80年代からこの二人を先頭に、ガシアン、セイブ、プリモラッツ、ロスコフというスターが生まれ、その後にサムソノフ、ボルが続いたヨーロッパ。そして、スウェーデンの二人は常に中国という厚い壁に挑み続け、その壁を破って世界の卓球史を変えてきた。
現在、自国スウェーデン、そしてヨーロッパからも、彼らに続くような選手が生まれないのは、世界の卓球界にとっても不幸なことだ。彼らは今の世界の現状をどう見るのか。そしてその目に日本の変化はどう映っているのだろう。
●―長いキャリアの中でもっとも印象に残る試合は?
W ぼくは1987年のニューデリーでの世界選手権だね。病気になって団体戦を欠場した後にシングルスで決勝に行った時だね。あの時、下痢と発熱で団体決勝を欠場し、シングルスの時には体重が10キロくらい落ちていた。陳龍燦と滕義に勝った時に、ぼくは信じられないくらいにハイレベルなプレーをすることができた。あれはぼくのベストゲームのひとつだ。
P 99年ワールドカップで劉国梁に勝った試合かな。あの時は劉国梁が世界チャンピオンになった年で、中国で開催されたワールドカップだった。それに2000年クアラルンプールでの世界選手権、男子団体決勝の中国戦。孔令輝と劉国梁に勝った試合だね。
W ヨルゲンはやっぱりクアラルンプールでの中国戦だね。ぼくは1点しか取らなかったけど(笑)。ヨルゲンの2点はすごかった。
P ワルドナーのニューデリーの試合はすごかったよ。団体決勝を欠場した後のシングルスで中国選手を連破した。当時は中国が上位を独占していたのに、そこに穴を開けたし、次のドルトムント大会への大きなステップだった。
●―日本選手の中で印象に残っている選手は誰だろう。
W 斎藤清は印象にあるね。バックハンドはうまくなかったけど、フォアハンドだけであれだけの成績を残した。彼とは、14歳の時の中国オープンで試合をしたこともある。それに高島規郎も印象的な選手だった。
P ぼくは宮崎義仁かな。それに松下浩二だね。彼とは数え切れないほど試合をやった。一番の思い出は97年マンチェスターの男子ダブルス準決勝で対戦したことかな。とてもタフなカットマンだった。
●―卓球ファンにとっては89年にスウェーデンが世界チャンピオンになり、93年まで団体で3連覇し、そして2000年の団体で優勝するまでが、とてもエキサイティングな時代だった。なぜあれだけスウェーデンは強かったのか。
W あの時代、ヨーロッパのレベルも高かったけど、スウェーデンはヨーロッパではトップだった。次に狙うのは中国だった。そのためにチームとしていろいろ挑戦したし、質の高い練習をすることができた。
P 合宿にレベルの高いメンバーが集まり、中国と同じレベルかそれ以上の質の高い練習をすることができた。個人のレベルはもちろんだけど、グループとしてレベルの高い練習をしていた。
●―練習のシステムは、昔も今もそんなに変わっていないのではないだろうか。なぜスウェーデンがここまで凋落したのか。
P ぼくらの時代は、レベルの高い選手が集まって世界でベストの練習をしていた。でもその後、選手のレベルが低くなると同時に練習する機会も減った。でも、リンドが監督になって、以前のようにハードな練習をするようになっている。
W ぼくらの頃は、ヨーロッパのレベルも高くて、合宿にガシアンやセイブ、サムソノフなどが参加していた。
P 04年、08年のオリンピック前にはヨーロッパ選手が集まって合宿をした。ヨーロッパには良い選手がたくさんいるわけではないから、ヨーロッパ全体で中国に対抗できるように、合同で練習したりすることが必要なんだ。今はそうやってヨーロッパ全体、また日本や韓国もヨーロッパに来て合宿を行いながら、一緒になってレベルの高い練習をして、中国に対抗しなければ厚い壁は破れない。
W 日本の若い選手もみんなドイツに来て腕を磨いているからこそ、良い成績を出せるようになってきている。
●―世界の卓球界を見た時に、やはり残念なのはヨーロッパのレベルが落ちていることだ。
W 確かにこの落ち方はひどいね。若手ではオフチャロフがいるけど、とにかく質の高い練習をするしかないね。
P 70、80、90年代と比べても今は相当に落ちている。ヨーロッパ選手権でもボルやサムソノフが優勝するけど、彼らに対抗できる世界クラスのヨーロッパ選手が出てこなければいけない。そういうレベルの選手が少なすぎる。
W ぼくらやガシアン、プリモラッツ、ロスコフなどが消えた後の新しい世代の選手が出てこない。小さい国ではある強い世代のあとに新たな世代を作っていくのは簡単なことではない。スウェーデンでも6歳、7歳でコンピューターに触り始めるためにスポーツをやる子どもたちが減っている。
●―スウェーデンが80年代からの世界の卓球を変えたのは確かだ。卓球そのものも、練習もテクニックも。
P それはそのとおりだと思う。中国だって競争相手が必要だし、それによって卓球は発展していくものだ。
W 蔡振華(中国卓球協会会長)も退屈だと思うよ(笑)。
P チームで中国に勝つのはほとんど不可能になっているし、シングルスなら何人かが勝てるという状態だ。
●―日本には幸いにも水谷、岸川、松平健太、丹羽という才能のある若い選手が出てきたけど、彼らをどのように見ているのか。
P 80年代の日本選手と比べても柔軟性があるし、戦術も良い。昔は日本選手には共通の弱点があって、戦術も狭かった。今の選手は自分で独自のスタイルを作っている。以前はフォアハンドがいいけど、バックハンドは弱いという選手が多かったのに、オールラウンドなスタイルに変化している。
W 荻村の時代からペンホルダーが有利な時期があって、その後、日本は現代卓球に適合できない時代があった。今の日本選手は練習のやり方も変えているんじゃないかな。
P 日本は中国に挑戦するだけの良い才能を持った選手がいるのは確かだし、もっと経験を積んで正しい練習を積んでいけば、もっと強くなっていく。
W 以前、セミナーで日本各地を回っている時に、ロビングをしたり、いろんなテクニックを使うと、日本の指導者が途中で帰ったりしたけど、今はたぶん変わったんじゃないだろうか。日本の指導者には「君たちが見せたのはスウェーデン式で日本式とは違う」と言われた。日本は規則的な練習が多くて、ぼくらのように不規則な練習をすると受け入れてもらえなかったけど、今はたぶん理解してもらえると思う。
●―君たちから日本選手に何かアドバイスを与えるとしたら……。
P 基本は、ハードな練習を続けていくことだと思う。横浜の世界選手権では松平健太が馬琳に勝てる試合をした。自信を持っただろうし、他の日本の若い選手もそれを観て刺激を受けたはずだ。可能性を信じれば次には勝てるようになる。不可能なことはない。
W 横浜の世界選手権では会場も満員になったし、日本の卓球は良い方向に向かっている。水谷も良いし、松平も伸びているし、もっと良い方向に行くだろう。女子でも新しい選手が出てきている。もし世界で優勝することができれば、その日本選手はある程度大きなお金もつかむことができるだろう。それはプロスポーツとしては重要な要素のひとつにもなる。
●―日本では小さい時に卓球を始めるようになっている。その弊害というのは後に故障とか、ある時期での伸び悩みにつながりやすいことだ。スウェーデンでは小さい頃にいろんなスポーツ体験をさせると聞いているが。
P もちろん小さい時期にひとつだけのスポーツに偏るのは感心しないね。小さい時にいろいろなスポーツをやることで体のいろいろな部分が強くなっていく。スウェーデンではサッカーなどを多くやるね。卓球だけというように、小さい時に特殊な動きだけを繰り返すと故障も出るし、伸びが小さい。
●―日本では選手は指導者の前で頭を垂れ、指示を聞く。でもスウェーデンでは選手は指導者と対等に会話をするという印象がある。
P それはぼくらの国の文化だろうね。コーチとは一緒に時間を過ごし、ともに話し合っている。
W いつもコーチとは戦術のことなどを話し合う時間がある。チームというのは上下関係ではなく、コーチと選手は対等で、マッサーの人とも対等だ。その中でお互い話し合っていくのがスウェーデンのチームであり、スウェーデンの社会環境やシステムだ。それは卓球だけではなく、他のスポーツでも全く同じなんだ。
●―30年以上も卓球を続けてきて、卓球にとって一番大切なことは何だろう。
W 他のスポーツよりも卓球はメンタルが重要になる競技スポーツだと思う。台を挟んで近い距離でプレーするわけで、いろんなスタイルの選手と対戦する中でメンタルは大切だ。それにプレースタイルに大きな弱点がある選手というのはトップにはなれないね。オールラウンドなスタイルを作ることが必要だと思う。
試合で勝ちたいと思うことも重要だけど、卓球を愛していれば重圧を乗り越えられる。でも卓球が好きじゃなかったら重圧に押しつぶされるんだ。だから、どんな大会でも卓球を楽しむことが大切だね。ビッグゲームの準々決勝、準決勝、決勝でもプレーすることが楽しいと思えることが必要だ。逆にぼくにとっては1回戦や2回戦が難しかった。負けることが怖かったからだ。でも準々決勝とかに行ってしまえば卓球を楽しむことができるんだ。
それに戦術も重要だよ。戦術を考えて試合をしなければチャンピオンにはなれない。
P 何だろうな……。
W ばかみたいに打つことさ(笑)。
P (笑)そりゃ、少しおかしいくらいに打つことも大事かも。そうだな、自分を信じることかな。これは簡単なようでいて難しいことなんだ。そして自分のゴール、目標を持つこと。12歳の時に「俺は世界チャンピオンになるぞ」と目標を作ったら、その途中の段階で小さなゴールを設定することがとても大切なことだ。
そして、当たり前のことだけど、自分がやっている卓球というスポーツに興味を持つことも重要だ。自分が取り組む練習に興味を持つこと、そして試合での戦術に興味を持つこと。そうやって興味を持つことで自分の卓球スタイルを発展させることができる。
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二人のスーパースターは、饒舌だった。
日本での時間を楽しみ、リラックスした笑顔を見せながらインタビューに答えるワルドナーとパーソン。
国際舞台から降りてもなお、卓球の世界に生き、アスリートライフを過ごす二人は自然体だ。世界の卓球を変え、歴史に名を残した誇りと自負。いずれ伝説になっていくであろう二人が時を越えて変わらないもの――それは「卓球を愛している」という思いだ。
だからこそ、彼らの言葉には、彼らにしか伝えられないメッセージ性があるのだろう。 ■
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