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水谷隼「自分の結果で卓球界を変えていくチャンスが生まれる」

ぼくは人間として弱いですよ。

淋しがり屋で、行ったはいいけど、

行って後悔するタイプ

 

5月のモスクワでの世界選手権団体戦。水谷隼はまさに日本のエースとして活躍した。ドイツ戦では世界3位のボルに勝ち、準決勝で中国と対戦するまでは8戦全勝。中国戦で世界ランキング1位の馬龍には敗れたが、世界でその実力をまざまざと証明した。

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モスクワでは大会に入る前は相当プレッシャーがあった。常に2点を取ることを要求されていた。たとえ初戦で(松平)健太のように負けていたとしても、ズーッと使われていたと思う。その中で絶対勝たなきゃいけないので、それだけの力をつけようと思って練習してました。

今までは、自分が負けてもほかの選手が助けてくれるから自分のプレーを思い切ってやろうと思っていたけど、モスクワでは、自分が絶対2点取ってまわりを引っ張っていこうと考えていた。

中国の超級リーグはいろいろゴタゴタありましたけど……中国に行ってすぐに後悔しました。練習場とか、合宿所を見て……合宿所も汚い部屋で、ご飯も食べられないし、どんだけ日本は幸せなんだろうと思いました。

練習でも3番手とか、その下の選手としかできなかったし、試合ではほとんどダブルスと5番での出場が多かった。

 (超級リーグの)最後の1週間は良い練習もできたし、充実していた。それ以外は本当に死にたかった。何回死のうと思ったか。思い詰めていた。ぼくは人間として弱いですよ。淋しがり屋で、行ったはいいけど、行って後悔するタイプ。でも何年か経つと行ってよかったと思う。その時にはもう一生行かないと思っているけど、また行ってしまう(笑)。それを繰り返して成長している。行く前からある程度予測しているんですよ、苛酷だなと。実際は想像以上だけど。

今回の経験で心はかなり広くなっていると思う(笑)。他人には心が広くて自分には厳しい。

 

前はバックをつぶされることが

多かったけど、

そこが改善されたので

隙がなくなってきた

 

モスクワ大会後に世界ランキングは自己最高位の9位まで上がり、現在(10月時点)は10位。本人は気にはしていないというものの、このランキングをさらに上げるためにはプロツアーでの優勝や、ランキング上位の9人に勝つなどの活躍がないと厳しい。

この世界10位という数字による評価が、水谷が世界選手権や五輪のメダル候補であることを表している。

一方で、本人が強烈に意識する全日本選手権がある。世界での評価の高さと本人の全日本選手権への思いの、ある種、背反するようなギャップも水谷らしいと言える。

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世界ランキングは気にしません。でも、ランキングが下の人とやったら気にします。負けたらこれだけ落ちるとか。ランキングは上げたいし、これ以上下げたくはない。

この半年だけでずいぶん自分が変わった気がする。あまりモスクワの記憶はないですね。それよりも今は3カ月先の全日本を気にしている。全日本に勝った瞬間に次の全日本を考えている。ぼくにとってあの大会はオリンピックと同等くらいです。みんなが盛り上げるからですよ。負けたくないです。

もし負けたらみんなが「水谷が負けた」と言うでしょ。言われたくない。だから勝ち続けるしかない。しんどいですよ。来年優勝したら卓球やめようかなと……そう毎回思っている。全日本前は憂鬱になります。

負けたほうが楽ですよ。でも負けるのは嫌です。負けないとわからないこともたくさんある。でももし負けたら一生後悔すると思う。勝てば次のことしか考えないけど、負けたらその試合のことを常に思い出すし、それまでのことをずっと後悔すると思う。

4連覇はでかいですよ。もし来年負けたら、また5連覇に挑戦し達成できるのはどんなに早くても5年先になる。連覇すればするほど難しくなる。だから負けられない。

あくまでも練習中というのは世界を意識してやっています。全日本というのは負けられない大会で優勝することしか考えられないけど、普段の練習は世界の強い選手を倒すことしか考えていない。世界で勝てれば全日本は絶対勝てると思う。

技術的には、サービスが良くなっていると思う。ポイントは戦術ですね。まわりがやっていない戦術をぼくが使う。まわりが慣れていない分、自分が有利に立てる。はじめはある選手がぼくに対してそのサービスを出していて、すごく嫌だった。その後、自分がそのサービスを出せるようになったけど、そのサービスからはものすごく攻めづらくて、これじゃ到底試合じゃ使えないなと思って相当練習をした。練習を重ねるうちにだんだんやりやすくなってきて、今はみんながそのサービスにうまく対処できていない。

それにバックハンドが良くなってきている。今まで世界のほかの選手は10だとすれば、自分は7くらいのレベルだったのが、やっと世界レベルになってきた。前はバックをつぶされることが多かったけど、そこが改善されたので隙がなくなってきた。

世界の頂点のイメージはすごくできています。中国のこの選手とやったらこうやるとか、こういうふうにしたら勝てるというイメージはできている。ただ相手にそれ以上のことをやられたらさらにレベルを上げるしかない。

今は選手として勝つというイメージよりも、指導者になるほうがイメージが強いです。選手としてのモチベーションよりも指導者になるというモチベーションが高い。有望な選手が多いのに、そういう選手が消えていくのが見ていて本当につらいです。

トレーニングセンターにいても、若い選手をそういう目で見ることがあります。アドバイス? 本人には言わないです。でも聞かれたら言います。今まで一度も聞かれたことはない。聞いてくるというかつきまとって、これは何ですか、どうですか、という子はいました。そういう時は教えます。

ぼく自身はそばに馬琳とか馬龍とかボルとか、自分より強い選手がいるととことん追いかけていくタイプです。練習だけじゃなくて、普段の生活でも彼らの後ろにピッタリくっついて、彼らから学べるだけ学びます。

 

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