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今野の眼

岸川聖也「悩んだ末にVICTASを選んだ。でもバタフライには感謝の言葉しかない」

VICTASとの契約を決めたのは松下社長の「聖也と一緒に仕事をしたい」の一言だった

岸川「バタフライには感謝しかない。

浩二さんに『聖也と一緒に仕事をやりたい』と

言ってくれたことがうれしかった」

 

4月1日、岸川聖也の「VICTASとの契約」が公式に発表された。彼がドイツに渡った時から取材を続けてきた卓球王国は、彼にインタビューを申し込んだ。彼がインタビューで語ったのは、バタフライ(タマス)への感謝だった。

 

――今回、4月1日からVICTASと新たな契約を結びましたが、岸川くんと言えば、中学生の頃からタマスと契約し、バタフライ用具で世界で活躍しました。長年の契約を終え、新たな道を歩む形になりました。大きな決断だったと思うけど。

岸川 もちろん大きな決断でした。20年近く前、ぼくが中学生の時には、若い選手がメーカーと契約するということすらなかった。ぼくと坂本さん(竜介・現T.T彩たま監督)が初めてだった。今となっては当たり前ですけど、15歳で契約書にサインをして、その前の小学5年生の時からバタフライ(タマス)から用具提供を受けていましたから、バタフライとは23年以上の付き合いで、バタフライ一筋でした。

ドイツに渡った時にはバタフライの今村さん(大成・前ヨーロッパタマス社長)にもお世話になりました。本当にお世話になった人がいて、その人たちがいたからぼくも成長できたと感謝しています。バタフライとの契約を終えて、VICTASに移ることは難しい決断でした。

 

――それでもあえてVICTASに移った理由は何でしょう? 「松下浩二(社長)」の存在は大きいのかと想像します。

岸川 もちろん、ぼくが若い時には(松下)浩二さんは憧れの選手だったし、浩二さんがドイツに行ってボルシア・デュッセルドルフでプレーしたからこそ、ぼくの道も開けたと思っています。実は5年前にもVICTASにオファーを受けたけど、断って、バタフライを選びました。にもかかわらず、今回オファーしてもらってありがたかったですね。シンプルに「聖也と一緒に仕事をやりたい」と言ってくれたことがうれしかったですね。

 

――プロだからお金という対価も重要だけど、お金以外の部分も重要だったと言うことかな。

岸川 お金は大事だけど、それがすべてではない。ぼくはバタフライと長く契約させてもらった。長かったので、いろいろなことを思い出して、本当に2月中旬から1カ月以上毎日悩んで契約のことばかり考えてましたし、辛かったし、寝れない日もあったんです。ただ最後には環境を変えて、挑戦するのもいいと思いました。バタフライに残るというのは安定しているけど、VICTASに移ることで新たなことを一緒にやっていけるのかなと、そこが最後の決断で分かれたところです。

 

――プロ選手ではサムソノフ(ティバー)、ボル(タマス)、のように一人の選手が現役終わるまで同じメーカーと契約するほうが実は珍しい。岸川くんのように第一線から退いた人をタマスもVICTASもアドバイザリースタッフとして欲するケースは珍しい。

岸川 本当にうれしかったですね。契約したくても契約できない人もいるのに、バタフライも今の自分にはもったいないくらい良いオファーを出してくれて、「残ってください」と言ってもらったのでとても悩みました。今、ぼくは(第一線の)選手じゃないからバタフライの用具でなくても良い状況だし、23年ほどバタフライの用具しか使ったことがない自分だけど、現役じゃない自分が心機一転スタートしたかった。バタフライにはすでにチャンピオンとか、世界や日本で活躍する数多くの選手がいるので、ぼくが残ってもやれることは限定されると思う。VICTASのほうがぼくがいる意味は大きいのかと思いました。

 

――現役選手としてはバタフライの用具を使い続けた。やはりその用具が素晴らしかったということですね。

岸川 それはぼくが言うまでもなく、世界中のトップ選手が使っていて、ぼく自身が23年間でバタフライの用具に不満を持ったことは一度もないです。2009年にスピードグルーの使用禁止になってからは特にそうで、『テナジー』(バタフライ)はやはりすごいラバーでお世話になったし、今の『ディグニクス』(バタフライ)も素晴らしいラバーだと思います。

 

――用具への不安や敗戦の理由にはならなかったということですね。

岸川 もちろんそうです。あれだけの用具を使っていたら、それが負けた時の理由にはなりません。

 

――そういう岸川くんが今後、VICTASというブランドでは何をやっていくのでしょうか?

岸川 何でもやります。一緒にこのブランドと成長していきたいです。用具開発の面や、講習会や卓球の普及のために自分がやれることは何でもやります。いろんな可能性を感じています。まだわからないことは多いですが、今後やりながら、話し合いながら、自分のやれることはやっていきたい。

ぼくがツィッターとかで報告しても自分の思いは伝わらないし、このようにバタフライへの感謝を言葉を伝える機会を与えていただいたことがうれしい。本当にありがとうございます。

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このインタビューは最初はこちらからの依頼ではあったが、岸川は何度も「バタフライへ感謝の気持ちを伝えたかった」と繰り返した。

卓球選手は繊細な用具を使うだけに、ラバーやラケットという用具への思い入れも強く、卓球メーカーとの深い関わりを持つことになる。

岸川聖也という男は、今後、ナショナルチームでのコーチ活動とともに、VICTASというブランドをとおして、全国の卓球ファンに卓球の楽しさ、素晴らしさを伝える伝道師になるのだろう。

それは単なるメーカーの営業活動ではなく、数多くの人に支えられ、人生を豊かにしてくれた卓球というスポーツへの恩返しとも言える。(文中敬称略)

 

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