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インタビュー

卓球メーカー社長インタビュー vol.1 『スティガ』早川徹社長 【後編】

知っているようで知らない卓球メーカーの社長さん。

どんな人が、どんな経緯で、卓球メーカーの社長になったのか。社長という重責を務める人物を卓球王国編集長の中川学がインタビュー。

 第1回は、北欧スウェーデンの老舗ブランド『スティガ』の日本法人、スティガ・スポーツ・ジャパン株式会社代表取締役の早川徹さんが登場。前編、後編の2回にわたり、早川社長の素顔に迫ります。

 

卓球メーカー社長インタビュー vol.1 『スティガ』早川徹社長【前編】はこちらから

 

スティガの日本法人設立当初は

「怒涛のように時間が過ぎて行った」

 

−−−卓球の貿易会社を退職後、スティガに入社したのはいつになりますか?

 

早川徹(以下・早川) スティガの日本法人(スティガ・スポーツ・ジャパン株式会社)は2016年11月28日に登記され、ぼくは2017年1月に取締役として入社しました。貿易会社時代にスティガ本社と繋がりがあった事もあり、このような機会をいただきました。快く了承していただいた貿易会社の方々には大変感謝しております。

 

−−−設立のオープニングパーティーは、日本のスウェーデン大使館で行われてぼくも声をかけてもらいました。5年くらい前だったかな。

 

早川 東京でジャパンオープンが開催されるタイミングに合わせて2017年6月に行いました。2017年7月に出荷開始という事もあり、かなりバタバタした中での開催となりましたが、多くの国内の関係者の方々にご来場いただき、スウェーデン本社やスティガの中国法人の社長、許昕選手(中国)などの当時の契約選手やコーチ達も参加してくれて、パーティーを盛り上げてくれました。

 

−−−スウェーデン大使館でのパーティーもすごいことだけど、確か最初のオフィスも大使館内だったよね?

 

早川 スウェーデン企業が日本に進出する際にサポートしてくれるビジネスサポートの部署がスウェーデン大使館にあって、その部署のデスクをひとつ借りて、7月の開業に向けて準備を始めました。そのため最初の住所がスウェーデン大使館だったわけです。

 

−−−なるほど。会社立ち上げ当初はどのような感じだったんだろう?

 

早川 今思えばよくやっていたなと感じます。2017年1月に入社してから、日本卓球協会への登録やオフィス探しを始め、2017年3月にオフィスを借り、商品の準備をし、出荷体制を整え、2017年7月に出荷開始でしたから。本当に怒涛のように時間が過ぎていきました。

ただ、2017年の7月から本格的にスタートを切ったといっても、システムもまだきちんと入っていなかったですし、商品も十分に揃っていない中でのスタートでした。そのため、お客様には多々ご迷惑をお掛けしてしまいましたが、それでもお客様のご協力と社員の頑張りで、日本でのスティガとしての方向性がようやく見えてきたと感じていました。

 

スティガ・スポーツ・ジャパン株式会社の早川徹社長

 

−−−その後、新型コロナの影響で大会や部活ができなくなって、それによって卓球メーカーは大きな打撃を受けました。コロナ前までのスティガが軌道に乗り始めた時期はどのような商品が売れていましたか?

 

早川 ラケットですね。売上の大半がラケットでした。

 

−−−スティガと言えば、高品質でデザイン性の高いラケットというイメージがある。

 

早川 スティガはスウェーデンで1944年に創業した企業で、自社でラケットを研究・開発して、自社工場で製造を行うメーカーとしては世界で最も歴史があるメーカーのひとつです。手前味噌になりますが、長い歴史と経験の中からラケットについては良い物をラインナップできていると感じています。

しかし、品質について世界で最も厳しい目を持つといわれる「日本基準」として見た場合は、改善しなければいけない部分も多々ありました。そこで品質に対しては、スウェーデン本社とのミーティングで毎回テーマとして話すようになりました。

 

−−−確かに卓球に限ったことではないけれど、日本人はすべてに対して品質の基準が高い。

 

早川 スウェーデン本社全社員、スティガ中国法人代表などが参加した大規模なミーティングがスウェーデン本社で行われた際、ぼくたちがプレゼンした内容のほとんどがラケットや他の商品の品質についてのことでした。最初はみんな「何を言っているんだ?」という顔で聞いている感じでしたし、体格の良い人たちの目が怖かったですね(笑)

ミーティング中はそんな感じでしたが、その後の食事の際に「君たちの言っていることはよくわかったよ」と言ってくれて、それから全社員が改善に取り組んでいくようになりました。まだ改良点はありますが、少しずつ「日本基準」に近づいているのではないかと思っています。

 

『レガシーカーボン』。スティガのラケットは高性能かつデザインの良いラケットが多い。

 

『インスピーラCCF』

 

世界2位となり、一気に注目されたモーレゴード(スウェーデン)

 

−−−もともと定評のあるラケットに対して、スティガとして初めてのドイツ製テンションラバーの『DNA プロ』シリーズも発売しました。

 

早川 はい、『DNA プロ』シリーズは新型コロナが流行りだす直前の発売でした。ラケット、ラバーでの戦略を立て、「さあ、これから」というタイミングで新型コロナが流行ってしまって……。スティガ・スポーツ・ジャパンとしてもとても苦しかったです。

 

−−−ラバーについては、スティガ・スポーツ・ジャパンを立ち上げた時からずっと力を入れていく必要があると言っていたよね。

 

早川 言っていましたね。ラバーはラケットとともに卓球の重要な用具ですし、もっと力を注いで欲しいと本社にずっと伝えています。

 

−−−それでやっと「DNAプロ」シリーズができたのに新型コロナが来てしまった。

 

早川 コロナ禍の間はラバーだけではなくて、商品の動きが止まってしまいました。練習や大会ができないし、行動制限もあるので仕方のないことなのですが、とにかくきつかったです。

売上が停滞するどころか、どんどん減っていくわけですし、スウェーデン本社とコスト削減についてのミーティングが多くなり出して……。ぼくはとにかく雇用を維持して会社を運営する方法を考え、社員は外に出なくてもできる営業方法を考え、ラケットやラバーの広告やカタログなどの商品プロモーションは続けて、スティガ製品を多くの方に知っていただくように努めました。

 

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