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インタビュー

卓球を知り、卓球を描き続ける男。肌で感じたインターハイの迫力

『週刊少年ジャンプ』で連載デビューを果たした加治佐。しかし、ほどなく打ち切りとなり、「企画を立ててはボツ」という状態が数年続いた。一度は漫画の世界を離れ、イラストレーターやアニメ制作の仕事を行っていた時期もある。その後、縁あって再び漫画家として筆を執るようになり、しばらくは原作付きの漫画で作画を担当していたが、久しぶりに題材から自分で考える機会が巡ってくる。

「自分でストーリーから作ることになって、スポーツものを考えていたんですけど、やっぱり卓球をやっていたので、卓球を描くのが一番自然でした」。こうして生まれたのが、2018年12月に連載がスタートした『スリースター』だ。

物語の冒頭で主人公の水野司は、ラリー中にピンポン球の星の数を見分ける抜群の動体視力を発揮。その才能に気づいた父・進から英才教育を受け、卓球の天才少年として全国にその名を轟かせていく。
しかし、父の指導は次第に強制的かつスパルタなものへとエスカレートし、父の家出と家庭崩壊という悲劇を出発点にストーリーが展開されていく。単行本・第1巻のキャッチは「卓球は復讐の道具」。過度の英才教育による弊害は、卓球界では現実的な部分もあり、思わず惹き込まれる。

 

『スリースター』第1巻の表紙。「卓球は復讐の道具」というキャッチが印象的だ

 

「卓球というスポーツは低年齢から第一線でやる選手が多く、子どもたちは否応なく英才教育を受けることになる。指導者の暴力や理不尽さなど、光が当たらない闇の部分もどうしても気になってしまうんです。あえて暗部にも注目したうえで、やっぱりスポーツは素晴らしいものだということを描いていきたい」(加治佐)

それは、かつて教師を志した加治佐ならではの視点かもしれない。加えて連載がスタートした頃、加治佐にも子どもが生まれ、父親になった。子どもをどう育てていくかが自分自身の課題となり、卓球というテーマの中で自然と作品にも反映されていった。作中で公立高校の部員たちが強豪校の選手たちに向ける視線、周りの部員たちとの人間関係の中で救われていく主人公の姿には、自らの経験も生かされている。

そして常に変わらないのは、「卓球というスポーツの持つカッコ良さを、読む人に伝えたい」という思い。登場人物たちのプレーを描くため、国内外のトップ選手の試合動画をひたすら見てイメージにあったプレーを探し、それを何度も繰り返し見て作品に落とし込むという、根気のいる作業を繰り返す。

 

『スリースター』の主人公・水野司のプレーは馬龍(写真/中国)のイメージで描くことが多いのだとか

客観的な視点で卓球を見つめながら、身をもってその魅力を知る加治佐は、卓球界にとって貴重な「アンバサダー」。インターハイで全身に感じた膨大なエネルギーが、今後の作品にさらなる迫力を与えてくれるはずだ。(文中敬称略)

 

■PROFILE かじさ・おさむ
1973年12月30日生まれ、神奈川県出身。神奈川県立相模原高校で卓球部に所属。大学卒業後、第57回手塚賞で佳作入選し、漫画家としてデビュー。その後はイラストレーターやアニメーション制作も行う一方、現在は漫画の執筆を中心に活動し、マンガ配信サービス『サイコミ』で卓球漫画『スリースター』を連載中

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