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インタビュー

【PEOPLE】「仕事をしていたら卓球が伸びないだなんて、そんな決まりはないんです」 保田晃宏

全日本ベスト8、アジア競技大会日本代表など社会人になってから成長を見せている松下大星

 

●大阪大学歯学部に入学してから卓球を再開したと聞いています。

保田:予備校のお金を返済しなければいけないので、大学入学後もアルバイトを続けていました。国立大でも歯学部に通うような子は基本的にはお金持ちの家の子ばかりで、弁当を持って行くのはぼくだけで、まわりは外食ばかり。返済のためと、やっと受験生活から開放されて大学生になって遊びたいという思いも出て、アルバイトと遊びで立て続けに留年を3回したんです。

もうこれ以上留年ができなくなって大学にちゃんと通うようになった時に、校内にあった卓球台で久しぶりにラケットを握ったんです。その時に一緒にいた仲間のひとりにうまい奴がいて、どこかでやっていたのかと聞いたら地元の市大会で優勝していたと言うんです。まったく卓球をしていなかったので、大学に入ってから卓球の話をしたことがなかったのでそこで始めてわかりました。それならばちゃんとやってみようかとなり、卓球部を作ったんです。大阪大学には卓球部はありましたが、当時の歯学部としての卓球部はなく、私たちが作りました。あの時に大学の仲間と遊びで卓球をしていなかったら、クローバー歯科の卓球部はできなかったでしょうね。

 

●そのクローバー歯科卓球部ができた経緯を教えてください。

保田:歯科医院に勤務した後に、クローバー歯科を開業してまもなくして、ある方の紹介で大阪経済大学を卒業した林正偉という中国人留学生の面倒を見ることになり、そこから石黒翼、江藤慧という卓球経験者が入社入ってきました。もともとの社員に強くないけれど卓球経験者の新井がひとりいたので4人になったんですね。それだったら卓球チームを作ろうとなって、まず全日本実業団選手権に出場して、次は日本リーグを試してみようと続きました。

日本リーグでは2部にスポット参戦することになり、選手たちに「勝てるのか」と聞いたら「勝てます!」と言うんです。選手は4人ぎりぎりで、ひとりは現役を終えて少し太ったしまった中国人、そこまで強くない石黒、関西大学リーグ1部校のイレギュラーの新井。ちゃんと戦えるのは江藤ひとりだけ。しかも、誰かが怪我をしたら監督の私が出なければいけない状況で、「勝てます!」というのは今思えば無謀ですね(笑)。

選手たちには「木っ端微塵に負けたら2度と出ない。まあまあの戦いができたら本格参戦する」と伝えました。そうしたら11チーム中、6位になったんです。その時に思ったことは、人間というのはあとがないという状況に立ったらすごい力を発揮するんだなということでした。約束を果たして、翌年から日本リーグに本格参戦を決めました。

参戦したからには優勝を目指すしかない。選手に提示したのは次の3つです。まず、仕事をしながらもしっかりと練習をする。強い外国人選手をひとりぼくが加入させる。応援団を募って観光バスで日本リーグに乗り込む。外国人選手については、友人の柳延垣さんを通じて、元世界ランキング9位の陳衛星(オーストリア)を呼びました。応援団は1泊2日のツアーを組んで、高知県で開催された日本リーグに行きました。

 

 

日本リーグでは保田自らが先頭に立ってチームを応援する

 

●日本リーグではすぐに1部に上がり、その後に全日本選手権のダブルスで江藤慧・松下大星が3位、最近では松下大星選手がアジア競技大会の日本代表を獲得するなど、クローバー歯科カスピッズの活躍が光ります。選手たち全員が歯科医院で仕事を終えてから練習をしていると聞きます。

保田:仕事をきちんとしているから卓球も伸びるんです。ぼくはずっとこう思っているんですよね。例えば、松下は大学時代に卓球を真剣にやっていなかった。そんな人間が仕事もしないで卓球だけをやっても強くなるはずがない。仕事もきちんとできない人間が卓球で成長するはずはないんですよね。

その松下が入社して少しして、「仕事の時間を減らして、もう少し練習時間を増やしてほしい」と言ってきたんです。練習時間が増えたら何が変わるのかと聞くと「強くなります」と言うんです。ぼくは彼に「お前自身が変わらなければ、練習時間が増えても同じだ」と伝えました。

松下は同年の全日本大阪予選のシングルスで負けて本戦に出場することができず、さすがに落ち込んでいたので、「負けたことは仕方がない。ダブルスを頑張ろう。仕事も卓球も一生懸命に頑張って行こう」と伝え、そこから彼は仕事も卓球もしっかり取り組むようになり、卓球の成績が上がるようになりました。

 

仕事をしていたら卓球が伸びないだなんて、そんな決まりはないんです。そんなことは神様も決めていない。そう決めつけている、思っている時点で弱さなんだと思うんです。創意工夫することで両立は可能です。松下は今は仕事をしっかりと終えてから、夜の11時くらいまで練習をする日も多くなっています。努力していますね。

うちの部員は松下に限らず、みんな頑張っています。仕事の昼休みに時間を作って30分でもサービス練習をする選手もいますし、夜遅くまで練習に励む選手も多い。心の問題を解決することで、選手はものすごく伸びると実感しています。

このような考え方は、稲盛和夫さんが開かれていた盛和塾で12年間学ばせていただき、そこでの影響にあります。入塾試験の面接の際に「あなたはどのようになりたいのか」と聞かれ、ぼくは「地域ナンバー1の歯医者になります」と言いました。そうしたら幹部の方に「地域ナンバー1ではなく、世界一を目指しなさい」と言われて、とっさいに「わかりました。絶対になります!」と返してね。

稲盛さんから微笑みながら「世界一にもいろいろありますが、なんの世界一になるのか?」と尋ねられて、「世界一ユニークな歯医者さんになります」と答えました。そこからあまり固定観念にとらわれなくなっていきました。

 

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