それは予想はできたが、考えたくなかった。
「石川佳純の引退」。
その圧倒的な実力と人気で、日本の卓球界を15年以上牽引してきた日本のエースが自身のインスタグラムで引退を発表した。
「私、石川佳純は、4月のWTTチャンピオンズ・マカオ大会をもちまして現役を引退することを決めました。最後の試合まで、これまでどおりに集中し全力で戦うために、事前にお伝えすることはできませんでした。今年に入ってからは大会ごとに『この試合が最後になるかもしれない』と思いながら臨み、今、自分の中ではやり切ったという思いが強く、引退を決意した次第です」
「最後に、いつも応援してくださるファンの皆様、ありがとうございました。うれしい時、悔しい時、どんなときも私の気持ちに寄り添い、応援してくださった皆様に感謝しています」
「これからまた新しいスタートとなりますが、卓球を通じて学んだチャレンジ精神を忘れずに、いろいろなことに挑戦していきたいと思います。たくさんの応援を本当にありがとうございました」 (石川佳純オフィシャルインスタグラムより)
石川は14歳で、2007年世界選手権ザグレブ大会で日の丸をつけて初めて世界の舞台を踏んだ。団体と個人で13回の世界選手権出場。2017年世界選手権デュッセルドルフ大会では混合ダブルスで金メダルを獲得した。日本の金メダルは48年ぶりの快挙だった。
そして、2012年ロンドン五輪で、日本卓球史上初のメダル獲得(女子団体)を達成、シングルスは準決勝に進んだ。その後、リオ、東京の五輪では団体のメダルを獲得している。
国内最高峰の全日本選手権では17歳で初優勝を果たし、5回の優勝を誇っている。
日本はもちろんのこと、中国には「石川佳純ファンクラブ」があり、熱狂的な「カスミンマニア」が大勢いる。いつもファンを大事にしてきた石川の引退は、海の向こうでもビッグニュースとして衝撃的に流れるだろう。
実は昨年の12月、卓球王国の単独インタビューで、「パリ五輪を目指す覚悟はできたのでしょうか」と聞くと、「それは難しい質問ですね。今までと違う卓球への向き合い方があると思っています」と本人は答えている。
実は原稿にはできなかったが「五輪へ向かうスイッチは入ったんですか」と聞くと、「スイッチ入っているように見えますか」と笑いながら言葉を返し、「次(の五輪)はあまり考えていない。今までと違う形があってもいいのかなと思います。オリンピックを目指さないと引退という見方があったと思いますが、それは違う気がします」と語っている。そこのくだりは原稿にはしなかった。
しかし、明らかに石川はパリ五輪を「目指す覚悟」を決めていなかった。
2022年3月の世界代表選考会トーナメントで敗れて世界選手権成都大会のメンバーから外れて、14回目の出場はならなかった。その時点で彼女の世界ランキングは8位、日本の中で3番目の位置にいたにもかかわらず、1回だけのトーナメントで決められる理不尽さを味わった。
東京五輪後に発表された「パリ五輪代表選考方法」に対し、石川本人も納得できなかったことはインタビュー(卓球王国2023年2月号)で語っている。WTTにも参戦し、世界ランキング上位を維持しながらも、国際情勢と国内事情に翻弄された。
世界選手権の代表から外れた後も、彼女はパリ五輪国内選考会、全日本選手権、そしてWTTに参戦していた。日本卓球界の、いや日本のスポーツ界を代表するスター選手にはいつでもどこでも熱い声援が送られていた。
昨年12月のインタビューでは石川はこう語っている。
「自分がやりたいと思うところまでは卓球をやりたいし、やらせてほしい。そういう気持ちです。誰かに言われて卓球をやめるとか、そういうことは全くないです」
まさに石川佳純は自分の意志で潔くラケットを置く。日本の卓球界を長く支え、日本卓球界のため、ファンのために戦ってくれた石川佳純には感謝の言葉しか見当たらない。
「佳純ちゃん、感動をありがとう!今まで頑張ってくれてありがとう」
卓球を愛し、卓球に愛された石川佳純を忘れない。
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