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インタビュー

【PEOPLE】「仕事をしていたら卓球が伸びないだなんて、そんな決まりはないんです」 保田晃宏

 

●チームとしては昨年の全日本実業団選手権で優勝し、日本一に輝きました。

保田:達成感はありましたが、一瞬でしたね。優勝はすごいことなんですが、コロナの関係で棄権した強豪チームも多く、そういった部分では神様からのギフト的な面もありました。ファーストさん(千葉)、シチズン時計さん(東京)ほか強いチームに勝って王者になったのはすばらしいことでしたが、では総合力でチームに点数をつけたら、うちは日本で何位になるのか。客観的に見れば今は8位くらいでしょうか。まだまだ頑張らないといけませんね。

ぼくは過去形がすごく嫌な性格で、過去の話をされるのも、自分でするのも嫌なんです。一瞬で喜んで、それで終わって、次のステージへと。もちろん一瞬で終わらせるために選手や応援してくれた方と祝勝会はやりました。それで実業団優勝に浸るのは終わりです。

ぼくが大会の成績よりも大事にしていることは、卓球選手としての存在意義を作るということです。うちの松下や江藤が唯一無二の存在にならなければいけない。松下のプレーを見たから、ペンを目指す子どもたちが増えるなど、そういう存在にならなければいけないと思っています。

 

クローバー歯科カスピッズは、昨年の全日本実業団選手権で優勝し、初の日本一に輝く

 

●今後、クローバー歯科カスピッズというチームをどのように成長、発展させていきたいと考えていますか。

保田:2つありまして、ひとつは今話した選手たちの存在意義に加えて、仕事と卓球を通じて人間として成長させなければいけないということです。これは経営者ということよりも、人生の先輩としての責任だと思っています。

ぼくは選手たちにいつも「在り方」を問うんです。いわゆるTo be論です。「それは人としてどうなのか。何をしなけれないけないのか」と投げかけるようにしています。また、大谷翔平選手が行っていたことで有名ですが、曼荼羅を使った目標達成シートを作り、選手たちに渡しています。彼らは技術についてはすぐに書けるんですが、心や運となるとよくわからないんです。ぼくは運はラッキーではなく、はこぶ(運ぶ)もので、自分で呼べるものだと伝えたりしています。

こうしてそれぞれの選手の目標を曼荼羅シートに書き込んで行くことで、目標がより明確になっていきますし、悩みもなくなってきます。うちの選手たちがフルタイムで仕事をしながら、卓球が伸びているのだとすれば、こういう部分も関係していると思っています。

 

もうひとつは卓球チームとしての存在意義を作ること。これも大事なことなんですよね。

たとえば卓球の大会には観客が少ないと言われることがありますが、観客(お客様)が来ないということはマーケットとしていらないという返事をもらっているほかにないとぼくは考えてしまいます。スポーツとビジネスは違う部分もありますが、ビジネスの世界では必要なものは残り、いらないものは消えていきます。世の中からいらないものにならないようにクローバー歯科カスピッズというチームを作っていきたいんです。チームとしてまだまだやれることはたくさんあるので、今後は積極的に新しいモノやコトを進めていきたいと考えています。クローバー歯科として女子のチームを新たに作って、全日本クラブ選手権に参加するなど、いろいろなカテゴリーに挑戦することも考えています。

卓球界をピラミッドで考えれば、一番上にオリンピアンがいて、ナショナルチーム、Tリーグ、日本リーグ、学生の組織があって、そのほかにも年齢によってカテゴライズされています。一般の愛好者も多いですよね。これらがボーダーネスではなくてボーダーレスになっていかなければ、発展していかないと思うんですよね。

諸先輩方からしたら「卓球界のことをわからない者が何か言っているんだ」と怒られるかもしれませんが、各カテゴリーの風通しがもっと良くなり、協力し合って発展していかなければいけないと思っています。

 

選手たちに配布する曼荼羅シートを見ながら説明する保田

 

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●Profile
やすだ・あきひろ
1970年5月6日生まれ、奈良県県出身。奈良県立富雄高校で本格的に卓球を始める。大阪大学歯学部に進み、歯学部に卓球部を創部。歯科医院勤務を経て、大阪にクローバー歯科を開設。卓球経験者が入社したことをきっかけに卓球部を作る。クローバー歯科カスピッズとして日本リーグで活躍するほか、昨年の全日本実業団選手権では並み居る強豪チームに勝ち、初優勝。チームとして初めて日本一に輝いた。

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