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水谷隼全インタビューvol.3「その言葉のすべて」2008年全日本2連覇

6回戦でマッチポイントを取られながらも坪口(右)に勝った水谷

 

解放されましたね。

緊張感がすごかったから。

坪口さんの試合の時から

緊張感がありました

 

昨年の決勝の吉田戦は完勝と言ってよい内容だった。水谷の変化サービスに吉田は戸惑い、試合の主導権は常に17歳の少年が握っていた。ところが、今年は違った。前半から吉田はレシーブで崩れることなく、試合の流れをつかんでいく。リードを奪ったのは現チャンピオンではなく、前チャンピオンだった。しかし、水谷がジリジリと追いつき、試合は最終ゲームにもつれこんだ。

決勝の最終ゲーム、水谷は気迫を前面に押し出し、受けるのではなく、みかかった。しかも、この大会で1本も出していなかった秘策の「対吉田用サービス」を最終ゲームから繰り出した。

吉田との決勝用に練習していたサービスの披露。水谷が天才と呼ばれる所以は、この常人を超える発想であり、出色な感覚だろう。この卓球頭脳が、18歳という年齢と無関係に成熟し、試合中の冷静、かつ瞬間的な計算のうえに、勝利という答えを導き出している。

 「水谷は18歳だけど、卓球のスタイルとか考え方は30歳みたい。高校生じゃない。厳しいボールに対してさらに厳しいボールで返してくる点が水谷の高校生らしくない点。ずっとドイツで強い人たちと練習している成果でしょう」。吉田はこの恐るべき18歳の怪腕を決勝のあとにこう評した。

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●——決勝の吉田戦も、ゲームカウント0ー2からスタートした。

水谷 吉田さんが準々決勝で木方(協和発酵)さんに4ー0で勝った時点で、たぶん(決勝に)来る可能性は高いと思ってました。1ゲーム目は絶対取りたかったけど、サービスが全然効かなかったし、バックの調子も良くなくて凡ミスが多かった。3ゲーム目からはバックに来たボールはとにかく台に入れようとした。

 

●——0ー2から3ー2でゲームを逆転したけど、そこから最終ゲームまで持っていかれた。決勝の最終ゲームではそれまで使っていない「対吉田用サービス」を使ったとコメントしていたね。

 

水谷 最終ゲームの自分のサービスの3本目で使って、たしか吉田さんはミスをしました。その大会で初めて使いました。サービスには自信があるんですけど、1ゲーム目は去年の自分のサービスをうまくレシーブされたので、それがまぐれなのか、それとも研究されているのかわからなかった。吉田さんは去年よりレシーブは良くなっているけど、試合中に首をひねっていたりしたから、嫌がっているのがわかったので去年のサービスを使っていました。それにそのサービスからのほうが自分も攻めやすいし、ほかのサービスの場合、3球目が攻めにくい。

この(吉田用)サービスはネットの外側から入っていって(吉田の)バックにバウンドして、ミドルに曲がっていくようなツーバウンドする(左回転)サービスですけど、最終ゲームはほとんどそのサービスから攻めた。このサービスを出したら吉田さんも「あっ」という表情でした。「このサービスを取ってみろ!」みたいな感じで出して、案の定効いてました。これは下(回転)が8割、横(回転)が2割くらいの球質と、横が8割、下が2割というふたつの球種を使い分けていました。坪口さんにはばれているし、表ソフト(バック面)で回転が残ってくるので使わなかった。坂本さんと田 さんは左利きなのでドライブされるのが嫌だし、左利きに対してフォア前からは攻めにくい。だから吉田さんに対して使いました。

これは青森山田にいる時にはずっと練習していたし、ゲーム練習でも使っていたので、山田の人はみんな知っているサービスです。

 

●——最終ゲームはどのあたりでいけると思ったのかな。

水谷 7ー3くらいかな。いつも出足で2ー5、3ー5くらいで離されるのに、リードしたのでいけると思ったし、完璧に集中してました。

 

●——勝った瞬間は?

水谷 解放されましたね。緊張感がすごかったから。坪口さんの試合の時から緊張感がありました。

 

●——それはチャンピオンとしての重圧?

水谷 そういうのはなかったですね。ただ単に優勝したかった。まわりからはいろいろ言われるけど、前回の優勝もぼくはまぐれじゃないと思っているし、自分の腕に自信がある。自分のこの腕があれば優勝できると信じていた。

 

●——チャンピオンになったことで苦しむ人もいるし、それが支えになる人もいるけど。

水谷 苦しみも多かったけど、いろいろな方々に支えてもらった。もし負けても何も失うものはない。来年は(松下)浩二さんや韓陽さんに勝って優勝したいですね。

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