卓球王国 2025年5月21日 発売
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卓球ファンは平野美宇の明るい笑顔を待っている

現在、カタールのドーハで世界卓球選手権が行われている。女子シングルスの2回戦で、平野美宇が世界ランキング137位の伏兵・ラコバチ(クロアチア)に敗れた。試合後に平野は泣き崩れ、メディア対応ができないほどの落胆ぶりだったと、現地スタッフから聞いた。

「卓球王国」最新号の特集は「平野美宇」である。当然、最新号が世界選手権の期間中に発売されることは承知しており、そこで彼女が活躍すれば雑誌としてうれしいことだが、そのためだけに特集を組んだわけではない。世界の舞台での勝負は、常に確実なものではない。勝つこともあれば負けることもある。

3歳から卓球を始め、22年も卓球を続けている平野美宇。小さい頃から「卓球アイドル」としてテレビでも扱われ、2016年リオ五輪ではリザーブとして観客席にいた。その悔しさがあったからこそ、2021年東京五輪の代表の切符を手にしたと言われている。
たしかに2016年の五輪後のワールドカップで優勝し、2017年には全日本選手権でも優勝、さらに中国選手を3連破し、アジア選手権でも優勝した。しかし、五輪選考レースが始まり、2019年12月に五輪シングルス代表が決まり、平野は3番手となった。特に選考レースの最後のワールドツアーでの石川佳純との決戦で敗れ、涙を流した。翌2020年1月には団体戦メンバーとして五輪代表に発表されるまでの苦悩は、「リオの悔しさをバネに頑張る」という美しい言葉では表現できないものだっただろう。年間13大会のワールドツアーを回り、目が覚めても自分がどこの国にいるのかわからなかったり、重圧のせいで眠れない夜を過ごしたり、大好きだった卓球のラケットを握ることさえもためらった日々を経験している。

東京五輪の団体で銀メダルを獲得し、夢を叶えた平野は、新たな夢に向かって走り続けた。しかし、パリ五輪の代表を選ぶ過酷な国内選考会が彼女を追い立てた。そこでのシングルス代表の選考レースは、全日本選手権の結果によって決まるという心理的にも極限の状況に追い込まれ、そこでパリ五輪のシングルスの切符を勝ち取った。
その後、2024年2月の韓国・釜山での世界選手権では、団体決勝で中国選手を破り、王者中国を敗戦の一歩手前まで追い込んだ平野のプレーが印象的だった。そして迎えたパリ五輪では、準々決勝の申裕斌(韓国)戦でマッチポイントを奪いながらも、あと1本に泣いた平野美宇。

25歳になったばかりの平野美宇は、常人では考えられないほどの経験を重ねている。ドーハの2回戦での敗北後の涙は、彼女が今大会にかけた思いの強さから来ているのか、それとも周囲が格下だと思っていた選手に敗れたショックの大きさによるものだったのか。敗戦後は悔恨と絶望の淵にたたずんでいるだろう。打ちひしがれ、先のことなど考えられないだろう。しかし、ドーハは彼女の卓球人生の終着点ではないはずだ。

デジタルメディアが主流の今の時代でも、卓球の選手たちは「卓球王国の表紙を飾ること」や「卓球王国に掲載されること」に意識を向けてくれる。紙という記録媒体が持つ伝達能力や影響力を認めてくれていることに感謝している。
「最新号の表紙が平野美宇で残念だった」と言う人も多いだろう。しかし、前述したように、ドーハでの成績を期待して彼女の特集を組んだわけではない。平野美宇という卓球界を代表する選手、卓球界に大きな貢献をしてきた選手を取り上げる必然のタイミングだった。

平野美宇よ、涙を拭いてくれ。平野美宇よ、立ち上がり、前を向いてくれ。
卓球ファンはあなたの明るい笑顔を待っている。

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