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インタビュー

アジア選手権で王楚欽を撃破。今、大注目の田中佑汰にインタビュー

 

初出場のアジア選手権で、田中佑汰(個人)は男子シングルス2回戦で優勝候補の王楚欽(中国)をフルゲームで破る大金星をあげた。そして、その後にベテランのアチャンタ(インド)、世界ランキング17位の林鐘勲(韓国)に勝ち、日本男子としてただひとり準々決勝に進んだ。

 

愛工大名電中から愛工大名電高に進み、愛知工業大卒業後は企業に属さず、個人として活動をはじめた田中は、昨シーズンは単身フランスリーグでプレー。パリ五輪日本代表を目指すため、今シーズンは金沢ポートからTリーグに参戦。

注目の選手、田中佑汰にアジア選手権から帰国したその日に、自身の戦いについて話を聞いた。

 

インタビュー=中川学

 

田中はアジア選手権前の7月に行われたパリ五輪選考会で3位に入った

 

●アジア選手権を終えて、シングルスでの自身の戦いについてどう感じていますか?

田中佑汰(以下・田中) シングルスの組み合わせが決まった時に「かなり厳しいドローだな」と思いました。1回戦のパダサーク(タイ)は昔から世界選手権やワールドツアーに出ている選手で、知っている選手です。ほかの1回戦の相手は名前も知らない選手が多かったので、そういう意味ではパダサークは気を抜けない相手でした。

2回戦の王楚欽(中国)には100人に聞けば100人がぼくが負けると言っていたと思います。でも、ぼくの中ですごく強い中国選手とはいえ、左利き自体にあまり苦手意識はなったので、そこにちょっと可能性を感じていたのと、ぼくとしては相手に向かっていくだけという気持ちで戦えるので、その部分でもわずかにチャンスはあるかなと思っていました。

 

王楚欽とは過去に1度だけ対戦していて、ぼくが高校2年の時に出場した2017年世界ジュニア選手権(イタリア)の団体決勝のトップで試合をしています。1-3で負けましたが、1ゲームはかろうじて取れただけで完敗でした。

6年も前なのに今でもはっきり覚えていることがあります。1ゲームのラブオールで、ぼくは2本続けて相手(王楚欽)のバック側にロングサービスを出しました。最初の1本目のロングサービスに王楚欽は回り込んでフルスイングのフォアドライブで得点されて、次のロングサービスにも回り込んできましたが、王楚欽は1本目よりもさらに大きく振りかぶってバックスイングを取ってきたので、打球する前に自分の右手にボールが当たってミスになりました。

団体決勝のトップで、対戦相手のぼくとは初対面で初対決。奇襲で1球目からロングサービスを使ったのに、それを回り込んでフォアドライブでフルスイングで決めにくるなんて、そんな選手はいませんでしたから、大物感というか、とにかくインパクトがすごくて。「そうとうヤバい奴(選手)だな」と感じたことを覚えています。

 

●その「そうとうヤバい奴」を今大会で下しました。王楚欽との試合前の準備や戦術など話せる範囲でいいので聞かせてください。

田中 今大会の団体で日本は初戦で中国と対戦になり、智和(張本)が王楚欽と対戦しました。この時にはシングルスのドローもわかっていたので、ベンチでしっかりと応援しながら、王楚欽のプレーも見ていました。

王楚欽は大事な場面で巻き込みサービスを使うので、試合後に智和に王楚欽の巻き込みサービスについて聞いたら、「アップ(上回転)が多い」と言うので、それを頭に入れました。実際にぼくとの試合でも、勝負所で巻き込みサービスを出してきましたが、「アップに違いない」と思ってレシーブして、それが見事に当たりましたね。

あとはホテルの部屋で王楚欽の試合の動画も見て作戦を立てました。中国がアジア選手権前の集合訓練でエキシビションで試合をしている動画で、王楚欽と林詩棟の試合を見て、その時の林詩棟のプレーや戦い方も参考にしました。王楚欽との試合ではレシーブの入り方など「林詩棟に寄せて」をテーマに戦いました。

 

●王楚欽は巻き込みサービスも強烈だけど、通常の横回転サービスや、下回転とナックルがわかりづらいショートサービスなど、彼のレシーブに手こずる選手は多いです。そのサービスに対してのレシーブはどうだったんだろう?

田中 1ゲーム目はレシーブもそうですが、何もできずに点数を取られました。戦術を立てて臨みましたが、実際に来るボールは質が高くて、プレッシャーがありました。「まじか」って感じでしたね。

2ゲーム目からサービスのコースを変えて、王楚欽のバック前に多く出してから展開が少しずつ良くなりました。ラリーでも2ゲーム目の途中から王楚欽のボールに少し慣れてきて。もちろん球威はすごいんですが、ぼくの調子も良かったですし、(王楚欽のプレーに)対応するのが早かったです。

 

●このレベルの選手に対して、2ゲーム目から対応できるのはすごい。

田中 王楚欽もそうですが、中国選手全般に言えることはボールがきれいなんですよね。威力があるから取りやすいということはないのですが、ほかの国の選手のドライブをカウンターした時よりも、中国選手のドライブをカウンターした時のほうが自分のボールもすごくなります。王楚欽戦で言えば、台の近くからのカウンターだけではなくて、台から離れてのドライブの引き合いでも、相手のボールがすごいからぼくのボールもさらにすごくなって飛んでいっていましたね。そのボールを王楚欽は詰まることが多かったです。

 

●なるほど。でも、ほとんどの選手にしてみれば、田中君が言う「威力はあるけどきれいな中国選手のボール」をうまく返すことができません。

田中 ゾーンではないですが、自分の集中力が高かったですし、とても良い状態で試合ができたので、それも大きかったと思います。

でも、おそらくですが、相手(王楚欽)はシングルスの初戦で、しかも相手がぼくだったから、最初は様子を見ながらプレーしていたんだと思います。ジュニア時代に対戦していたけど完勝していた相手だし、その後に自分は世界トップになったけどぼくについてはほぼ情報がない。そういった部分では王楚欽に少しだけ隙があったのかもしれません。

それに加えて、この試合が21時からと夜遅いスタートだったこともあったと思います。この日までに王楚欽はかなりの試合数をこなしていて、疲れていたかもしれない中で、21時からまだ試合があったわけですから。そういったいくつかの部分もぼくの味方をしたと感じています。

 

●仮にそうだったとしても、王楚欽は簡単に勝てる選手ではない。

田中 ぼくとしてはプレーと戦術でやることは決まっていて、メンタルの状態もすごく良くて落ち着いて試合ができました。(王楚欽に)勝ったあとでも結構冷静でしたね。勝ったことはすごくうれしんだけど、喜びを爆発しないというか、今思い出しても冷静でした。

サービスとレシーブで優位に立つことができて、メンタル面も良かった。相手はぼくに対する情報がなくて油断もあった。この3つの要素が大きかったと感じています。

 

●王楚欽に勝ったことは、かなり自信になったと思います。

田中 かなりなりましたね。王楚欽に勝った翌日にアチャンタ(インド)との試合がありましたが、自分の中で「足元をすくわれないようにしなければ」と雑念が少し出てしまったというか……。うまく表現することが難しいのですが、周りから「田中は王楚欽に勝ったんだから、アチャンタには簡単に勝つだろう」と思われているだろうな、って思ってしまって。

アチャンタは強い選手ですし、前回対戦した時にはあっさり負けてしまったのでぼくは向かっていく立場でした。ただ、前日に王楚欽に勝ったことでかなり雑念とも戦っていたのも事実で、そこで勝ち切れたことはメンタル面でまた成長できた点かなと思います。

アチャンタに対しても集中力を切らさずに戦えて、そのメンタルがあったら次の林鐘勲(韓国)にも勝てたんだと思っています。

 

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