝つためにはもっと徹底して攻撃を仕掛けなければいけない。そうでなければ世界で勝てない。

それは日本が個人で強化を行い、我々は国家チームとしてやっている体制の違いもあるかもしれない。中国チームの成績が良いのは、練習時間も内容も他の国の選手を上回った結果としてあるものだと思います。

水谷選手は非常に良い選手で、今まで強い攻撃が少なかったけど、今回中国コーチ(邱建新)をつけているのはそういう部分を調整したいんだと思う。今回の蘇州大会を見ていても攻撃力が増しているように思います。

 

●――中国の国家チームの中での争いは非常に厳しいものだろうし、緊張感を強いられるような環境ですよね。

馬龍 ジュニア時代の(国家チームの)二軍での基礎が、その後の成績に影響すると思います。二軍で卓球の基礎がどのくらいできているかが、その後の成長につながる。一軍に入ればみんながライバルで、担当コーチと話しながら個別練習をしていきますが、多くは自分で考えなければいけない。形はチームだけれど、実際には個人で考えてやっていかなければいけないのです。

 

●――それはジュニア時代の練習で、その選手のシニアの成績が決まるということですか。もちろん素質も関係すると思うけど。

馬龍 特に二軍というのは大事な時期ですが、長くいればいいというものではない。長くいれば一軍にいる時間も短くなるわけだから、長くいたらいたで時間がもったいない。鍛えられる場所ではあるけれども、実績も残さなくてはいけない。中国では二軍に長くいた選手が一軍のエースになるケースは少ない。二軍では短期間でコーチがその選手の素質を見いだして、その特長を伸ばして一軍に上げて、一軍でも短期間に成績を出さなくてはいけない。

 

●――君は歴代の中国選手の中でも、順調にジュニアからシニアに上がっていった選手だと思うけど。

馬龍 そうですね。ただ、若い時からすべて順調にいって、世界のタイトルを獲るのは不可能です。ぼく自身、若い時から順調ではあったけど、一度どん底に落ちています。そこで悩むんです。張継科もそうです。ただ、その落ちるのが遅いか早いかの差だけです。

 

●――「馬龍の卓球」の中で、自分が一番大切にしているものは何ですか。技術、メンタル、身体……。

馬龍 結果を出せるのは総合的にうまくいっているからであって、どれかひとつとは言えない。メンタルも技術もお互いがうまく調和した時には成績を出せるけれども、どちらかがダメな時は成績が残せない。そこが卓球の難しさですが、すべてうまくいけば結果は残せます。だから、ひとつだけを挙げるのは難しいですね。

 

●――ロンドンではシングルスに出場できずに悔しい思いをしました。リオ五輪はその2名の枠に入るのも大変ですが、君にとっては最後の五輪になるかもしれない。

馬龍 世界選手権が終わった瞬間に頭はオリンピックに切り替わっています。オリンピックがあったから今まであきらめなかった。選手をやっている以上はオリンピックで優勝するのは夢ですから。すでに準備に入っています。

 

●――もちろん団体の金メダルは重要でしょうが、シングルスの金メダルもほしいですね。

馬龍 これからのすべては来年のオリンピックの団体とシングルスに向かっていきます。ロンドンの時もチャンスはあったと思うけど、自分のモスクワの団体戦でのミスでオリンピックのシングルスのチャンスを逃した。それは反省の材料にしか過ぎない。そこにこだわってもダメなので、リオに全力を注いでいきます。

 

●――今日はありがとうございました。

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ひと言で言えば、好青年。

その話しぶりからも、馬龍の人柄の良さや頭の回転の早さはわかる。「卓球をしていなかったら何をやってましたか?」と質問すると、すぐに「勉強をやっていたと思いますね」と答えてくれた。

「人間としての優しさ」は一般的には長所なのに、卓球の世界、とりわけ世界の頂点を狙うアスリートにとっては、それは「勝負弱さ」の同義語として使われる。

そのメンタルを克服して馬龍は蘇州で世界の頂点に駆け上がった。そして団体の金メダルだけでは満足できなかったロンドン五輪の借りを返すために、馬龍はリオ五輪までの1年を過ごすことになる。

世界優勝の直後から、彼は2016年8月16日に立つステージだけをイメージしている。世界の王者が五輪の王者になるのか。

馬龍が戦うのは相手ではなく、実は馬龍自身かもしれない。                      ■

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馬龍●マ・ロン

1988年10月20日生まれ、中国・遼寧省鞍山市出身。5歳から卓球を始め、13歳の時に北京市男子チームに移籍。04年に世界ジュニア選手権で優勝し、06年世界団体選手権では18歳で代表に選出され、優勝メンバーとなる。世界選手権では07年ベスト16、09・11・13年はいずれも3位だったが、15年大会で初優勝を飾った。09年アジア選手権、10年アジア競技大会優勝、12年ワールドカップ優勝。当時世界ランキング1位(2015年7月現在)、現世界ランキングは3位(2020年12月現在)