卓球王国 2024年12月20日 発売
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インタビュー

山崎雄樹「自分の言葉で卓球と 選手の魅力を伝えたい」

–——会社員からフリーになって、仕事の目処は立っていたんですか?

山崎:それがまったくです。Tリーグの実況もできるかどうかわからないまま上京しました。熊本放送在籍時の2017年に「くまもと卓球フェスティバル」というイベントがあって、上田仁選手と神巧也選手が来てくれたんです。その時に「東京に来たら一緒に卓球をしましょう」と言ってくれて、東京に行ってタイミングが合った時には神選手と練習をさせてもらいました。そうやって親しくさせてもらい、いろいろ繋がりができました。

Tリーグに関しては高木さんに松下雄二さん(松下浩二さんの双子の弟)を紹介してもらって、そこから松下浩二さんに繋がりました。

松下さんはチェアマンと言えども、放送に関してのキャスティングまでは担当していなかったと思います。圭三プロダクションのマネージャーの繋がりからTリーグの実況ができるようになり、初年度は両国の開幕戦のあとの名古屋での3日間、5試合の実況をさせてもらうことになりました。

 

–——すごいですね。そこから本格的にTリーグの実況になったんですね

山崎:初戦の解説者が真田さんだったんですよ。31年ぶりにダブルスを組みました。実況と解説ですけど。

本当に綱渡りで奇跡頼み。でもフリーアナウンサーは、みんなそうなのかもしれません。

良い仕事をするためには、実力と、人柄と、縁と、運が大切だと思っています。そう考えると、私はとりわけ縁に本当に恵まれました。こうやっていろんな方に助けられて、卓球の実況ができるんですから。

 

31年ぶりのタッグを組んだふたり

 

–——卓球の実況は他のスポーツと違いますか?

山崎:私はいろんなスポーツを実況してきました。野球、サッカー、ラグビー、ハンドボール、バスケットボール、ゴルフ、駅伝。それぞれの競技に魅力はあるし、人生を懸けている人がいます。卓球もその点については同じです。

醍醐味は戦型、技術、戦術、戦略、メンタル面、さらには用具が複雑に絡み合ってプレーが成り立っているので、それを伝える楽しさです。難しさは、何を言って、何を言わないかの判断ですね。卓球は打球音が大切なので、話しすぎると聞こえなくなります。

実況で大切なのは、即時描写と予測だと思います。動きと同時に伝えないと意味がない。見て、結果だけを伝えても芸がない。

あとはどのようなターゲットに向けて話すのかを考えます。基本的な用語解説をするのか、視聴者の理解度に頼るのか、プレーの醍醐味を話すのか、戦術まで話すのか。

たとえばサッカーの場合、地上波の日本代表戦は選手のプロフィールの紹介や「頑張れ日本」と言った応援が多く、専門的な話にはあまりなりません。でもJリーグや海外サッカーの有料放送の場合、そういう基本的な知識をすでに持っている人たちが見るので、マニアックと言われるくらいの情報と知識、戦術戦略を伝えないと、お金を払っている視聴者には満足してもらえません。

Tリーグはほとんどが有料放送ですが、卓球を見たことがない人に向けてわかりやすくしたいという制作側の考えもあるので、基本的な用語の説明などをキチンとすることはもちろんですが、さらに深い話も入れていきたい。

NHKのラグビー中継は主音声は解説、副音声でルール説明をしているんです。それを卓球では自分で両方やろうと思っています。用語解説も入れつつ、プレーの戦術を解説者に話してもらう。たとえば、多く組ませていただく渡辺理貴さんは日本代表の分析を担当されていただけあって、卓球経験者や卓球ファンにとっては“かゆいところに手が届く”緻密な解説です。私はそれを抽象化したり、具体化したりして視聴者にわかりやすくお届けすることを心がけています。

また、同世代の森本文江さんとは特にサードシーズンは無観客の試合が多かったので、どう卓球を伝えるか、あーでもない、こーでもないと会場からの帰りの電車内でプチ反省会をしていました。

年齢はひとつ下の森本さん(左)とは試行錯誤しながら、無観客試合に臨んだ

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