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今野の眼

[今野の眼]全日本、参加する覚悟、棄権する勇気、開催する献身

卓球の「全日本」はなぜ特別なものなのか。

いよいよ明日11日から2021年全日本卓球選手権大会が丸善インテックアリーナ大阪で始まる。

昭和11年(1936年)に第1回大会が開催され、戦争による5年間の中断を挟んで、今大会が80回目の「全日本」。本来ならばアニバーサリー大会のはずが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、違う意味で記憶に残る大会となりそうだ。

日本卓球界での「全日本」の意味は大きく、他競技や海外の国内選手権とはその規模や意味が違っている。戦後は大学を含む学校スポーツ、その後、企業スポーツ、クラブスポーツが発展していく日本の卓球界。中体連、高体連、日学連、実業団連盟などのカテゴリー別でそれぞれの覇権を争う日本の卓球界の中で、唯一「全日本」だけがすべてのカテゴリーの垣根を飛び越え、戦える場だった。つまり「真の日本一」を決める大会だ。

そして1950年代には「全日本」を目指す若者の中から代表が決まり、欧米中心だった世界選手権大会で1952年ボンベイ大会を皮切りに「卓球ニッポン」がデビューし、世界を席巻していく。「全日本」はいつしか「世界選手権日本代表のための選考試合」の意味合いを持つのだが、それとは別にやはり国内最高峰の大会として価値を高めていく。

「日本を制する者が世界を制する」と言われた時代には、全日本チャンピオンは世界チャンピオンに匹敵するほどの価値を持った。その後、1980年代以降、世界で勝てない時代が続くのだが全日本チャンピオンの価値は変わらなかった。

プロリーグが卓球活動の中心であるヨーロッパでは、国内選手権は多くの大会の中のひとつ位の扱いで、重きを置かれないし、中国の国内選手権でもトップ選手が出場しないことも多い。なぜ日本選手だけがこれほど狂おしいまでに「全日本」に夢中になるのか。

2014年の東京での世界選手権大会以降、そのノウハウを使いながら、大会運営もプロ的なものになっている。ヨーロッパから視察や商談で会場に足を踏み入れた人たちが、その組織的、かつプロ的な運営に驚くのは当然だろう。近年、才能ある若手が次々世界へ飛び出していく日本卓球界の底力を感じさせる熱量が「全日本」にはある。

最近では、選手は中学生くらいの年代からプロ化の道を歩み、「全日本」で優勝すれば卓球メーカーや所属スポンサーから数百万円単位のボーナスが出るのも珍しくはなくなった。

それは、「優勝した選手の用具が売れ、ブランドの価値が高まる」ことを意味している。上位を狙う選手にとっても全日本優勝は悲願であり、中堅選手にとっては「ランク入り(ベスト16)」が選手としての勲章とも言われている。

2021全日本卓球 速報ページ

昨年の全日本でセンセーショナルな優勝を決めた早田ひな選手

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