卓球王国 2024年4月22日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
アーカイブ

水谷隼「自分の結果で卓球界を変えていくチャンスが生まれる」

日本は競技差別がひどいし、

メディアの力で知名度は大きく左右される。

この先はそうなってほしくない。

スポーツは実力の世界なので、強い選手が

取り上げられるようになってほしい 

 

 

全日本は身内と試合するわけで、

敵意というよりもライバルを倒す

清々しい気持ちが出てくる

 

独特の卓球観を持つ水谷隼。まわりに流されずに自分のペースを守り、意見を主張することは、ややもするとわがままに映ることもある。しかし、彼自身を守り、彼自身を鼓舞し、将来を保証するのは、他の誰でもなく、水谷が自らやるしかないことだ。

時に自己矛盾を抱えながら突き進むのは、21歳の特権だろう。彼の境地と心情はやはり彼自身しかわからないのだ。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

全日本は5連覇しか頭にない。それまで試合が多いのは別に気にならない。いつも12月の終わりくらいから調整に入るから。

2012年のロンドンオリンピックまでは早いでしょうね。北京が終わってから今までも早かった。あと2年あれば自分がやれる準備は十分にできるので、ロンドンでのプレーは間違いなく自分のプレーのすべてだと思う。そこでぼくは現役を終わっても悔いはない。まわりは30歳までやるだろうと思っているかもしれないけど、ぼくは30歳までやるつもりもない。燃え尽きているわけじゃない。違うことに興味が沸いてきている。

卓球を完全にやめるわけじゃない。国内ではやるとしても国際大会に出たいというモチベーションがなくなるかもしれない。全日本はもしかしたらあと20年近く出るかもしれないけど、国際大会のことはオリンピックを含め、まだ何も考えていない。

プロツアーで強い選手に勝っても注目されないし、自分自身もそう感じている。プロツアーで勝っても普通、当たり前と思われているから。プロツアーと全日本は比べられる大会じゃない。

全日本は身内と試合するわけで、敵意というよりもライバルを倒す清々しい気持ちが出てくる。いつも一緒に生活して、練習している人としか当たらない。だけどプロツアーは敵とやる、倒してやるぞという気持ちでやっている。

精神的にも、卓球に対する姿勢でも今は良い状態に来ています。以前よりも卓球を研究しているし、卓球というスポーツを知らなければいけないと思っている。自分は未熟だし、もっと情報を得なければいけない。

まだまだ上に行けるし、勝ったり負けたりが続くけど世界ランキングは5位までは絶対行けると思う。その上はわからない。

世界1位の馬龍に苦手意識はあまりない。馬龍と当たる時には楽しい気持ちになるし、自分のプレーをどれだけ発揮できるか挑戦する気持ちのほうが大きい。世界の頂点との差は自分が思っている以上に大きいかもしれない。でもまわりは小さいと思っているかもしれない。単に自分に自信がないだけかもしれない。

相手が年齢を重ね、弱くなっていくのを待つ気はないので、自分が強くなるしかないし、だからこそ超級リーグに挑戦した。やれることはどんどんやっていきたい。

世界の頂点との差を埋めるためには自分ひとりではできない。そこで指導者に助けてもらいたい、協力してほしいと思っています。自分が頑張っても120くらいしか出せないけど、指導者がいればそれが150、200というプラスアルファが生まれてくると思う。そういう人がこの先ほしいし、自分には必要だと思う。

中国は専属のコーチがいて、選手とマンツーマンのようにやってきて、選考会でも担当コーチがベンチに入るじゃないですか。日本にも担当コーチがいてほしい。キャリアがあって指導者としての実力もあって、今の卓球を知っているコーチがほしいと思う時はあります。そういう人はなかなかいないけど、その日本のシステムを変えないと、日本の実力は上がっていかないし、停滞していく。他の国と比べれば日本はお金もあると思うし、宮崎さんのように専任でできるコーチは必要。今は「やってくれないか」と頼んでいるケースが多いと思うけど、自分から「やらせてくれ」という人がいると思う。そういう人にやってほしい。選手を本当に強くしたいという人にやってもらいたい。

世界のメダルを獲ることは自分ひとりじゃ無理だと思う。金メダルといったらさらに遠いけど、そういう指導者がいてくれたらメダルを獲る確率もグッと上がる。

この半年は本当に早かった。でも卓球界全体がまだまだ変わっていくと思う。自分自身、いろんな人とコミュニケーションをとりたいと思っている。ぼくは選手とは関わりはあるけど、卓球の愛好者の人とは関わりがないので、そういった人たちがどういうふうに卓球界を思っているのか、またぼく自身をどう思っているのか知りたいです。

卓球というスポーツが成長していけば、卓球で稼いでいこうという人が増えるけど、まだ卓球はマイナーなので、いつかは卓球以外の仕事をしようと思いながら、中途半端に選手生活を終わる人が多い。野球やサッカーのように、プロで生活できる選手が何百人もいるようなスポーツに成長したら、大学生くらいになって将来を考えた時に、卓球だけで頑張るんだという選手が出てくる。そうすれば日本の卓球界のレベルが上がると思う。ぼくらが頑張って結果を出していけば、マスコミに露出することも多くなるので、そのためにも結果を出したい。

日本は競技差別がひどいし、メディアの力で知名度は大きく左右される。この先はそうなってほしくない。スポーツは実力の世界なので強い選手が取り上げられるようになってほしい。そのためにはロンドン五輪でのメダルには大きな意味がある。

ぼく自身が注目されたいわけじゃなくて、卓球というスポーツをもっと一般の人に知ってもらいたい。ぼくは卓球がすごく楽しいし、大好きだから、この素晴らしさを一般の人にもわかってほしいし、この先、選手を終えたとしても努力したい。

今、現役として第一人者としてやっていく限りは、自分の結果で卓球界を変えていくチャンスが生まれると思っています。

日本のトップランナー水谷隼は、今や世界のトップ集団の中を並走している。並みいるモンスターたちの息づかいを耳にしながら、どこでスパートをかけるのかを狙っているようにも見える。

孤高であるがゆえに、受ける風も強く、そのたびに歩みを止めようとする水谷。しかし、すぐに次の一歩を踏み出している。彼が国内での第一目標とする全日本選手権は目の前に迫っている。そこで王者としての強さを示し、彼はその次の一歩を世界という舞台へ踏み出すのだろう。

21歳は悩めばいい。21歳は苦しめばいい。その向こうに水谷隼しか味わえない至福の瞬間があることを、彼は知っている。

(文中敬称略)

 

■ みずたに・じゅん

1989年6月9日生まれ、静岡県出身。全日本選手権バンビ・カブ・ホープスでそれぞれ優勝、ジュニアで男子史上初の3回優勝。一般では17歳7カ月で優勝し、史上最年少記録をうち立て、今年4連覇を達成。09年の世界選手権横浜大会・男子ダブルス、2010年世界選手権モスクワ大会・男子団体で、いずれも銅メダルを獲得した。過去にドイツのブンデスリーガでプレーし、今季は中国超級リーグでもプレーした。青森山田高卒、現在、明治大学3年生。スヴェンソン所属。世界ランキング10位(2010年10月現在)

 

 

関連する記事