卓球王国 2024年10月21日 発売
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石川佳純「限界は自分が作っているだけなのです。挑戦を続けていくと破れないと思った限界を突破できます」

「相手のバック面が粒高だとすると、

私のカット打ち次第で、相手カットの変化を決めることができるのです」

 

現役のトップ選手、とりわけ女子選手は試合後のコメントやインタビューで、戦い方、戦術的なことはほとんど口に出さない。自分の作戦を説明すれば、ネットや紙の載った時点で、ライバルの選手たちやコーチの人に分析され、対策を練られてしまうからだ。

男子選手は秘中の秘は明かさないにしても、試合後に戦術的な反省や改善点を比較的に口に出すのは、「どうせ次はお互いがやり方を変えるのだから」という前提があるからではないか。

現役を続ける限りは、選手たちは自分の技術的な核心部分は口に出さないのは石川佳純という選手もそうであった。そして現役を発表した後の、彼女自身の「心・技・体・智・食」というテーマで話を聞いた時には、オープンに話しをしてくれた。大げさに聞こえるかもしれないが、そこに「選手・石川佳純」の真実があると思った。

卓球王国最新号(8月21日発売)の石川佳純特集では「石川佳純の戦い方」というテーマで現役時代には明かされなかった技術、戦術に触れている。

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 カット打ちでは、相手のカットに対して回転のかけたドライブで打つと、さらに切れたカットや変化のあるカットが返ってくることが多いので、基本的に回転をかけないカット打ちを心がけます。特にトーナメントでは回転をかけたドライブをした次の試合では肩が上がらなくなることもあります。

 とても切れたカットが来た時には、ラケットの面を作り、回転を殺すようなカット打ちを行います。たとえばサービスを出して相手がカットでレシーブをして、それに対してボールを乗せるようなカット打ちをすると、相手はカットで変化をつけることが難しくなります。

 つまり、相手のバック面が粒高だとすると、私のカット打ち次第で、相手カットの変化を決めることができるのです。(卓球王国10月号より)

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このような戦い方を石川さんがコメントすれば、対戦するカットマンは対策を講じてくるだろう。だからこそ、現役が終わらない限りはトップ選手の戦い方やサービスの考え方は明かされないのだ。

石川さんにとって忘れられない試合のひとつ。2018年世界選手権ハルムスタッド大会、団体戦準決勝。2016年リオ五輪で敗れたキム・ソンイ(北朝鮮)に対して、最終ゲーム、3本のエッジボールに見舞われ、3回のマッチポイントを奪われながらも競り勝った。訓練を重ねたカット打ちで乗り切った

 

また女子選手に多いのは異質攻撃型だが、その表ソフトの打球を「こちらにバウンドしてから少しだけ上に上がります」と表現した石川さん。これも絶対現役の時には言わないだろうなと思いながら聞き入ってしまった。

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 女子にはバック面に表ソフトを使う異質攻撃型が多いので、対表ソフトの練習も相当にやり込みました。表ソフトのボールはインパクト直後の初速は速いけれど、こちらにバウンドしてから少しだけ上に上がります。裏ソフトのドライブと違って、バウンドしてから伸びてこないので、そこを狙います。

 表ソフトのツッツキは変化があるために基本的に強打はしません。逆に表ソフトの選手には長いツッツキを送り、相手に打たせて、そのボールを狙います。サービスも長いサービスが多くなり、強く打たれた時にはスピードが速いように感じますが、ボールがあまり伸びてこないので追いつけるし、そのスピードに追いつくための練習をしていました。(卓球王国10月号より)

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今年1月の最後の全日本選手権での石川佳純さん

 

「オリンピックという電車が走っていて、

自由席は3席しかなくてそれをみんなで取り合う。

そっぽを向いたり、諦めた瞬間に電車は次の駅に行ってしまう」

 

中国でも絶大な人気を誇る石川佳純さん。SNSでのフォローワーは100万人を越える。

引退会見で見事な中国語を披露した石川さん。その中国語習得のきっかけを以下のように語った。

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 私は小学生の時に張怡寧と王楠(ともに中国で、五輪金メダリスト)が好きで、いつもその二人の試合をビデオで見ていました。試合の後にインタビューの場面が出てきて、「この二人が何を話しているのか知りたい」と思ったのが中国語に興味を持ったきっかけです。

 良かったことは中国の友だちが多くできたこと、コーチの言っている中国語がわかるようになったことです。コーチによっては日本語が通じないこともあるので、中国語で会話することでコミュニケーションが取れます。(卓球王国10月号より)

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最初は憧れの選手が語る言葉の意味を知りたくて中国語に興味を持った石川さん。世界最強の中国には卓球の専門用語が緻密に、かつ体系的に用意されている。その中国語を習得していくことで、石川さんは中国人のコーチや練習相手とコミュニケーションを取れるようになるまでに上達し、「石川佳純の卓球」を作っていくうえで、中国語という言語が大きな役割を果たした。同時に中国のメディアに中国語で答えることで、中国では「石川佳純ファン」が増えていった。

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 よく「練習は嘘をつかない」という言葉を使いますが、私の解釈は少し違います。ただ練習を長くやっていても効果はあまり期待できません。しかし、「良い練習は嘘をつかない」と思っています。高い集中力と、ある程度の時間も必要ですが、課題意識を持った反復練習を行うことが良い練習です。

 代表レースは諦めた人から落ちていきます。どれだけ自分が頑張って諦めずに向かっていけるのか。オリンピックという電車が走っていて、自由席は3席しかなくてそれをみんなで取り合う。そっぽを向いたり、諦めた瞬間に電車は次の駅に行ってしまう。それだけ真摯に向き合わなければ代表になるのは難しいのです。

限界は自分が作っているだけなのです。「もう無理だ」と思っても、そこで挑戦を続けていくと破れないと思った限界を突破できます。(卓球王国10月号より)

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卓球人生23年を振り返った卓球王国別冊の『KASUMI』では節目の試合を振り返ってもらい、卓球王国10月号ではより深い卓球の「智」の部分と、誠実な「心」の部分を紹介している。

それは現役を終えた今だからこそ語る「真実」。世界で活躍する卓球のトップ選手はかくも緻密で、ストイックな人たちなのだ。

 

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